食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

「テリトリー」にこだわり、閉店寸前から一躍人気店へ


〝滋賀〟を軸に自分のスタイルを確立

「クレメンティア」田淵章仁さん

田淵章仁さんが6年半前に開業したのは、夫婦で営むアットホームなイタリア料理店。出身地の滋賀を離れ、京都に物件を見つけたものの、土地勘も仕入先もない町での出発は厳しいものだった。今でこそ「とにかく暇でした」と笑って話す田淵さんだが、月商120万円の最低記録を前に、閉店も考えたという。

開業翌年には、パティシエールでもある妻に子どもができた。人を雇うしかなく、支出が増えた。行き詰まりを感じていた翌々2012年、食材探訪番組を見ていた田淵さんは、滋賀の食材について考え始めた。
「テロワールならぬ『テリトリー』を表現するために、自分のルーツである食材に目を向けてみよう」

内田俊大さん(右)は初めて雇用したスタッフ。ソムリエ資格も取得し、今や欠かせない右腕だ。酒蔵や農家にも全員で足を運び、店と生産者が楽しく真面目に付き合っている。

牧場を回り13年3月、やっと納得のいく近江牛が見つかった。国産の飼料だけで、無理なサシを入れずに育てた「木下牧場」の牛は、抜群に味がいい。すっかり惚れ込み、スペシャリテに使うことにした。

スペシャリテに使うのは国産飼料100%で育てる「木下牧場」の近江牛。ほとんどの野菜、ドリンクなどで滋賀県産食材を使用し、アドベリーなど珍しいものが出ることも。


食材の質を上げれば、当然原価が上がる。4800~6800円に設定していたコース価格は、低いものから段階的に廃止。新たに8800円のコースを設定した。ドリンクもワインだけにこだわらずに、酒どころである滋賀の酒蔵から直接仕入れ始めた。14年9月にはワインリストを廃止、コースに合わせたグラスワインセットを提案した。

グラスワインコース6種5800円~ は、毎月休みをとって1日かけて考案する。酒蔵・福井弥平商店の「雨垂れ石を穿つ」は、ネーミングやデザインに協力した、いわばコラボ商品。酒蔵との付き合いがあればこそだ。

「クレメンティア」は開店当初のカジュアルな店から、少しずつ田淵さんらしいレストランに変身した。その変遷を見守っていたかのように、13年10月発行の「ミシュランガイド2014」で初のビブグルマンに選出。翌年も連続で掲載され、人気店の仲間入りを果たしたのだ。

近江牛 木下牧場 サーロイン 薪の香り
近江牛を炭火とオーブンで丁寧に焼き、滋賀県産の薪でいぶす。スナップエンドウのピュレ、ロンバルディア風ソース、ゴルゴンゾーラのソース、空豆のパウダー、せとかのモッタルダ、野生のクレソンなどを添える。

テリトリーに目を向ければ自分らしい料理が見つかる

15年には、滋賀の石や流木で器を作る作家に出会った。最初からのスタッフは15年にソムリエ資格を取得、頼もしい右腕となった。アラカルトは廃し、12000円のコースを設定。開店時の客単価8000円が、14年には12000円、16
年には17000円と上がった。ビブグルマンの規定からは外れたが、田淵さんは「自分のスタイルを築くのに時間がかかっただけ」と振り返る。

滋賀県の「比良里山クラブ」による薪は、桜の木に香が焚き染めてあり、いぶせば独特の香りが肉に移る。クレメンティアでは同団体による赤シソジュース「ヒラペリラ」も好評。

「独立した頃の僕にはレストランをやれる引き出しがありませんでした。でも、自分のテリトリーを使って、自然にきちんと料理をすれば自分の料理になる、と気付いたんです」

苦戦時にも「根拠のない自信があった」と田淵さん。軸を据えて、徐々に突破口を開いてきたのだ。

毎月16日にコースが替わり、今月の州は「ロンバルディア」。お客さまがイメージしやすいよう、地図と簡単な紹介の紙をテーブルに設置している。会話のきっかけにもいい。

滋賀県の石や流木を研磨して、銅や鏡と組み合わせた器も滋賀県のデザイナー作。鏡は「アリスが落ちた穴のように料理の世界観に入っていってほしい」との思いが込められ、石の側面のスリットは「循環」を意味するなど、作品性の高さも楽しめる。

田淵章仁さんのクロニクル

1979年  滋賀県に生まれる。

     滋賀県内のイタリア料理店、東京などで修業

2010年  独立  「クレメンティア」開業

2011年  奥様が現場を離れ、スタッフ雇用

2012年  滋賀県産食材に目を向ける。

2013年  3月 近江牛取り扱い開始。4800円(最低価格)コース廃止
     10月 「ミシュランガイド2014」ビブグルマン掲載

2014年  ワインペアリング開始。

     10月 「ミシュランガイド2015」ビブグルマン掲載
     11月 アラカルトと5800円(最低価格)コース廃止

2015年  ワイナリー、酒蔵、和食店、フレンチとコラボ。
     滋賀県産の石や流木を使った器を使用開始。
     スタッフがソムリエ資格取得。
     月替わりのコーステーマであるイタリア地図の提供開始。
     12月 6800円(最低価格)コース廃止

   

Akihito Tabuchi

1979年滋賀県出身。地元のイタリア料理店「ジオルナータ」で5年修業した後、東京の「リストランテ ラ キリア」で1年、「オステリア ハタ」で3年ほど経験を積む。2010年9月「クレメンティア」をオープン。

クレメンティア
Clementia

京都市中京区間之町通
二条上ル夷町572
☎075-231-5606
● 12:00~15:00(13:30 LO)、
18:00~23:00
●月曜休(不定休あり)
●コース 昼3050円~ 夜8800円~
●18席
※昼は税込価格

藤田アキ=取材、文 三國賢一=撮影

本記事は雑誌料理王国261号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は261号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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