店は小さくても夢は大きく!たくさんお客さんが集まるバルオープンまで


1.構想づくり

A コンセプトを決める

まず考えなくてはならないのは、コンセプトだ。「何をやるのか」「どう実現するのか」を念頭に置き、コアとなるコンセプトを固めつつ、実現のためのサブコンセプトを考える。たとえば「何をやるのか」ならば、フレンチ系のバル、自然派ワインのバルなどいろいろと思い浮かぶことだろう。「どう実現するのか」というイメージを固めるためには、いくつかの店を訪ねてみるのが一番。具体的には次のような点を考えながら視察をしよう。

●どんなお客に来店してほしいのか(ターゲット)
●どんな場所で、いつ営業するのがよいのか(立地と営業時間)
●いくらで、何が喜ばれるのか(価格とメニュー)
●どんな雰囲気で、どのように売るのか(接客イメージ) 

以上をふまえ、他店との差別化も意識してサブコンセプトを固めていく。たとえば自由が丘「ミネラル」のオーナー谷口敏徳さんは、ほかの自然派ワインバーを視察して料理の充実した店が意外に少ないと感じた。そこでフレンチとイタリアンの修業を積んだシェフを探し、自家製パンも出すことにした。

あるいは、銀座「フレンチバル ルフージュ」の佐々木淳史さんは、ほかのバルに欠けているのは「ハートフルな接客」だと感じたため、自身はお客と活発にコミニュケーションできる接客や店づくりを考えた。

B 事業計画

次に開業計画書を作成する。これは事業資金の融資を受ける際の提出資料であり、自身の事業の指針ともなる。この開業計画書には、コンセプトの全体像のほかに、次に挙げる計画数値を入れる。すなわち、投資、資金調達、売上、収支、返済、キャッシュフローなどの計画に加えて、長期収支予測である。この投資計画こそ開業に必要な資金で、次のような内訳となる。

●店舗工事費
●店舗機器取得費(おもに厨房機器の取得費用)
●什器備品費
●開業諸経費(宣伝広告費など)
●開業材料費(メニュー試作に必要な原材料費など)
●開業人件費(人を雇う場合の開業前の準備、トレーニングなど)
●運転資金(開業後の運転資金。最低でも3カ月分は必須)

以上の金額を合計すると、通常は坪あたりで約100万円になる。予算はオーバーがつきものなので、必ず別途予備費を計上しておこう。

C 売上計画

次に実際の売上計画を立てる。一日の売上高の計算は、坪数×坪あたり席数×満席率×客席稼動回数(客席回転率)×想定客単価で計算できる。客単価は決定したコンセプトと関連するので、メニューを見つつ注文の想定をしてみるとわかりやすい。一方の支出は、固定費と変動費で成り立っている。固定費は、家賃や厨房機器のリース料、自分(オーナー)の給与だ。変動費は食材原価率と、人を雇う場合の人件費が含まれる。食材原価率は売上高の25〜30%、人件費25〜30%、地代家賃を中心とする固定費は8%以下を目標とする。これらの合計を売上に対し7〜8割にまとめるように計画を立てる。細かい数字にとらわれすぎず「全体で利益が出るかどうか」を見極めることが肝心。

たとえばバルならば、小規模な店をつくって自分が店に立ち、人件費を抑えてその分を食材原価にかけるという考え方もあるかもしれない。

D 資金調達

開業資金は全額自己資金で始めるのが理想だが、それは難しいという人が大半だろう。

それでもなるべくなら半分、最低でも3分の1程度の自己資金を用意した上で借入れを考えたい。資金の調達先としては、信用金庫などの民間融資と日本政策金融公庫などの公的融資が主流だが、ほかにも、たとえば次のような調達方法がある。

●地方自治体からの融資(東京都であれば「創業支援融資」など)
●助成金や補助金(ハローワーク「受給資格者創業支援助成金」、独立行政法人 雇用・能力開発機構「中小企業基盤人材確保助成金」など)

2.店をつくる

A 物件探しと物件の取得

並行して進めておきたいのが物件探しだ。飲食業が「立地商売」であることは間違いなく、一度決めた物件は変えられない。物件情報は不動産会社だけではなく、店舗物件専門の会社、インターネット、店舗内装設計施工会社などから集めることができる。

リーズナブルな居抜き物件も最近は多いが、その場合は「居抜きでなくても借りたいか」と考えてみる。そのうえで水道、ガス、給排気の容量や厨房の区画、店舗造作が大きな変更なく使えそうかなどをチェックする。最終的に譲渡される造作のリストを前オーナーと確認をしつつ作成する。リース品やメーカー貸与の機器などは返却が必要で譲渡されないので注意が必要だ。

