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「ティルプス」で過去に行ったイベントをざっとご紹介すると、ランチ営業を閉めてのとんかつ屋「つかんと」、お茶と日本酒のペアリングコース「Hyacinth by TIRPSE」、1年間限定のデザートレストラン「Kiriko NAKAMURA」、7人のシェフの対決「7Samurai」、日本酒蔵7人と料理人7人のコラボレーション(醤油、味噌、日本酒などの職人さんによる深夜のワークショップ)「CraftsmanMidnightWorkshop」、韓国料理のコース「韓食」などがあります。
実施期間はイベントにより1日~1年と幅広く設定。というのは、イベントは通常営業と違いあくまで「ステージ」なので、これなら行きたいとボクが思える期間にしたからです。
そして、イベントだからといって働きすぎは禁物です。スタッフに無理をさせていいことはありません。「絶対成功させないといけない!」みたいな気合いを入れたこともありません。通常の営業がなにより一番大切だからです。イベントは集客のツールではなく、チームにもお客さまにも実験に付き合ってもらうという感覚を持つことが大切です。
イベントの告知はすべてSNSだけで行いました。時間や金額、内容をどのくらい開示するのかは悩みどころです。最初のうちは、「何皿ですか?」「何が出ますか?」など問い合わせが多くなるので、お客さまにストレスのない発信の仕方は考えるべきです。
「ティルプス」の閉店は2年以上の時間を費やして準備してきました。まず大切なのは「スタッフが順調に次のステップにつけるか?」ということです。もちろん、閉店をわかって働いているわけですが、チャレンジできる道を進んでほしいし、高みを目指して仕事をしてほしい。そしてこの先、ボクが努力して進んだ未来で再会できたら嬉しいです。
スタッフの実際の進路ですが、コラボレーションした渥美創太シェフのレストランで働くためにフランスに行く子、NYや香港で働く子、国内で新規立ち上げの主要メンバーとして働く子など、個々に素晴らしい活躍を見せてくれそうです。
店づくりをしているときは、「あれがない、これがない」といろいろ買い足しましたが、お店を閉める段階では、「こんなに物があったのか」と驚きました。自業自得ですが粗大ゴミの収集の申し込みが遅れ、ビルに鍵を返却し終わった翌日に、店の前でゴミ収集車を待つはめに。
ボクが買った本が店には大量に置いてあったのですが、そのうち国内・世界のレストランに関する本などは、ほとんどをスタッフに譲りました。また、店の器もスタッフや友人に譲ることに。どこかのお宅の食卓で、「ティルプス」ごっこでもしてくれたらと思っています。
一体、どんな気持ちで最終日を迎えるのだろうかと考えていましたが、一粒の涙もなく、年末の事務仕事の多さに手を焼いていました。解約など書類面の整理、銀行などの経理作業、自分の拠点の移動に伴う役所周りを、すべて前もって行うことができていれば、これほどバタバタしなかったのかもしれません。
最後に自分自身の今後です。ボクはいま35歳。自分に何ができるのか、この先どうなっていくのかは、サービス・ソムリエの人にとってひとつの指針になると考えていて、身を引き締めているところです。
Q. 「SNSで告知をする際に気をつけていることはなんですか?」
長文を投稿することもありますが、とにかく写真にこだわったほうがいいと思います。写真の撮り方の本を買い、きれいに写真を撮るための参考にしていました。また、広告費と考えて性能の高いカメラを買うべき。ボクはインスタグラムでトップレベルの写真家を多くフォローしているのですが、それは日頃からクオリティの高い写真に触れるためです。
大橋直誉
フードキュレーター&「ティルプス」オーナー
1983年北海道生まれ。調理師学校卒業後、東京の「レストランひらまつ」に入社。退社後は、フランス・ボルドー二ツ星 「コルディアン・バージュ」のソムリエに。帰国後、白金台の三ツ星レストラン「カンテサンス」で働いたのち、「ティルプス」を開業。世界最速でミシュラン一ツ星を獲得。 現在は、店舗にてサービスを務めながら、フードキュレーターとしても活躍する。
本記事は雑誌料理王国296号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は296号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。