食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

グランシェフから若手料理人へのメッセージ#4 オーボンヴュータン


どんな作業にも必ず意味がある。それをつねに意識しながら働いて。

河田勝彦さん オーボンヴュータン

Katsuhiko Kawata
1944年東京都生まれ。「米津凬月堂」を経て67年渡仏。パリ「シダ」で修業を始め、数店を経た後、73年「パリ・ヒルトン」シ ェフパティシエを務め、76年帰国。同年、埼玉県浦和に「かわた菓子研究所」を設立し、81年「オーボンヴュータン」開店。

今やフランスの菓子は、フランス人が作るものより、日本人が作るもののほうがよりフランス的でおいしいんじゃないですか。味わい、技術的な面でも日本のレベルのほうが高いでしょう。しかし、だからといってフランスに、もう学ぶものがないわけではない。やはりフランス菓子を作るのなら、一度はフランスに修業に行くべきだと思いますね。

僕がフランスに渡ったのは43年前。すべての菓子が初めて見るものばかりで、とにかくカルチャーショックを受けました。言葉の壁にぶつかりながら必死で仕事を覚え、技術を盗んだ。当時とは時代は変わり、今はフランスへ行って学ぶことは少ないのかもしれませんが、それなら見る視点を変えればいい。菓子だけじゃなく、社会に関心を向けたり、食材を追求してみるとか。日本とは風景が違うし、空気感も違う。バラの花ひとつとってもフランスで見ると印象は異なるでしょう。その感覚の違いを自分の中に温めておき、将来、菓子に表現すればいいんです。

いろいろなシェフに傾倒して学べ


とにかく若いうちは、いろんな場面を数多く経験したほうがいいと思います。いろんなシェフの下で働き、どんなシェフにも対応できるようでないと。フランスでの約10年間、僕は十数軒の店で修業しましたが、その店の方法論をいち早く理解し、シェフが喜ぶような仕事をしました。たとえ自分とは違う考えであっても、その店のやり方に従って。理不尽な思いもいっぱいしましたね……。で、仕事を覚えたらさっと辞め、また別の店へ移る。こうしていろんな店の方法論を学んだことが、自分の店や、菓子を作り上げていく下地となっていきました。

それと自分の職業を確立するためには、がむしゃらに働かないとダメですね。でも、ただの一生懸命じゃなくて、なぜこの作業をするのかとつねに意識しながら行うことが大切です。泡立てひとつにも必ず意味があり、やがてその作業の奥の深さが理解できるようになる。すると、より上のものを自分が求めていくようになります。それを見つけられるようになると、仕事のおもしろさに目覚め、自信にもつながっていきますからね。

基本を見失わず、自分の菓子を作れ


紹介した菓子は、30年前の開店の頃から作り続けているビスキュイ・ドゥ・サヴォアです。卵、粉、砂糖と3つの材料だけで作る菓子ですが、単純なものを使って、味の出し方を覚えることは大事なことです。

今は菓子でも料理でも、味よりスタイルを気にしすぎる。多くの菓子屋は2次加工、3次加工された材料を緻密に組み合わせて、積み木的な菓子ばかりを作る、それじゃあ菓子屋の仕事って何だろうと疑問を感じます。素材をどう加工して味を出していくのか、そこを突き詰めていかないと菓子職人としてのおもしろさは出てこないんじゃないかな。だから僕は素材にこだわり、時代遅れでも手作業にこだわって菓子を作っています。流行りものの菓子を追いかけるだけじゃなく、最終的には自分を表現するこだわりのある菓子が作れるような職人をめざしてほしいですね。

ビスキュイ・ドゥ・サヴォア
フランスの本からレシピを再現したビスキュイ・ドゥ・サヴォア。小麦粉とコーンスターチの同割で作るこのシンプルな菓子は、ひとつひとつの工程を確実に行うことで完成する。

オーボンヴュータン
東京都世田谷区等々力2-1-14
03-3703-8428
● 9:00~18:30
● 水曜休


text by Emiko Mizuno photographs by Fumihiko Watanabe

本記事は雑誌料理王国第186号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第186号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする