愛あるレストラン評価を続ける 『東京最高のレストラン』編集長 大木淳夫さん


1.チーム力とコミュニケーションを大切にしている

実力あるスターシェフが仕切る店も魅力的ですが、長谷川在佑さんの「傳」や石井真介さんの「シンシア」のように、チーム力を大切にスタッフ全員でよいものを作り出そうとしている店にも心惹かれます。料理人になるには修業期間を経る必要があるため、長時間労働が問題視されるケースは少なくありません。しかし、チーム力を重視する店の場合は、福利厚生なども考慮され、比較的労働環境がととのっているようです。従業員が不安なくイキイキと働ける ――。労働環境は、なぜか料理やサービスにも反映され、もてなしを受ける側も心地よくなれるのです。

エンターテイメント型のレストランでもチーム力は活かされ、たとえば永島健志シェフの「81」もそのひとつ。劇場型の店はゲストを五感で楽しませるだけでなく、スタッフにもスポットを当てて、やる気を奮い立たせます。こういう新感覚の店が誕生するたびに、シェフたちの真剣さに心打たれます。

エンターテイメント型の店を成功させるには、チーム力と同時にシェフのコミュニケーション能力も欠かせないように思います。語学に堪能な「鮨 りんだ」の河野勇太さんのような方も登場してきています。また、エンターテイメントとひと口に言っても、自分の店の雰囲気やゲストたちにしっくりくるものを生み出すのは簡単ではありません。それが上手なシェフは、異業種の人たちの意見を聞いたり、他ジャンルのシェフたちと交流したり、コミュニケーション能力に優れているようです。

『東京最高のレストラン』は、毎年、12月初旬に発行。発行後すぐに翌年に向けてのリサーチが始まるという。巻頭を飾る注目の20軒については、半年ほどかけて絞り、採点を担当する評論家やライターに足を運んでもらう。

2.伝統的なおいしさに新アイディアをプラス

長年続く伝統の味わいと安定感のあるサービスというのは訪れる人をホッとさせます。グランメゾンの老舗「コート・ドール」もそんな満足感を与えてくれるレストランのひとつ。斉須政雄シェフの磨き抜かれたスペシャリテと松下尚夫支配人の上質なもてなしに心和むのは私だけではないでしょう。しかし、時代を超えて愛され続けるためには、変わらないように見えて、その陰では、ゲストの嗜好の変化やニーズに合わせた調整が行われている。きちんとそれを心得ているのです。

変わらないものに安堵感を覚える一方、伝統のおいしさに新しい味をのせるというチャレンジ精神にも惹かれます。その意味で感動したのが、「クリスチアノ」の佐藤幸二シェフが手掛けた「おそうざいと煎餅もんじゃさとう」のもんじゃ。テクスチャーは壊さず、新しい味を表現しているのです。かつては「ファッション」が自由の代名詞でしたが、今もっとも自由なのは「食」の世界と言われています。伝統の味を守るシェフはもちろん、伝統を塗り替えようとするシェフにも期待したいです。

3.得意とするものに特化した料理を提案

和洋中などのジャンルにとらわれないノンジャンルの料理人が次々に登場しています。シェフのこだわりは、ジャンルよりむしろ食材に向けられ、たとえば、魚を使ったフランス料理にこだわる「アビス」の目黒浩太郎さんのようなシの登場も目立ちます。こんなふうに、特定の食材に絞ってレストランの特徴を際立たせるのも、ゲストを惹きつける有効な方法だと思います。

また「オルグイユ」の加瀬史也シェフが考案した、「シャンパーニュに合わせた料理を提供する」レストランというのも非常に面白いスタイルですね。日本でシャンパーニュに特化した発想が新しい。それだけでなく、ゲストは料理とともに必ずドリンクもオーダーするから客単価も上がります。シャンパーニュが好き人はもちろん、初心者も訪れるでしょうから、会話も弾みます。

これからは、たとえば冷凍食品をつまみに酒が飲める無人コンビニなんかも登場してくるのではないでしょうか。それでもレストランに「来たい」と思わせるにはどうしたらいいのか――。いい意味で、とがった発想のできるシェフが愛され、生き残っていくのではないでしょうか。

2001年創刊の『東京最高のレストラン』は、レストランガイドの中で、もっとも歴史ある本。創刊当初は今ほど店がなかったとはいえ、ネットからの情報は乏しく、情報収集が大変だった。

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