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日本のバル、ヒットのツボはどこにある?


店のコンセプトや提供メニューがスペインのバルと違っても、どこかに、スペインのバルと共通するエッセンスがある。そんな東京で人気の3店を巡り、その魅力を探っていきます。

「TAMA」の魅力は自由な空気と人々の交流。これは、東京のバル文化の原点。

今回訪問した東京の店は3店舗。青山の「琉球チャイニーズダイニング TAMA」、日本橋の商業施設コレド室町内にある「ビキニ ピカール」、ワインバー「マルゴ 丸の内」だ。いずれもポーションを減らして価格を抑えた料理と、カウンター主体の気軽さを打ち出しているのが共通の特徴だ。スペインのバルの「皆でわいわい、お財布を気にせずに飲む」居酒屋的な利用動機の部分と通じるものがある。言い換えれば、日本に古くからある〝立ち飲み屋〞に近いといえるのかもしれない。

立ち飲み屋?なのに、
4000円という高単価

だが、ここで注目してほしいのは客単価である。これらの店舗の客単価は、奇しくも4000円前後に集約する。「エーッ、カウンター席で4000円!?」という、おじさまたちの悲鳴が聞こえてきそうだ。そう、今時の女性やおしゃれな人々には〝カウンター主体の立ち飲み風〞がツボにはまるのだ。東京のOLが通う東京のビストロやトラットリアの客単価は、おおむね6000円前後。そう考えると、このバル業態はおもしろいゾーンにはまっている。ポイントはアルコール、それも、ワインだ。いずれの店も、メニューの価格は1000円前後。客単価を引き上げているのは、フルボトルで3800円前後を中心価格としたワインである。日本酒や焼酎よりも垢抜けたイメージがあり、まとまった単価がとれる。フードと並び、まずはワインをどう売るかが、この業態の要といえそうだ。

「TAMA」のワイン棚。フランス中心の品揃え

黒服のソムリエがいるのに
緊張しない店「マルゴ」

最初に注目したいのは、新宿を中心に4店舗、丸の内に1店舗を展開するワインバー「マルゴ」。スペインのバルやイタリアのバールを参考にしたというカウンター席主体の店舗だが、どの店にもワインのボトルがずらりと目立つようにディスプレイされる。ワインの中心価格帯は3000〜6000円。「ボトルを手にとることでワインを身近に感じていただける」と、全店を統括するマネージャーの中嶋俊活さんは言う。

料理のメニューは、イタリアン、フレンチベースなど各店によって異なるが、「マルゴ」の場合、全店舗にソムリエの資格保持者がいて、接客を担当しているのが特徴だ。

丸の内店に行ってみた。「よくわからないから、俺がよく知ってるソムリエに任せる」とカウンターに座る女性の横で少し得意げに話す年配男性もいれば、やはりカウンター席でグラスを合わせているOLらしきグループもいる。「マルゴ」のソムリエにはグランメゾンの出身者も少なくない。彼ら折り目正しいが親しみのある接客のおかげで、お客は緊張せずに華やいだ気持ちになることができる。「マルゴ」の新宿エリア4店の客単価は3800円、丸の内は4500円。カジュアルを謳ってはいても、華やかで豊かな気分になれなければ、外食をする意味はない。「マルゴ」はスペインのバルに通じる〝おしゃれ感〞と〝豊かさ〞を併せ持つ。

「ビキニ ピカール」の場合は、鮮魚を使ったメニューに、より力を入れているのが特徴。渋谷と赤坂の系列店にはなかった、魚介の「プランチャ」などをメニューに加えている。

