「赤身主体の短角牛は、そのまま調理してもよいのですが、ドライエージングにすると、いっそう旨味が濃くなり、赤身好きにはたまらないダイナミックな味わいになります」
ドライエージングは、湿度や温度をコントロールして菌や酵素の働きを活性化すると同時に、自由水を抜いて旨味を凝縮させる熟成法。その意味では、「黒毛和牛の倍の水分を含む褐毛和種や短角牛のほうが向いているのではないか」というのがシェフの考え方だ。
では、すべての褐毛和種や短角牛がドライエージングに向くかといえば、そう単純ではなく、肉のポテンシャルの高さも要求され、またドライエージングに耐えられるだけの枝肉の大きさも必要だ。
大きさだけでいうなら、黒毛和牛のほうが向いているという見方もあると思いますが、黒毛の場合は水分量が少ないうえに、脂が酸化の原因にもなります。いずれにしろ枝肉のポテンシャルの見極めは必要だと思います」
こうした条件をクリアし、"ドライエージング向き"としてシェフが選んだのが、北十勝ファームで肥育されている短角牛。牧場でのびのびと放牧肥育された短角牛のなかには、900キロまで育つ牛もいる。
「肉質も大きさも申し分ないので、味わい深いドライエージングビーフになるんです」
調理のポイントもいくつかあるが、特に重要なのは焼きのテクニック。低温調理がブームのようだが、ドライエージングビーフには向かない、と高良さんは言う。
「ドライエージングビーフの場合は、水分が少ないということをつねに意識しながら調理することです」
たとえば普通に肉を焼く場合、常温に戻してから焼くのが一般的だが、ドライエージングビーフの場合は肉の水分を保つために常温には戻さず、冷蔵庫から出したままの状態で過熱する。強火で表面を焼くのは結合水を逃がさないため。「常温に戻して低温で調理したら、肉の水分と同時に旨味も失われてしまいます。」
一気に表面を焼き固めたドライエージングビーフのローストは、シェフのイメージ通り、凝縮感のあるワイルドな味わい。特製の赤ワインソースの旨味とあいまって、奥行きある風味で肉好きを魅了する。
ドライエージング短角牛のローストとエシャロットのコンフィ
香りよく焼き上げたふたり分の肉は、そのままゲストのもとへ運ばれて、目の前で切り分けられる。赤ワインソースとフルムダンベールソース、2種のソースが添えられ、肉にのせたエシャロットのコンフィがアクセントになる。
チーズが主体の白いフルムダンベールソースとは対照的な赤ワインソースには、カベルネソーヴィニヨンを使う。煮詰めても酸がきれいに立ち、赤ワインのエッセンスが感じられるからだ。エシャロットのコンフィを黒毛和牛のローストと合わせる場合は酸味を強くするなど、合わせる肉によって酸味を調節している。
※食品に含まれる水分には結合水と自由水がある。結合水はタンパク質などと結合した水で、ドライエージングで微生物が繁殖に利用できるのは、温度や湿度によって蒸発や移動が起こる自由水のみ。
冷蔵庫から取り出したら塩をふり、冷たいままフライパンへ。フライパンにたっぷりのオリーブオイルを入れ、煙が出るくらいの強火で、揚げ焼きするように火を入れる。
肉の水分を逃がさないように表面を焼き固めるように焼き上げる。次にコンベクションオーブンに移し、180℃で6分間加熱したら、取り出して、15分間休める。
「表面以外、肉の内部には均一に火が通っているべきで、ミディアムなら全体がミディアムになっていなければいけない。部分的に色が違っていたりする状態では、焼きが成功しているとは言えない」と高良シェフ。
雄大な山々に囲まれた牧場で、安全な国産飼料によって肥育されている北十勝ファームの短角牛。22~30カ月の生育、肥育期間を経て、体重が700kgを超えると出荷される。
問い合わせ先/㈱マルヨシ商事 ☎047-353-4129
本記事は雑誌料理王国245号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は245号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。