「ズバリ、日本料理」第二回/「嵐山 熊彦」主人 栗栖 基に聞く 初夏の料理と演出

「ズバリ、日本料理」第二回/「嵐山 熊彦」主人 栗栖 基に聞く 初夏の料理と演出

四季折々の素材を吟味、磨き抜かれた技によって生み出される日本料理。我が国が誇るこの豊かな食文化を次世代に向けて継承・発展させる活動に取り組む「日本料理アカデミー」監修の連載。
第二回は「嵐山  熊彦」主人・栗栖 基さんが登場。
初夏の料理と演出、器選びや盛り付けについて語ってもらった。

おいでやす。「嵐山 熊彦」の主人、栗栖 基でございます。

嵐山は新緑の季節。木々の緑がぐっと濃く立体的になり、山が迫ってくるように感じます。目の前の景色を見ながら、合わせる木の芽味噌も淡い緑からだんだん濃い緑へと「青寄せ(ほうれん草のような青菜から緑の色素を抽出したもの)」の分量が多くなります。青菜の量が多いと鉄の味が強くなるため、この時季からは新茶のお抹茶を用いた「皐月(さつき)和え」をお出しするようになります。

新茶の抹茶を加えた和え衣で仕立てる「皐月和え」は新緑の時季らしい香り良い一品。車海老と長芋、粟麩と食感の異なる素材を合わせ、山の岩根に咲くツツジを花弁百合根で表現。清涼感の演出と緑が映えるよう選んだ器は夏の花=芙蓉を象ったもの。
新茶の抹茶を加えた和え衣で仕立てる「皐月和え」は新緑の時季らしい香り良い一品。車海老と長芋、粟麩と食感の異なる素材を合わせ、山の岩根に咲くツツジを花弁百合根で表現。清涼感の演出と緑が映えるよう選んだ器は夏の花=芙蓉を象ったもの。

うちは祖父の代に板前割烹として開業しました。カウンターでお客様との会話を大事にしながら、目の前でその方のお好みに合う料理を作って提供します。時にはマニアックなご注文もありますが、それに応えることで私たちの引き出しも増えていきます。食べ手と作り手の掛け合いを楽しむ、これが板前割烹の醍醐味やと思います

昭和3年、初代・栗栖熊三郎氏が京料理「たん熊」を創業。当時は画期的とされたカウンターでの調理が食通の間で話題を呼び、文人墨客に愛される名店となる。「嵐山 熊彦」はその流れをくむ板前割烹のスタイルを継承、伝統的な京料理に時代に寄せた新味を取り入れてもてなす。
昭和3年、初代・栗栖熊三郎氏が京料理「たん熊」を創業。当時は画期的とされたカウンターでの調理が食通の間で話題を呼び、文人墨客に愛される名店となる。「嵐山 熊彦」はその流れをくむ板前割烹のスタイルを継承、伝統的な京料理に時代に寄せた新味を取り入れてもてなす。

今回、ご紹介するのは「鯛のあら焚き」。割烹店では注文が入ってから15分ほどで一から仕上げるのが基本です。

「焚く」と「煮る」の違いはご存知ですか?

私たちにとって「焚く」とは鮮度の良いものを強い火力で短時間に加熱すること。使うのは酒やみりん、濃口醤油などの発酵調味料のみで、出汁や水は加えません。「鯛のあら焚き」は、中の身は白いままに仕上げて周りに絡んだうまい煮汁をつけながら味わう料理です。「煮る」は調味料に出汁や水を加え、時間をかけて加熱、素材の内側までよく味を含ませること。京のおばんざいでよく「野菜のたいたん」などと言われますが、しっかり煮含めたものなら、正しくは「煮物」ですね。

栗栖さんが教えてくれた「鯛のあら焚き」
栗栖さんが教えてくれた「鯛のあら焚き」

「鯛のあら焚き」で肝心なのは、魚の生臭みをしっかり取ること。顎やヒレの根本、唇の後ろなどに残った細かい鱗も丁寧に取りましょう。

ゴボウは鯛のあらのうま味と相乗効果がある相性の良い野菜。端の一部を残した「まき割り」にして焚くのがプロのコツです。バラバラにならないので、あらが冷めないうちにサッと切って手早く盛り付けられます。味染みが良いように包丁の峰で叩いておきましょう。

鍋にゴボウとあらを入れたら、酒とみりんを加え、砂糖は肉の厚い鯛の目玉の周囲にふりかけ、じんわり浸透させます。焚き始めると、酒が大量に入っているためフランベしやすいのでご注意を。

フランベしたら火を止めること。アクを取り、落し蓋をして煮汁がまんべんなく対流するように。沸いてきたら、濃口醤油を2〜3回に分けて加え、味を見ながら焚きます。最終的には煮汁が最初の10分の1ぐらいに詰まったらOKです。

