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日本で初めて〝食べられる″培養肉の作製に成功。その出来栄えはいかに?


培養肉とは、牛や鶏など動物の細胞を増やして作るお肉のこと。畜産が与える環境負荷やアニマルウェルフェア問題、人口増加による食糧不足など、諸問題の解決の糸口として、世界各国で研究が進められています。

約1年半前、料理王国では牛の細胞を使って“分厚い培養ステーキ肉”を作ろうと日清食品HDと共同研究を進める、東京大学大学院情報理工学系研究科の竹内昌治さんを取材しました。そしてこの春には、東大×日清が、日本の研究機関として初めて培養肉を“食べる”ことへの承認を得ました。竹内さんに再びインタビューし、培養肉はいったいどんな味だったのか、また実際に口に入れることで見えてきた今後の課題などを聞きました。

——竹内さん、今回もよろしくお願いします。前回の取材は約1年半前、2020年10月ごろでしたが、「実験室で作った培養肉を食べるためには大学から承認を得る必要があり、それが難しい」とおっしゃっていましたね。ようやく食べる承認がおりたそうで、本当におめでとうございます!

ありがとうございます。申請が通ったのは2021年11月18日。僕らにとってはひそかに、大切な記念日になっています。日本国内の研究機関では初めて、培養肉を食べて良いという承認を得たのですから!飲める培養液を作ったり、細胞培養の足場(ゲル状のもので、これを基盤にして肉が出来ていく)を食べてみたり、色んな準備段階を経て、最終的に肉を食べたのは3月29日、肉の日でした。

——実際に食べてみて、まずは何を思いましたか?

とても興奮しました。培養肉研究に目をつけたのは10年以上前のことで、日清食品さんとの共同研究が始まったのは2017年ですが、これまで一度も口に入れたことがなかったですからね。

試食の様子。右が東京大学大学院情報理工学系研究科の竹内昌治さん
試食の様子。右が東京大学大学院情報理工学系研究科の竹内昌治さん

——培養肉の味や食感はいかがでしたか?

味や食感に関しては、僕はそれほど期待していませんでした。きっと水っぽくて、口に入れたら溶けちゃうのかなと思っていたんです。でも食べてみると、意外なことに噛み応えがありました。数回噛んでも、まだ口の中に残っていて、驚きましたよ。また味があるとすれば、培養液は生理食塩水に近いものですから、そのしょっぱさがあるだろうと予想していましたが、海産物を思わせるようなうま味もありました。ただ現段階では目をつぶって食べて“これは牛肉だ”と分かるような風味は出ていませんでした。

——噛み応えがあったのですか!海産物のようなうま味とは不思議ですね。それはどこから由来しているのでしょうか…。

おそらく培養液、足場、細胞、この3要素が影響しているのだろうと思いますが、突き止めるのはこれからです。まだ美味しいお肉が出来たということではなくて、食べる環境が整ったという段階。でもそれが重要なんですね。食べてみると、牛肉と比べて何が足りないのかということを、舌で理解しながらフィードバックができます。そういった意味で、研究室で作ったお肉を食べる体制が整ったというのは、大きな進歩です。

官能検査では、培養肉を沸騰したお湯で2分間茹でて、何も調味せずに試食した。写真は調理後の培養肉

——なるほど、確かに大きな進歩ですよね。食べてみて気がついたこと、思いついたことなどはありましたか?

現在の培養肉は、牛肉の風味が足りていません。ではそもそも牛肉の風味とは、一体何なのでしょうか。現段階では肉に脂肪を入れていないのですが、牛肉の赤身を食べても牛肉の風味はありますから、僕は脂肪よりもひょっとしたら鉄分が重要なのではないかと思っています。

鉄分といえば、細胞の中にあるミオグロビンと、とさつ後に血抜きをしても細胞の中に残る赤血球由来のヘモグロビン。スーパーで売っている牛肉にはどちらも入っています。牛肉を牛肉とたらしめている成分は何なのか、何をどれくらい付与したら培養肉が牛肉の風味に近づくのか、これは基礎科学としても、とても興味深い謎です。

実験室での培養風景
実験室での培養風景

——こちらの研究では「2025年までに分厚い培養ステーキ肉を作るための技術を確立させる」という目標があるそうですが、風味の再現のほか、課題はなんでしょうか。

今回食べたのは薄いお肉ですが、これらを層にしていけば分厚くすることができます。でも分厚いので肉の中心までどうやって栄養を行き渡らせるのか、これが難しい。

また培養液や足場は、牛の血液から由来しています。血液はとさつ直後に捨てられてしまうので、原理的にはロスを活用できるわけですが、最終的には細胞以外は全てアニマルフリーを実現させたいです。

——私は食べられるようになったらぜひ一度食べてみたいですが、培養肉に抵抗感を持つ人はまだまだ多そうです。

大切なのは社会に受け入れられることです。一度でも問題が起きてしまったら、悪いイメージがついて、誰も食べたくなってしまいますよね。食の“安心”をどうやって作っていくのか。それには規制が重要になってきます。

ただ規制をガチガチに固めすぎてしまうと、作る側のコストと時間がかかり、実用化が遠のいてしまいます。ルール作りはまだまだこれからですね。農水省が立ち上げたフードテック官民協議会を中心に議論がなされています。

——コロナ禍では食肉の輸入が遅れたこともありましたし、現在はウクライナ戦争の影響で家畜の餌代が高騰しています。培養肉をはじめ、代替肉への注目度がますます高まっていきそうですね。

この先なにが起こるか分からない世の中では、地産地消が重要です。そのひとつのオプションとして、代替肉がフィーチャーされることもあるのだろうと考えます。実際に新型コロナウイルス感染症によるパンデミックや、ウクライナ危機など、たった数年間のうちに予期せぬことが次々と起こっています。

大量生産・大量消費は今後、全世界的に難しくなっていくでしょう。今のようにフードロスを許容する世界にはなっていかないんじゃないでしょうか。そのときに培養肉がひとつの選択肢として存在できるように、これからも研究を進めていきます。

text・photo:ナナコ(料理王国編集部)、写真提供:東京大学竹内昌治研究室

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