日本製紙株式会社 製紙会社が食品業界を変える!?植物生まれの新素材「セレンピア®」 食の企業の最前線3 25年2月号


多様な機能性で、食の世界に貢献するバイオマス素材「セレンピア®」。食品のしっとり感やふっくらしたボリュームを保つという新素材を「メツゲライクスダ」の楠田裕彦さんが試用。使い心地を聞いた。

日本で流通しているハム・ソーセージの多くは、保存性の向上や酸化防止、食感や風味を出すためなど、さまざまな目的で食品添加物が使われている。

しかし20代初めに渡欧し、フランスやドイツで修業を積んだ楠田さんは「できるだけ正しい形で技術や食文化を伝承したい」という思いから、添加物の使用を必要最小限に抑えているという。
「ドイツでは屠畜したての温かい状態で運ばれてくる肉をすぐに捌いて加工するので、味付け以外の添加物は基本不要。肉の保水力や決着力は、鮮度が良ければ十分に高いから。僕はその経験をしているので、できるだけ肉だけで作りたいんです」

しかし食文化も食肉の流通システムも日欧では違う。そんな中、添加物を極力使わないために楠田さんがとる対策は? 「難しいことはしていません。新鮮な肉を仕入れ、適切な温度管理のもと、鮮度の高いうちに加工する。それと衛生の徹底です」。

実際、芦屋本店にある工房は必要な道具以外のものが一切なく、作業台も床もピカピカ。ここでセレンピアを使い、生ソーセージを作っていただいた。

原料肉はこの日届いた捌きたての米澤豚のモモ肉。大ぶりに切り、1kgの肉に対し塩、コショウ、ナ
ツメグ少々と1gのセレンピア®を加え、すぐにミンサーに入れて粗挽きにする。

豚肉1kgに対し加えるセレンピア®はわずか1g。
「ミンサーで挽く時からなめらかさを感じる」と楠田さん。
捏ねるほどに柔らかでみずみずしいテクスチャーに。

ボウルの中で挽いた肉をこね始めると、楠田さんが「これ、わかりますか?」と肉を指す。「表面がしっとりとしてきて、混ぜる手が重たくなります。肉に含まれている水分が保たれ、かつタンパク質が水分とちゃんと結着しているからなんです」。

一般的に保水性や結着性を高める目的で使われるリン酸塩には、水分の流出、つまり離水を防ぐ働きもある。離水は、細菌や微生物の増殖に繋がり、製品の劣化や臭いのもとになる。なのでリン酸塩は少量ながら使われていることがほとんどだ(ただし楠田さんは先に記した対処法の徹底で、リン酸塩に頼らず、保水力のあるソーセージを作っている)。

1本約100gのボリューミーな生ソーセージ。

「まだデータを取っている段階なので、あくまで予想ですが、これだけ結着がよく離水もしないなら、多くの製造所でリン酸塩を入れなくてもジューシーな食感に仕上がり、保存性も高まるかも」と期待に声を弾ませる。完成したソーセージを焼いて試食させてもらうと、パリッとしてふっくらジューシー。弾力ある肉が力強く歯を押し返してくる。「断面から肉汁が流れ出ないのは、水分も油脂もしっかり抱え込んでいるからでしょうね」と分析。また、「今回の生ソーセージのグリルは、うちで普段作っているものより流出する肉汁の量が特に少ないです。これはセレンピア®の効果でしょう」とも。

弱火で約15分、じっくり焼いた。パリッした歯ごたえ。中のたっぷりの肉汁は、セレンピア®の効果で流出しづらい。

常に研究・研鑽を続ける楠田さん。今までにも自然由来の添加物について情報を得たり、実際に試したこともあるという。「これまでは、使ってみたいと思う素材には出会えなかった。その点、これは、効果はあるが極端に出過ぎず、自然な感じで作用するのもいい」と好感触を示していた。

日頃から畜産の現状や環境問題にも高い意識を持ち、生産者の応援にも積極的に取り組む楠田さんにとって、樹木から生まれ、フードロス削減にも貢献する点でもセレンピア®は共感できる存在。“期待できる新素材”と言えそうだ。

楠田裕彦 くすだ やすひこ

ヨーロッパ修業後2004年に「メツゲライクスダ」を開業。日本を代表するシャルキュティエの1人だ。

メツゲライクズダ

兵庫県芦屋市宮塚町12-19
TEL 0797-35-8001
10:00〜17:00 火、水休

木材繊維を微細化した「セレンピア®」

木材繊維を微細化した、安全性の高い素材「セレンピア®」。食品を加工する際に繊維が水分を抱え、加熱工程での油分や水分の流出を防ぐため、しっとり感や口どけが向上。また、粘性がありつつベタつかないのも特徴。菓子やパンなどあらゆる食品で使われ始めている。また商品の保形性向上により、生産ロスを減らす効果も。フードロスの削減が期待できる素材だ。

https://www.nipponpapergroup.com/sustainableproducts/cellenpia/

text: Kumiko Shibata photo: Katsuo Takashima


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