歴史、多様性、食との関係。アルザスワインの魅力に迫る


偉大なワインは人々が綴ってきた歴史と、素晴らしき風土から生まれる。アルザスワインを味わえば、それがすぐにわかる。そして、ここ日本でも多彩な食と結びつき、豊かに文化を広げる。それもまた、アルザスワインの魅力だ。

アルザスワインの歴史


アルザスワインは、類まれな気候、地質、地勢の中で幾世紀にも渡り育まれてきた。ぶどう栽培は紀元1世紀、ローマ人たちの先見により導かれた。ゲルマンとローマが交差するこの地は古くから今に至るまで文化と経済、近年では欧州議会がストラスブールに置かれるなど交流の地でもある。5世紀から10世紀には「元気と陽気になるワイン」として活況を呈し、欧州における主要なワイン産地として名を馳せる。

17世紀、「30年戦争」による戦渦の影響で長く疲弊したものの、その間も何世代にも及ぶ辛抱、尽力で畑とワインは守られ、20世紀、再び息を吹き返す。以降、この土地の恵みとワインの品質を守るための厳格なルールと、有機やバイオダイナミック農法の先駆者となるなど進取の気風、また世界中の多様な食文化と結びつく多様性のあるワイン造りで輝きを放ち続けている。

アルザスワインを生むテロワール


偉大なワインを生むその類まれな気候、地質。アルザスはフランスでも年間降水量500~600mmという最も降雨量の少ない地域のひとつで、さらにぶどう畑はヴォ―ジュ山脈の斜面のすそ野、標高200~400mに広がり、その高さゆえ、太陽の恵みを存分に享受することができる。このためぶどうはゆっくり成熟し、豊かなアロマを花開かせる。
太陽と言う共通の恵みに多様性をもたらすのが地質だ。花崗岩や石灰岩、粘土、砂岩、その組み合わせ。こうした様々な地質が複雑に入り組み、アルザスらしさを体現するぶどう品種を生むだけではなく、そのブドウ品種が地質によってさらにそれぞれの個性を発揮する。これらの土地から生まれるフィネス、骨格、ボディ、酸は、豊かなアロマと結びつき、アルザスらしさをしっかりと持ちながら、無限のバラエティを生み出すのだ。

厳格なルールでワインを守り、育む~3つのアペラシオン


与えられた自然の恵みを、人の力で守り、育む。そのために、アルザスワインは3つのアペラシオン(AOC:原産地統制名称)を選定し、それぞれのカテゴリーの中で、適した基準を設け、その価値を高めている。

AOCアルザス

1963年に生まれたアルザスでは最も歴史あるアペラシオンだ。認められるのは7つのぶどう品種から造られる単一品種のワインと、複数品種のアッサンブラージュによる「エデルツヴィッカー」、より徹底した基準が適用される「ジャンティ」。アルザスワインの品質を味わいながら、各地の、また生産者それぞれの個性が大いに楽しめる。なお、2011年以降、AOCアルザスの中でもより厳しい規定を満たしたワインは、地理的表示または「リュー・ディ」の名前を付記することができるようになり、テロワールをより反映したワインとして親しまれている。

AOCクレマン・ダルザス

瓶内二次発酵のトラディショナルな方式で醸造される、快活ながらも繊細なスパークリングワイン「クレマン・ダルザス」。1976年に制定。ぶどう品種は主にピノ・ブラン。ピノ・グリ、リースリング、シャルドネ、ピノ・ノワールといったアルザスを代表する品種も使われる。

AOCアルザス・グラン・クリュ

1975年制定。より厳しい品質基準を満たしたワインに付与される。特別な51のテロワールで生まれ、例外を除きその地で育まれたリースリング、ゲヴルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカという「⾼貴品種」と呼ばれるブドウしか認められない。気品ある、テロワールと匠を存分に反映したワインたちだ。

高品質白ワインを生み出す「高貴品種」と呼ばれる4品種

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©ChezElles-ConseilVinsAlsace

リースリング

辛口で気品のある果実味。柑橘類や花の香りに加え、ミネラルのニュアンスも伴いフィネスに富む。爽やかさと質感、アロマの表現力が高いレベルでバランスを保つ。
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ゲヴルツトラミネール

豊かな質感とアロマが特徴。エキゾチックなフルーツや花、スパイスの香りが漂う。力強さと丸みを両立させた質感とその豊潤で複雑なアロマとが溶け合い、余韻まで広がる。

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ピノ・グリ

リッチでコクがあり、スモーキーなニュアンスもある。しかし、重く感じさせない、爽やかなグリーンと、フレッシュさが心地よいバランスを生む。
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ミュスカ

旬のぶどうをそのまま頬張ったような上品で自然な甘味とアロマ。それがアルザスならではの豊かな酸という軸があって、ピュアで爽やかな辛口になっていく。

アルザスの多彩を堪能できる7つのワイン

アルザスワインは主に品種の名前を、そのままワイン名としている。それはぶどうそれぞれの個性を大切にするからこそ。さらに、その思いを込めながら、ルールと匠によってワインとして花開く。7つのワインのイメージを綴ってみよう。あなたにもアルザスワインをグラスに注ぎ、香り、味わい、余韻……五感で楽しみ、広がる世界をイメージしていただきたい。

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リースリング・ダルザス

洗練と鮮烈、芳醇にして高貴。美しくも力強く、伸びやかな酸が香りから余韻までを貫き、その間、優雅な白いブーケとフレッシュでありながらも熟した桃や梨がリラックスに導き、控えめなハーブの心地よい苦みが深みをもたらす。上質な魚料理・甲殻類、白身の肉と驚くほど自然に結びつく。

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ゲヴルツトラミネール・ダルザス

煌めくトロピカルフルーツ、濃密なバラ園、国境のスパイス市場…アロマからアルザスではないどこかに連れていかれるようで、芯を支える酸とともに味わえば、これこそがアルザスなのだといううれしい混乱。アジア、中南米、北アフリカ…刺激的な食とのペアリングは素敵な食の冒険。

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ピノ・ノワール・ダルザス

小さな赤い果実の可愛らしい香りは溢れんばかりの赤い果実の風味へと変わり、味わえば滑らかで洗練。引き締まったタンニンが都会のエレガンスを想起させる。素朴な木のテーブルと野趣ある料理も、白いテーブルクロスで供されるモダンな一皿もこの赤ワインがあれば魅力が引き出されるだろう。

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ピノ・グリ・ダルザス

白ワイン、辛口。このワードだけで想像するのは単なる爽やかさや酸の強さだろうか? アルザスのピノ・グリはそこに収まらない濃厚さ、スモークさ、広がり、余韻を持つ。テリーヌ、フォア・グラ、コンテ、広東の冷菜、白身肉とフルーツの白和え。連想される食がその個性を物語る。

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ミュスカ・ダルザス

春から初夏にかけての欧州の旬と言えばホワイトアスパラガス。アルザスのミュスカが持つピュアで爽やかさも春から初夏をイメージさせるもの。このペアリングは鉄板。さらに豊かなアロマが甘味を伴う複雑で濃厚なソースでも調和を魅せる。あわせるアペリティフのメニューを考えるとアイデアが止まらなくなる。

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ピノ・ブラン・ダルザス

初春の生き生きとした輝きとほろ苦さから、桜咲く季節の可憐でやわらかい季節へと、春の移ろいをグラスの中で味わえる。ぶどうの瑞々しさをそのまま感じられるほのかにフルーティーでフレッシュな香り。テラスのカジュアルな場面や休日の朝食、少しリッチなピクニックにも楽しい。

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シルヴァネール・ダルザス

7つの中でもっとも爽やかさを楽しめるワイン。軽やかさの中で白い花、積んだばかりのハーブに、黄色い柑橘をぎゅっと絞ったようなフレッシュさは、軽やかな料理と引き立てあう。アサリとガーリック、シンプルなロースハムや白ソーセージ、フリットなどオイリーな料理でも鮮やかにウォッシュしつつ旨味も堪能できる。