生ハムは目立つ場所で切る

揚げ菓子とコーヒーのセットが300円。ティータイム用のメニューとして、他に「ピンチョスセット」600円など(ビキニ ピカール)。

自由な雰囲気と温かみのある
接客が光る「TAMA」

次に訪れた、青山通りの奥にある「TAMA」のメニューは、味わいが優しく深みのある〝琉球チャイニーズ〞、沖縄と広東地方のフュージョン料理。もはやスペインどころか、西洋料理ですらないし、焼酎や日本酒も出している。しかし、2007年のオープン後、順調に売り上げをのばし、現在の平均月商が16坪で800万円と聞くと俄然興味がわいてくる。客席数は35席、最大収容人数は43人、客単価は4200円。料理の価格は1000円前後に抑えられているので、ポイントはやはり、アルコール売り上げの大半を占めるワインである。価格帯はおおむね3000〜5000円。1組で2本は飲める価格帯に品揃えの8割が集約され、ボトルに価格が書かれて壁際に並ぶ。お客はボトルを見ながら「自分で」ワインを選ぶ。ソムリエの資格を持つ玉代勢文廣(たまよせふみひろ)さんは言う。「迷ったらジャケ買いだっていい。僕が作っているのはプロの家庭料理。ですから料理全体の格とワインの格が合っていればいいと。お好みに合わせて提案もしますが、比較的僕のどの料理にも合うようにあらかじめ、品揃えをセレクトしています」

だが、数多のバル風居酒屋と、「TAMA」が異なる点がひとつある。それは、玉代勢さんの個性から生まれる、温かな接客だ。お客一人ひとりの動きを見逃さないようにと、自分が働くオープンキッチンとトイレを店内の入り口付近に、客席を奥に作った。だから、どのお客も調理場で鍋を振る玉代勢さんと、何かしらの言葉を交わすことになる。

そして、かつてはデシャップ台に想定していた玉代勢さんの調理台前のスペースが、今や立ち飲みのお客の特等席になっている。お客が自然体でいられ、そして店主とのかけ合いを楽しむことができるというバル文化の真髄が、この店にはある。

幅広い利用動機、客層に
応える「ビキニ ピカール」

スペインのバルの利用動機は〝飲み〞だけではない。住宅地に行けばファミリーが楽しく食事をしているし、ビジネス街では朝食をとるサラリーマンもいる。居酒屋的な利用動機はもちろんなのだが、バルの利用動機の幅広さを日本でも生かそうとする姿勢が見られるのが、日本橋のコレド室町内にあるスペインバル「ビキニ ピカール」だ。

夜の客単価は4000円。小皿料理に加えて、鮮魚のメニューを充実させたことがプラスに働き、食事とともにワインを楽しむお客が多いからだ。加えて注目したいのが、14時〜17時までのティータイム。「マリナ・フロロン」というサクサクとした揚げ菓子とコーヒーか紅茶のセットを300円の安価で出している。カウンター席には、年配のお客に配慮してか、背もたれがある。「日本橋という立地柄、客層がとても幅広いんです。お茶を飲みに来られた年配の女性に『ここ何のお店なの?』と聞かれることも(笑)」と、マネジャーの高橋良徳さん。

バルに必須のカウンター席やメニューが書かれた黒板もあり、店作りはスペインのバルの要素を踏襲している。それでもお客はそれと気づかずに、気軽に自分のニーズに応えてくれる店にふらっと立ち寄っている。そんなバル本来の魅力を備えているという点も、注目だ。

「マルゴ」丸の内店。「ワインを主力商品にしたのは、自分が好きという理由に加え、他のアルコールと違ってサービスの手間がかからないうえ、単価がとれるため」とは、バーテンダー出身のマネジャーの中嶋俊活さん。

『マルゴ丸の内』のメニューはフレンチがベース。

①本 当 に 自 然 体 で 楽 し め る

琉球チャイニーズダイニング TAMA
ワインも自由に選べて失敗がなく、店主やお客同士の交流が活発

東京都渋谷区渋谷2-3-2 
☎03-3486-5577
●18:00 ~翌3:00 
●無休 
●http://tama2007.jp 
●客単価4200円

②い つ で も 誰 で も 立 ち 寄 れ る

ビキニ ピカール
カフェ、居酒屋と幅広い利用動機に応えるスペインのバルのコンセプトをとらえた店

東京都中央区日本橋室町2-2-1 コレド室町2F
☎03-6202-3600
●11:00 ~ 22:00LO  
●不定休(ビルの休館日に準ずる)
● http://mi-mo.jp 
●客単価 夜4000円 

③カ ジ ュ ア ル さ の 中 の 豊 か さ

マルゴ 丸の内
気軽で割安、けれど豊かで華やかな気分になれる点ではスペインのバルと同じ

東京都千代田区丸の2-6-1 丸の内パークビルディング1F
☎03-6269-9105 
●11:00 ~ 23:00LO
●不定休(ビルの休館日に準ずる)
●www.marugo-s.com/m/ 
●夜の客単価4000円

伊藤由佳子・文 伏木 博・写真

本記事は雑誌料理王国197号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は197号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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