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「ティルプス」ではレストランをブロードウェイやオペラ座に見立て、さまざまなイベントを行ってきました。箱と演者が同じなら演目を変えても成立すると考えたんです。「ティルプス」自体はロングランの演目のひとつで、ボクは出資者であり、監督であり、プレイヤーという。
「おもしろい!」だけで企画は進めず、お客さまを含め関わる全員が納得して動ける企画なのが前提です。数字を見るのは最後。最初のアイデア出しだけして、あとはスタッフに任せきりにするのは、成果をみんなに感じてほしいからです。
「4pâtissiers Cake Market @Tirpse」というイベントでは、“予約の取れない”4つのレストランのシェフパティシエの方にケーキを焼いてもらい、ブースでの販売もお願いしました。
当日は予想外に人があふれ、買えない人が続出。並ぶ人が道をふさぎ警察がくるほどでした。SNSで「ひどい運営」と叩かれるなど、開業以来、最も怒られた日に。でも興味深かったのが、SNSにメッセージをくれた人の中には「ティルプス」が一体何なのか知らない方もいたことです。当日もイベントの運営スタッフに間違われる始末。でも、イベントごとにお客さまが違うことで、ターゲットを絞ることの大切さを学んだ気がします。
「型があるから型破り、型がなければ形無し」という「守破離」の言葉を大切にしています。
でも、「型破り」を推奨する気はなく、ボク自身もどちらかというと「型を破っているように見せかける」というのが、いつものやり方です。
辻静雄やブリア・サヴァラン、世阿弥や千利休などの本を読んでイベントの内容を思いつくこともあります。まずは型を身につけ、その型を破るのではなく自分流に変えるのです。
ただ、自分流と思っても実はすでに誰かにやられていることもあるので、インターネットを使って同じようなイベントがないか確認するようにしています。「◯◯に似ていますね」と言われるのは、恥ずかしすぎます。
型といえば、ボクにはボルドーや東京の二ツ星・三ツ星レストランでソムリエをしていた時の「型」があります。ボクがペアリングにお茶やカクテルを使うのは、その型を展開させているだけ。型通りにとてもクラシカルなボルドーを使うことだってよくあります。引き出しを多く持つことがソムリエの使命だと思っています。
また、白金台という立地にフレンチレストランをオープンさせたという「型」もあります。その型を発展させて、新店舗を構えることがあるかもしれません(店をやめたばかりで、まだその考えはありませんが)。
そして「型」のいいところは、「型」さえ守れば、革新的なこともハードルが下がること。たとえば、以前に韓国料理のコースのイベントをやったことがあります。フレンチの店で韓国料理というと奇抜に感じるかもしれませんが、フレンチの前菜、スープ、メイン、デザートといったコースの「型」に則って構成しました。そのため、お客さまにすんなりと受け入れてもらうことができました。
独立開業し、初日に料理を出すことは誰しも不安に感じることだと思います。でも、自分の「型」をただ信じるしかありません。
Q. 「お店のコンセプト、どのように考えたら失敗がありませんか?」
コンセプトは最も単純な問題だと思っていて、自分が一番情熱をかけられるアイデアをコンセプトにすべきです。それは、誰かのものと似ていませんか? 誰かに言われたものではないですか? 自分の内側から湧いてきたアイデアであるのが必須です。もちろん、失敗する可能性はあります。でも、失敗って何が悪いのでしょうか? ボクは失敗の積み重ねでここまできました。うまく見せる努力をしただけです。
大橋直誉
フードキュレーター&「ティルプス」オーナー
1983年北海道生まれ。調理師学校卒業後、東京の「レストランひらまつ」に入社。退社後は、フランス・ボルドー二ツ星 「コルディアン・バージュ」のソムリエに。帰国後、白金台の三ツ星レストラン「カンテサンス」で働いたのち、「ティルプス」を開業。世界最速でミシュラン一ツ星を獲得。 現在は、店舗にてサービスを務めながら、フードキュレーターとしても活躍する。
本記事は雑誌料理王国295号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は295号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。