「培養肉」をご存知ですか? これは牛や豚、鶏、魚など動物の細胞を培養して作るお肉のことで、海外ではすでに実用化が始まっています。
約1年半前、料理王国2020年12月号のフードテック特集で、培養肉の中でも難しいといわれる“分厚い培養ステーキ肉”を作ろうと研究する、東京大学大学院情報理工学系研究科および生産技術研究所の竹内昌治さんを取材しました。果たして培養ステーキ肉とはどのように作られるのでしょうか。まずは当時の記事を振り返ってみます。
現在、世界各国で研究が進む培養肉。その技術はまだ発展途中で、生産性コストの高さなどの課題もあり、まだ商用には達していない。しかしながら、あと1~2年後には、ミンチ状の培養肉を使ったハンバーガーが普通に買えるようになると予想する専門家もいる。培養肉はもはやSFの世界の話ではないのだ。
日本国内では、日清食品ホールディングスと東京大学大学院情報理工学系研究科および生産技術研究所の竹内昌治教授が共同で進める、培養ステーキ肉の研究が注目を集めている。丸いシャーレに入った、厚さ8mm、縦横約1㎝の小さな肉塊がそれだ。培養肉に厚みを出す技術は世界を見渡しても異例で、日清と東大はそのトップランナーである。ミンチ肉を培養するのは単に細胞を増やせば良いので比較的簡単と言われるが、ステーキ肉のような肉塊は、細胞同士を融合させて、筋肉に近い立体構造を作る必要がある。この肉塊はどのように培養したのか、竹内教授に教えてもらった。
「まず細胞を入れた細長いコラーゲンゲルを、スリットを設けながら横に並べて培養すると、線維の向きが揃った細胞のシートができます。さらにこのシートを重ねていくと、立体的で厚みのある培養肉になります」
竹内教授の専門分野は「バイオハイブリッド」。生体と機械のいいところをミックスさせて新しいシステムを作るという分野だ。培養肉もその一環として10年前から目を付けていたそうだ。「当時僕は色々な場所で培養肉を作りたいとアピールしていたんです。それに唯一賛同してくれたのが日清食品さん。2017年から共同研究がスタートしました」。両者が目指すのはリアルミートの再現。2025年までに、厚さ2㎝、縦横7㎝、およそ100gの肉塊を作る技術を確立することが目標だ。培養肉に大きさと厚みを持たせることができたら、脂肪組織を加えることも課題となってくる。
実験室で誕生した培養肉を食べるには大学の倫理委員会にかける必要があり、現在はそのための資料を準備中で、竹内教授自身はまだ培養肉を食べたことがないそうだ。食感や味については「本物ほど強くはないが、肉の風味は感じられるのではないか」と予想する。また培養肉が世の中へ浸透するには、技術向上や規制問題の他に、消費者にストーリーを伝えることが重要と考えている。「例えば大豆ミートは肉らしい味に近づけるために大豆の遺伝子操作をする場合がありますが、培養肉はその必要がありません。地球環境にも優しく、食品ロス問題にも有用です。こういったストーリーを消費者に伝えられれば、手に取ってもらえると思います」。
*2022年4月現在、竹内さんと日清食品の共同研究ではようやく、培養肉を「作る」だけでなく「食べる」研究がスタートしました。その詳細についても近々、続報をお届けできる予定です。ぜひお楽しみに。
text & photo : ナナコ(料理王国編集部) / 2020年12月号から記事を抜粋しています