B 立地調査

自店のコンセプトと関わる立地環境の調査も大変に重要だ。最低限、次の点を確認する。

●店舗周辺の環境(事業所、住宅、商業施設、駅など)
駅や大型小売店があると商圏は拡大する
●店舗周辺の人の流れ 交差点や小売店など、人が集まる場所やよく利用する道(動線)を確認する
●メイン顧客と店舗へのアクセス
●近隣の競合店調査 競合店と自店の立地を比較し、各店の集客数から自店で予想できる来客数を予測する

これらの調査を行ったうえで、候補物件の可否、店のコンセプトや営業時間、客層などを考え、さらにサブコンセプトを練り上げる。

C メニューの設計

自店のコンセプトに合わせたメインメニュー(看板メニュー)と、それを支えるサブメニューを、量、味付け、提供方法を含めて考え、料理ごとの原価を計算して価格を決める。通常、食材原価率は30%前後に設定するが、それよりもまず「自分がいくらなら食べたいか」をイメージし、想定の注文皿数などを考えていったほうがよい。なお、ワインに関しても、最近は原価率ではなく、仕入れ値に一定の粗利額を積み上げる方法が多くなっている。

D 設計、施工をイメージ

まず次のふたつの全体像を決める。

●意匠面 お客の使い方や利用動機に合わせた外内装の雰囲気
●運営に必要な機能面 客席数や客席と厨房の効率のよい動線設計、必要な厨房機器など

客席レイアウトの決定にも店舗の視察が役立つ。坪席数を確認し、イメージをつかんでおこう。なお、店前や店の横にテラス席や立ち飲みスペースをつくれるかどうか、というのは意外と重要。店の稼動率に応じて、このスペースを活用すれば、客席数を増やせ、ウェイティングのお客も吸収できる。また、家賃がかからないのも魅力だ。

厨房は機能性を第一に設計し、開業計画のなかのピーク時の来店数や状況に対応可能な厨房にする。バルに多いオープンキッチンカウンターの設計には、お客の滞席時間や視線をふまえたカウンターの高さ、作業性などを考慮したい。ワインを扱う店であれば、調理の油煙が客席に漂わないよう排気性にも配慮が必要。

E 設計・施行業者の選定

設計・施工業者を探す方法として、インターネット、店舗設計の専門誌、知人の紹介などがあるが、いずれの場合も飲食店の設計施工経験が豊富で、実際に手がけた店舗を見てよいと思えた会社を選ぶ。自店のコンセプトと開業計画を伝えて共有、最初に伝える予算額は想定の80%程度とし、どうしても必要となったら、予算を上乗せしていけばよい。見積書は使用素材の単価や使用量を工事区分ごとに明記したものをもらう。「材料一式」などという見積書の表記をする会社は信用できない。いざ工事が始まったら、とにかく頻繁に現場に行く。イメージと違うところがあった場合でも、工事の途中であれば変更可能なことがある。

F 食材、物品、機器

メニューに必要な食材や調味料、ワインなどをピックアップし、取引業者を探す。同時に必要な備品類も確認しておく。大きく分類すると、調理用、お客用消耗品、掃除用、事務管理用の物品がある。食器やコースターなどは店のイメージを大きく左右するので、求める品質やデザインを考えて選ぶ。合羽橋などの問屋街だけでなく、インターネットや100円ショップも活用するとよい。

厨房機器の寸法はあとで後悔しないよう、ミリ単位まで正確に調べて、完成した厨房への搬入と撤去の方法も想定してから選ぼう。中古に比べ安くはないが、新品にはメーカー保証が付いている。予算を抑えたい場合は、中古の厨房機器を専門業者から購入することもできる。

G そのほか各種手続き

飲食店開業の際には、いくつかの届け出や事務手続きが必要だ。まず、店舗工事の設計前に、飲食店営業の許可申請をしておきたい。認可には食品衛衛生責任者を置き、施設基準に合う店舗であることが条件となっている。飲食店施行に不慣れな内装会社だと、完成した店舗が施設基準に合っていないことがある。事前に図面を持参して保健所に相談しておくと安心だ。

ほかには次のような届け出がある。

●深夜酒類提供飲食店営業開始届出(警察署)0時以降にアルコールを出す場合に必要
●防火管理者選任届け(消防署)
●開業届(税務署)など

3.シミュレーション

いつでもオープンできる状態になったら、料理やサービスのリハーサルを行う。早く開業をしたいところだが、オープン間もなくの失敗は多くの顧客を失う。最近ではオープン前にあえて宣伝告知をしない店も多い。これには、お客が少ないうちに調理や接客に慣れ、オペレーションを確立してから徐々に客数を増やすという狙いもあるようだ。いずれにせよ、できれば2週間程度のプレオープン期間を想定しておきたい。

伊藤由佳子・文/構成 高島不二男、伏木 博・写真

本記事は雑誌料理王国210号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は210号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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