調理のポイント1:沸騰した湯で鯛のあらを霜降りする
調理のポイント1:沸騰した湯で鯛のあらを霜降りする
調理のポイント2:鱗やぬめりは丁寧に洗い流す
調理のポイント2:鱗やぬめりは丁寧に洗い流す
調理のポイント3:煮汁が沸いたら、濃口醤油を2~3回に分けて味を見ながら入れる
調理のポイント3:煮汁が沸いたら、濃口醤油を2~3回に分けて味を見ながら入れる
調理のポイント4:仕上げにあしらう木の芽は手で揉んでパンと叩くことで香りを立たせる
調理のポイント4:仕上げにあしらう木の芽は手で揉んでパンと叩くことで香りを立たせる

日本料理では「器は料理の着物」といいますが、料理は器に盛って成立するもの。器選びを間違えるとせっかくの料理が台無しになりますよ。

器やしつらえの基本となるのが茶道の心得と季節の美意識。あら焚きのような温かい料理を盛る場合は、保温性がある厚めの陶器が合います。見込み(器の底辺)の面積からはみ出さないよう立体的に盛り付けましょう。

逆に料理が冷めやすい磁器の平皿はNGです。煮汁がだらりと伸びてしまい、食べにくいばかりか食後の見た目も美しくありません。

左は器のNG例。煮汁が横に広がり、料理が冷めやすい磁器の平皿は「あら焚き」には不向き
左は器のNG例。煮汁が横に広がり、料理が冷めやすい磁器の平皿は「あら焚き」には不向き

最後に20枚ぐらいの木の芽を手で揉んで、パン!と叩いて天にあしらいます。葉の表面の細胞を破壊することでさらに香りを立たせるプロの技です。この香りや音もお客様の五感に訴える大切な季節の演出です。

鯛のエキスがしっかり染み込んだゴボウ、うま味濃厚な煮汁で味わうあらはコラーゲン豊富で上身とはひと味違う食感やおいしさがたっぷり。気楽に手に取って骨周りに付いたおいしいところを存分にお楽しみください。

完成した「鯛のあら焚き」は、甘味と塩味のバランスがちょうど良い塩梅
完成した「鯛のあら焚き」は、甘味と塩味のバランスがちょうど良い塩梅

詳しい作り方はYouTubeチャンネル「料理王国FOOVERjapan」でお楽しみください!

前編:https://youtu.be/3nPpcJzDn4w
後編:https://youtu.be/iHqiZ1yyxHk

栗栖 基(くりす もとい)
1961年、板前割烹の走り「たん熊北店」の三男として生まれる。20才で料理の道を志し、「たん熊北店」の関東・関西にあるグループ店で研鑽を積む。1989年「嵐山 熊彦」に入り、1997年に同店料理長に就任。2013年9月の桂川氾濫の被害を機に店舗を改装、祖父が築いた板前割烹の原点に 戻るべくカウンターを再設。
「日本料理アカデミー」では日本料理コンペティション委員長として、次世代の料理人の育成にも尽力する。

嵐山 熊彦
京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町5-1
TEL 075-861-0004
11:30~15:00(14:00LO)
17:00~21:00(19:00LO)
火・水休

日本料理アカデミー「日本料理大賞2022-2023」
応募受付中!

日本料理アカデミーでは、日本料理コンペティション事業として「日本料理大賞2022-2023」を開催します。日本料理の未来を担う若手料理人の皆さんのご応募をお待ちしています。

  • テーマ:「郷土料理を新しくする」
  • エントリー締め切り:2022年6月30日(木)
  • 応募資格:調理師免許取得者で、調理経験年数5年以上の料理人
    ※国籍・年齢不問。日本にいる外国人の方は、調理師免許は不要です。
  • 主催:NPO法人日本料理アカデミー
  • 後援:農林水産省 文化庁 京都府 京都市
  • 賞金 等:優勝は100万円、2位は50万円、3位は30万円
    副賞: UMAMI賞(賞金)
    フェリシモ 未来のシェフ賞:若手の料理人に授賞する賞を新たに設けます。

審査員長の栗栖基さんより
新型コロナウイルスの影響によって、さまざまな産業が疲弊してしまいました。日本料理の業界も然りです。私たちには日本の食文化を守っていくという使命があり、その役に立ちたいという思いのなかで、このコンペティションの開催が決まりました。日本料理の未来を担う若手料理人の皆さん、一緒に業界を盛り上げていきましょう。ご応募お待ちしています。

詳細は日本料理アカデミーの下記サイトをご覧ください。
https://culinary-academy.jp/jpn/compe

text: Sawako Yamada    photo: Katsuo Takashima   edit: Masashi Tsukiji

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