【知っておきたい食の豆知識】パスタの歴史と種類について


パスタの歴史

 パスタはイタリア料理の大スターである。特に米を食事の中心に据えている日本人にとって、穀類を使ったパスタ料理は無条件で愛する存在だ。では他の国にパスタはないのか。いや、地中海を見るだけでもギリシャ、トルコ、フランスなどにある。しかしどれもが主菜の添えであったり、数ある料理のなかのほんの一部でしかない。これに対してイタリアはパスタが一品の料理として完成し、コースのなかでも、重要な位置にある。

 歴史を見ると、パスタは紀元前八世紀から始まる古代ギリシャ人の移植と共にもたらされたとされている。今でさえ白亜のギリシャ神殿を直に見れば目を丸くしてしまうのに、当時の南イタリアの先住民族の驚きはどれほどだったろうか。そのギリシャ人が文明度を測るのが、パンを食べているか否かという事だった。パンを作るには酵母をコントロール出来、なによりもしっかりした製粉技術があるという事が必要だ。イメージしてみて欲しい。原始的な擦り石でつぶした程度の小麦なら、生地をこねている時に手が傷だらけになってしまうはずだ。

 製粉技術を受け継いだ古代ローマ人の様子は、ポンペイのパン屋の遺跡に行ってみればすぐわかる。裏手の作業場には、人の身長ほどの石臼が5基もあり、それだけではなくパスタをこねる設備まであったのだ。

 製粉機で作った細かい粉は、当然パスタにも使われた。イタリアでのパスタの最初のリチェッタはアピーチョ(アピキウス)の料理書に載っている「Patina cotidiana」調味料などで味をつけた溶き卵を火にかけてとろみをつけ、その中に茹でた肉類を加えて、ラガヌムと層になるように重ねる。このラガヌムがパスタの事で、ラーガネと名前を変え、最後にはラザーニャと呼ばれるようになっていく。

 一方、乾麺の方はどうだろうか。8世紀からシチリアを占領していたアラブ人の記録に、「パレルモ近くの街で乾麺を作り、カラブリアにも輸出している」と書いてある。好奇心が抑えきれずこの街に行った時に、まず初めに水があるかどうかという事の確認をした。古代ローマまでは製粉の動力は家畜だったが、アラブ人になってからは水力を使うようになっていたからだ。水力の使用は製粉量が格段に増え、しかも日光で乾燥させると数年も持つ夢のような食材が量産される。ルネサンス期には、乾麺は超高級食材で庶民には手の届かないものだった。

 ではパスタとはどのようなものを指すのだろうか。ニョッキやポレンタとの違いは何か。それは「こねる」という事。パスタの定義は「粉と水を合わせてこねたもの」なのである。

 一般的にパスタは3種類に分類される。生麺・乾麺・詰め物パスタである。前述のように生麺は古代からの最古参であって、次にアラブ人が持ってきた乾麺。そして手のかかる詰め物パスタは、さらに時代が下って貴族たちのお抱えコックたちが作った芸術品という順で、イタリア社会に登場したのだった。

〔パスタの定義〕
粉+水+こねる

〔パスタの分類〕
1.生麺 2.乾麺 3.詰め物パスタ

中北部のパスタ(軟質小麦)

イタリア料理の魅力の一つはその多様性である。一つの国なのに、ミラノ―フィレンツェ―ローマ―ナポリ―パレルモを旅してみると、いくつもの国を周ったような気がする。その理由は地形である。イタリアでは山岳地帯、丘陵地帯、平野、海岸線、島とすべての地形が北から南へ続いている(全土が山岳地帯のスイスと比較して見ると分かりやすいだろう。どの地でも同じ食材が採れるので、料理はみな似ている)。この多様な地形と気候からは、当然多様な食材が生まれる。

