料理王国8月号の特集、「オーベルジュ進化系」。山形県西川町にある出羽屋の編集こぼれ話。


取材先で出会った誌面で紹介しきれなかった様々な事柄をお伝えする野々山の編集長日記。料理王国8月号の特集「オーベルジュ進化系」の6件の取材先から、スタッフが届けてくれた編集こぼれ話。第5弾は山形県西川町の「出羽屋」の取材から。ライターの上村さんの便りが届きました! 山岳信仰の聖地として知られる月山の懐で100年。4代目の主人が考えるこれからの出羽屋とは?

今も修験者たちが出入りしていそうな鄙びた入口から奥へと進むと、そこには明るくモダンな空間が広がっていて驚かされる。

古いものと新しさのほどよい調和に海外からのゲストも惹きつけられる

「なんでも手に入る世の中だから、お客さまには、ここにしかない昔から変わらぬ山の暮らしを体感してほしい」と「出羽屋」四代目当主の佐藤治樹さんは言います。先祖代々、山とともに生き、山での流儀を守ってきたからこそ言える言葉で、その言葉通り、佐藤さんは山菜料理の老舗としての看板を厳格に守り続けています。

山菜をはじめとする地元食材を使うことは初代からずっと続けていること。

だからといって進化や改革を否定しているわけではありません。「出羽屋」には海外からも多くのゲストが訪れるため、より居心地のよい空間を目指し、柔軟な発想で改築なども続けています。

伝統を守りつつ、古いものに新しいものをほどよく美しく調和させている――それが訪れる人をとてもワクワクさせてくれます。

新旧の融合の楽しさが、まず感じられるのは、古めかしい玄関とモダンなラウンジで、今も修験者たちが出入りしていそうな鄙びた入口から奥へと進むと、そこには明るくモダンな空間が広がっていて驚かされます。

また、古い窓枠をそのまま残しつつ、窓と反対側には近代的な白壁が続く長い廊下にも、新旧融合の趣が感じられます。廊下の片側に目をやれば「出羽屋」の歴史が息づき、もう片方には今がある――。

すべてを新しくすることもできますが、「古いものを上手に残していきたい」と佐藤さん。廊下の先に、1日1組限定で絶品料理を提供するシェフズテーブルが用意されていると聞くと、この廊下の雰囲気が一層特別なものに感じられます。

シェフズテーブルが。窓の外には手入れの行き届いた庭が広がる。
古い窓枠を残してリニューアルした廊下。写真左側の白壁の内側には下の写真のような空間があり、さらにその内部には開放感ある。

客室についても、移築した古い蔵を改装して、昔ながらの和室の雰囲気を大切にしながら、そこに座り心地のよい欧風のイスを置くなど、機能性を追求するだけでなくレイアウト面での新しい表現にもこだわっています。

「お客さまのアドバイスを大切にしながら、少しずつですがリニューアルを続けています。実はお料理についても、山菜をはじめとする地元食材を使うことは初代からずっと続けていることですが、調理法に関しては新しい発想に基づくこともあります。それに合わせるアルコール類や食器についても、若い作家さんの感性を尊重して取り入れています」

山形は昔から紅花や米が特産品で、それらは北前船に積まれて最上川を進み、堺の港へと運ばれていました。荷下ろしの後、帰路に積まれたのが伊万里焼きだったため、「出羽屋」でも、器として用いるのはほとんどが伊万里焼でした。
「でも、最近では若手作家の陶器も愛用していますし、器以外にテーブルを彩るマットやナプキンなども、うちの料理に合うものを選ぶようにしています」

ゲストの目の前で佐藤さんが料理を提供するシェフズテーブルでは、調理過程においてもさまざまな陶器を使用。
店名入りのナプキンはカタクリの花で染めたもの。和紙のランチョンマットにはフキノトウが練りこんである。
「山菜にはワインも合うんですよ」と言う佐藤さんおすすめのワイン。山菜と金継ぎをイメージしたというエチケット(中央)も印象的。

古いものと新しいものをいかにセンスよくナチュラルに融合させるか――。山菜料理を楽しみ、多彩な技に感嘆するだけでなく、こうした点でも佐藤さん率いる「出羽屋」に学ぶことは多いようです。

text:Kurumi Kamimura photo: Gaku Yamaya

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