さらにアルザスが広げるワインの魅惑

スイートワイン

辛口と言われるカテゴリーだけではなく、豊かなワインとの関係を広げる甘口もアルザスの多様性。

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ヴァンダンジュ・タルディブ

収穫を遅らせることにより過熟したぶどうから造られたワインに冠される。収穫を遅らせることにより生まれる高い糖度と酸度がもたらす、甘美でソフトながら力強さを持つワインで、デザートからチーズというスイートワインの定番のペアリングから肉料理、辛みの強い四川料理など、ユニークな世界を楽しめる。

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セレクション・ド・グラン・ノーブル

アロマ、糖度、酸度を高くする貴腐菌が付着したぶどうのみを選果し収穫。ヴァンダンジュ・タルディブの魅力はそのままに、奥ゆかしい第一印象から次第に芯の強さと複雑さを感じさせ、長く豊かに続く余韻にグレードの高さが存分に感じられる。食とのペアリングはもちろん、ゆったりとした時間とこの一杯という贅沢も。

アッサンブラージュ

単一品種が基本のアルザスワインで、AOCアルザスにおいて認められているアッサンブラージュ(ブレンド)の2種。

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エデルツヴィッカー

アルザスの優れたぶどうをブレンドするので「エデルツ」=高貴な「ヴィッカー」=ブレンド。とはいえ気軽にアクセスできるカジュアルな白ワインで、1000ml入りのボトルも多く、楽しく食卓を囲める存在。数種類のぶどうをブレンド、同じぶどうでも違う醸造過程を経たもののブレンドなど様々なスタイルがある。

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ジャンティ

ブレンド比率などが自由なエデルツヴィッカーとは違い、最低でも50%のリースリング、ミュスカ、ピノ・グリ、ゲヴルツトラミネールの高貴4品種を使用し、残りはシルヴァネール、シャスラ、ピノ・ブランが使われるなど厳密なルールが適用される。多彩なアルザスの深みにさらに引き込まれる喜びがある。

アルザスが誇る至高のグラン・クリュ

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ワインに特別な特徴を与えるテロワール。それはただそのテロワールが存在するから成立するものではなく、その特徴を捉え、絶え間ない努力でぶどうに、ワインに反映してきた歴史があってこそ成立する。それがアルザスのグラン・クリュだ。特別な51のテロワール、例外を除きその地で育まれたリースリング、ミュスカ、ピノ・グリ、ゲヴルツトラミネールという「⾼貴4品種」と呼ばれるブドウしか認められない。

例えば「猛々しいドラゴンが、太陽の降り注ぐこの土地にその血を分け与えたかのような、壮大でデリケートなワインを生み出すテロワール」と称されるグラン・クリュ ブランド/テュルクハイムのリースリングは、繊細ながら力強いミネラルに、果肉ごと味わうかのような豊かな柑橘が複雑に絡み合いながらスケールを広げていく。

同じリースリングでもグラン・クリュ シュネンブルグ/リクヴィールでは、静かな潜伏期間を経て得たやわらかい肉付きと優しい広がりの中で、電光石火のミネラルがきらめき、一瞬にして五感を目覚めさせる驚きがある。51のテロワールとそれを活かす匠。グラン・クリュは、まさに偉大なワインの証明でもある。

text Daiji Iwase

紀元1世紀からローマ人により導かれ、何世紀にもわたり発展を遂げてきたアルザスワイン。東をライン河、西をヴォージュ山系に挟まれたアルザスは、北部に位置しながらも気候に恵まれ、南北100km、東西1~5kmの1万5000haの畑から年間約95万hlのワインが生産されている。そのワインは基本的に単一品種でつくられ、生産量のおよそ90%を辛口白ワインが占める。生産量の1/4強にあたる甘口白ワイン、赤ワイン、スパークリングワインにも根強いファンが多い。そのピュアで繊細な味わいは、世界中の人々から愛されている。


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