そしてパスタの地方性は、なによりもこのような条件下で育つ粉の違いから生まれてくる。中北部は軟質小麦、南部は硬質小麦という分布がそれである。生地を作るにあたって扱いやすいのは硬質小麦だが、気候のせいで中南部でしか栽培できない。そこでこの地域では、グルテンの含有量が少ない軟質小麦の生地を薄く作る場合には卵を入れる。これはもちろん味の面もあるが、本来は生地を安定させるためである。 タヤリンのように卵黄だけを使う、または卵黄の割合が多いパスタは、本来の生地の安定というよりは「贅沢のため」。タヤリンの故郷は、豊かな州ピエモンテのさらに豊かな平野部であるという事を見ればわかるだろう。軟質小麦と水だけのパスタも各地にあるが、薄く延ばすことは出来ず、うどんのようにかなり太い形状になってしまう。卵入りのパスタとは全く違う食感で、それはそれで十分に美味しいものである。

ここまではパスタの「粉と水」のなかの「水」の部分だが、北部では「粉」の部分にも多様性があるのが特徴である。つまり軟質小麦の育たない地域があり、そこでは小麦粉以外の粉が使われるのだ。中央アルプス山中のヴァルテッリーナ地方ではそば粉、東側ではライ麦粉、アペニン山脈のトスカーナ州とロマーニャ州のあたりでは栗粉が代用として使われる。代用―本来ならば軟質小麦を使いたいのだが、寒冷地のため育たないので別の粉を使うという意味である。しかし現在では却ってそれが、その地の料理の魅力となっている。

 軟質小麦のパスタは、形状も多彩だ。タリアテッレのように長いもの、ガルガネッリのように中くらいのもの、パスタラーザのようにチーズおろしでおろした小粒のもの、また麺棒などを使わずピーチのように手で丸めながら延ばしたものもある。この形状の多様性は、小麦の性質ゆえである。

 次に、ソースとの相性について述べよう。基本は「細い」「小さい」「凸凹している」ものと「太い」「大きい」「つるつるしている」ものとのグループに分ける。前者はソースが絡みやすい、つまりより多くのソースがまとわりつくので口にたくさん入ったとしても良いバランスになる軽いオイル形のソースと合わせる。後者は絡みやすいラグー系またはチーズ系のものと合わせるのが基本である。要は口の中に入れた時に良い加減になる事が必要なのだ。

パスタの歴史と郷土性 タヤリン
「タヤリン」
ピエモンテのパスタで、バターやラグーなど、しっかりしたソース が定番。今回は同ピエモンテのチーズ「カステルマーニョ」と初茸を合わせている。
パスタの歴史と郷土性 ガルガネッリ
「ガルガネッリ」
エミリアロマーニャのパスタで、もっちりした食感が特徴。よく噛んで食べるパスタだけに仔兎のサルシッチャやオリーブなど一体感のあるソースが定番。

北部の生麺

州名パスタ名
ピエモンテアニョロッティ
タヤリン
リグーリアアニョロッティ
コルツェッティ
パンソーティ
ピカッジェ
ラヴィオリ
トロフィエ
ロンバルディアアニョリーニ
カソンセイ
パスタ ラーザ
ピッツォッケリ
トルテッリ
トレンティーノ-
アルト・アディジェ
ラヴィオリ
タリアテッレ
フリウリ-
ヴェネツィア・ジューリア
バウレッティ
チアルゾンズ
ラザーニェ
オフェッレ
ヴェネト

ビーゴリ
カスムツィエエイ
パパレーレ
エミリア-
ロマーニャ
アノリーニ
カンネッローニ
カッペッラッチ
カッペッレッティ
ガルガネッリ
ラザーニェ
マッケローニ
マルタリアーティ
バルバデッレ
ピサレイ
タリアテッレ
トルテッリ
トルテッリーニ
パスタ ディ カスターニャ

text 長本和子 photo 花村謙太郎 撮影協力 クリマ ディ トスカーナ 佐藤真一



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