スコットランドを代表する女性オーナーシェフが運営で気にかけていること。


スコットランドの首都エジンバラから、テレビにも出演する実力派女性シェフと、その注目レストランをご紹介しよう。業界歴20年以上の彼女が、女性オーナーシェフとしてチームに貢献できることとは?

スコットランド魂というのがある。気骨があり、ワイルドで、心やさしく愛嬌たっぷり、郷土愛が強い。ロンドンに暮らしていても時折触れるこのスピリット。欧州における食の世界で近年、食材の豊かさや調理技術の向上からスコットランドが注目されているのだが、今回ご紹介する凄腕の女性シェフにも、このスピリットが備わっていると強く感じる。

そのシェフ、Roberta Hall-McCarron ロバータ・ホール=マッカロンさんは、あらゆる意味で突出した存在だ(冒頭写真©Restaurant PR)。

プロのシェフたちが腕を競うBBC放送局の人気テレビ番組「グレート・ブリティッシュ・メニュー」で、スコットランド代表として2年連続で全国決勝戦に進出し、魚コース部門で勝ち抜くという実力と胆力を誇る。2019年の「エジンバラ・レストラン・アワード」で最優秀新人賞を受賞、2022 年「GQベストシェフ」の最終候補に残り、2023 年の国内大手レストラン・ガイド年間最優秀女性シェフに選ばれるなど、数々の栄誉をものにしている天才シェフなのである。

その彼女が夫で共同経営者のショーンさんとともに2018年にオープンしたのが、エジンバラのトレンディ地区にある「The Little Chartroom リトル・チャートルーム」。2025年度は大手レストラン・ガイドによる「英国トップ100」で29位に、栄えある「ナショナル・レストラン・アワード」では国内79位にランクイン。7年目の今も全国区で注目されるファイン・ダイニングとして輝き続けている。

オープン・キッチンにつながるカジュアルなダイニング・ルーム。
ベーカーでもあるロバータさんのパンはとびきり美味しい。料理はコースのみ。

ロバータさんの原体験は、16歳のとき。職業体験プログラムを利用してプロのキッチンで1週間働き、シェフになることを決意。卒業後いくつかの上質レストランを経験した後、転機となったのがドバイへの移住。7つ星と言われる超ラグジュアリー・ホテル「ブルジュ・アル・アラブ」の厨房で、高級食材を使い放題という恵まれた環境のなか1年半を過ごしたそうだ。

エジンバラに戻った後は、著名なスコットランド人セレブ・シェフ、トム・キッチンさんのミシュラン一つ星レストラン「ザ・キッチン」に就職。めきめきと実力をつけ、系列レストランの厨房でヘッドシェフを務めた後、独立。パブ経営の後、「リトル・チャートルーム」をオープンする運びとなった。

現在のロケーションは手狭になった古い場所から引っ越してきた居心地のよいスペースだが、元の場所にもカジュアルなレストラン「Eleanore エレノア」を立ち上げ、昨年はリトル・チャートルームの隣にボトル・ショップ兼カフェ・バーの「Ardfern アードファーン」を創業。いまやエジンバラの食通たちにとってなくてはならない人気レストラン・グループとして重要な地位を確立している。

キクイモの茶碗蒸し風。黒ニンニク、キャラメル・オニオン、トリュフ。
風味豊かなマガモの胸肉ともも肉。ターニップのリーフ、サルシファイ(根菜)、ハリコット・ビーンズ。
カルダモン風味のパンナコッタ、洋梨のコンポート、花梨のソルベ、ダークチョコレート、ピーカンナッツ、ウェハース。

ロバータさんの料理は極めて現代的で、優れたフレンチの技術をベースに日本をはじめ世界各地から調味料やアイディアを取り入れ完璧に融合させている。そして主役であるスコットランドの食材を駆使し、身体だけでなくハートも温まる料理を創作する。

今回いただいたコース料理。例えば前菜の野ウサギは驚くほど柔らかく、ブラック・プディングのマイルドな塩気とクルミのピクルスがアクセントになり、共に口に運べば鮮やかな風景が目の前に浮かぶようだ。香ばしい蕎麦粉の揚げ煎餅といただくマスのタルタル、ローストしたマガモの主菜、季節の洋梨や花梨の瑞々しさを楽しむカルダモン風味のパンナコッタなど、すぐそこにあるスコットランドの豊穣をまるごとエレガントにいただく趣向である。

つまりロバータさんはたいていのスコットランドの飲食店がそうであるように、スコットランドの伝統と食材をこよなく愛するシェフなのだが、その理解と調理が飛び抜けているというわけ。それだけではない。「女性オーナーシェフならではの役割もある」と複数のメディアに対して語っている。上に立つ女性シェフとして、男性が多い業界に女性の貢献を増やしたいと願っているのだ。

確かにロンドンでも厨房の男女比を半々にしようと努力しているレストランがあると聞いたことがある。厨房が落ち着き、穏やかになるのだという。3歳児の母親でもあるロバータさんは今、3つのレストランの運営と子育ての両立についても夫と共に成功させているようだ。スタッフを信用し、人に任せることでチームの成長を促し、同時に自分たちの時間も確保しているのだという。バランスの良さは、このレストラン経営の鍵なのかもしれない。

魚の主菜(©Restaurant PR)。
隣接するカフェ・バー「Ardfern」は終日営業。よりカジュアルなメニューを取り揃えている。

ロバータさんはスコットランドで最も影響力のある女性シェフの一人として、今後もますますその活動に注目が集まっていくに違いない。

エジンバラの年の瀬は賑やかだ。ホグマニーと呼ばれる新年を迎えるお祭りが、ことのほか盛大に行われる。レストランは大忙し。リトル・チャートルームでもスコットランドの豊かさを称える特別メニューを用意し、2026年への準備を整えている。

The Little Chartroom
https://www.thelittlechartroom.com

Eleanore
https://www.eleanore.uk

Ardfern
https://ardfern.uk

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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