皿が運ばれた瞬間、リストランテのテーブルが和食店に変わった。散らした柚子皮、炭火で焼いた松茸とカマス、そして焦げた杉板の匂いが混在する。赤黒い器の上に黒い板というビジュアルにも、目を奪われる。
昼夜ともにコースのみで、パスタは冷製1皿、温製1皿。和食からイタリアンへ転向したシェフの山口正さん。前菜の後の冷製パスタは、和食の八寸にあたると考えている。季節感と遊び心で楽しませ、続く料理への期待感を高める八寸。皿目のパスタはつねに趣向を凝らすという。
写真の料理は本来、カッペッリーニの真上に具を挟んだ杉板をのせる。ゲストが板を外し、具を取り出し、崩しながらパスタと一緒に食べるようすすめる。口の中で一体化し完成するパスタ。一連のプレゼンで食べ手をコースに引き込むのが目的だ。
日ごろ親交の深い、京都の和食の料理人に教わり、日本料理の古典書も紐解くという山口さん。「絵も写真もない、文字だけの料理書を見ていると、イメージが膨らむんです」。現代の日本料理店でも出合えないような古い料理の記述を見て、味わいを想像し、ヒントを得ることも多い。
実際にこのパスタも、割烹で焼き物を食べていて思いついた。焼いた魚の横に山桃のシロップ煮が添えてあったのだ。「甘くてみずみずしい山桃で口の中を洗う感覚を、フルーツトマトに置き換えれば、冷製パスタになるのでは」と。考えるうち、自身が割烹時代に作っていた杉板焼きを思い出した。杉の香りが間に挟む食材に移る。その香りも楽しんでもらう、渋い趣向の一品が生まれた。
材料(1人分)
カマス 30g/松茸 30g/日本酒 適量/フルーツトマト 2個/塩 適量/粒マスタード 適量/オリーブオイル 適量/カッペッリーニ 30g/黄柚子(皮) 適量/ルイユ 適量
ルイユ…サフラン風味のニンニクマヨネーズ
作り方
1.カマスを三枚におろし、重量の0.8%の塩をして、脱水シートに包んで冷蔵庫で半日間マリネする。ひと口大に切り、炭火で皮目に軽く焦げ目がつく程度に炙る。
2.松茸を刷毛で掃除して、かさの部分をひと口大に切る。ボウルに入れて日本酒で軽くマリネし、炭火で軽く炙る。
3.フルーツトマトを湯むきして、ミキサーにかけ、ボウルに移す。塩、粒マスタード、オリーブオイルで味をととのえる。
4.杉板(5×10cm)にカマスと松茸を交互に並べ、オリーブオイルを軽くかけて、もう一枚の杉板で挟む。耐熱皿にのせ、300℃のオーブンで3~4分間焼く。
5.塩湯でゆでたカッペッリーニを氷水で締め、3のボウルに入れて絡める。
6.パスタを皿に盛り付け、4をのせる。ルイユをあしらい、おろし金で黄柚子の皮をすり、散らす。
Ristorante t.v.b [リストランテ ティ・ヴォリオ・ベーネ]
京都市東山区祇園町南側570-155
075-525-7070
● 12:00~14:00 LO、18:00~21:30 LO
● 日曜、第3または第4月曜休
text by Ayako Miyoshi photographs by Daisuke Okamori
本記事は雑誌料理王国第183号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第183号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。