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フードキュレーター大橋直誉の独立開業myルールvol.1 料理ができなくても違う道を辿って独立開業した先は


独立開業までの軌跡

限界を決めず自分らしさを追求すれば、道が開ける

こんにちは。フードキュレーターの大橋直誉です。

まず最初に、ボクはまったく料理ができません。広尾の「レストランひらまつ」本店で料理人として1年間働きましたが、今までの飲食人生でボクより仕事ができない人間を見たことがありません。そんなボクが独立開業に至った経緯、「ティルプス」で行ったさまざまな仕掛けなど、失敗談を含めこの連載で話していきます。「ティルプス」のことは、「カンテサンス跡地」「世界最速でミシュランの星を獲得」というキャッチコピーでご存知の方もいるかもしれません。ボクはオーナーでありソムリエでもあるのですが、「フードキュレーター」という肩書きでも活動しています。キュレーターとはもともと美術館の学芸員のこと。こんな異色の肩書きがどのようにできたのか――。

後でも出てきますが、ボクは高校卒業後、競輪選手を目指していました。しかし試験に失敗し、「調理師学校を出て地元のホテルに就職すれば、定年まで働ける」と親からすすめられ、専門学校へ。卒業後「レストランひらまつ」に入社したものの料理はまったくダメで、サービスに転向し、ワインの勉強を始めました。3年後、「当たって砕けろ」と渡仏し、ボルドーの「コルディアン・バージュ」という二ツ星レストランでソムリエを経験。その後、帰国し「カンテサンス」に入ります。そして「カンテサンス」移転に伴い同地にて「ティルプス」をオープン。その段階では、もちろんソムリエ・サービスの知識だけでした。

つながりが開いた未来

アイデアを形にするのは培った人脈やスタッフたち

レストランを始めると、人とのつながりが爆発的に増えていきます。食材をつくる農家・漁師の皆さん・酢や醤油をつくる職人さんだけでなく、それを応援する市町村の方々。たとえば、福岡・糸島市の「ミツル醤油醸造元」の城慶典くんが「ティルプス」に食事にきたときは、その週末にすぐさま福岡へ。そしてそのクオリティに感動して、ミツル醤油を使ったビーフジャーキーをつくります。クラウドファンディングを始めると、驚くことに2晩で200万円も集まりました。

サービスマンにできることを突きつめていたら、いつしかフードキュレーターという道も開けていました。

現在ボクは、カヌレも作っています。カヌレとはボルドーの郷土菓子で、ボクの働いていた「コルディアン・バージュ」では毎日、レストラン・ホテルにいらっしゃるお客さまの分を焼いていました。その時からカヌレが大好物で、いつか日本でフランス人が喜ぶカヌレを焼こうと思っていました。そんなフランス人が自分の国に買って帰りたくなるようなカヌレをつくるのに協力してもらっているのは、ボクの親友で、京都・松本酒造の松本日出彦さん、宮崎・黒木本店の黒木信作さんのふたり。日本のテイストということで「松本酒造」の酒粕を混ぜて味をつけ、「黒木本店」の焼酎を使って香りをつけて、それを「ティルプス」のパティシエにレシピにしてもらう。京都・伊勢丹の催事から声がかかり参加したときは、催事の途中で完売したほどでした。

さらに、今年の6月に函館競輪場で、「エレカプース」というスープカレー屋さんを始めました。ボクは18歳から21歳まで競輪選手を目指して、毎日のように函館競輪場で練習していたのですが、それを知らずに函館市から出店の依頼がきたことは、運命のように感じました。「オニオングラタンスープカレー」というフランス料理のテイストを入れたメニューがあり、それも「ティルプス」のスタッフにレシピにしてもらったものです。

フードキュレーターという肩書きのとおり、Webでは「TIRPSEShop」という、「ティルプス」を通して出合い、自分が感動した、日本の生産者がつくる食材や陶芸作家による器などを紹介する場所もあります。

最初に話したように、ボクは食べるものをつくれません。キッチンでは本当に仕事ができず、逃げるように料理人をやめました。そんなボクだからこそできるのは、料理人・職人へ最大限のリスペクトを持ちながら、お客さまも含めてみんなが同じ方向を向けるようなストーリーを考えることだと思っています。

独立開業にまつわるQ&A

Q. 「将来独立開業を考えています。下積み時代、どうやって過ごせばいいでしょうか?」

A. 独立開業はゴール地点であり、スタート地点です。知識、経験、金銭面などはそれぞれの事情があり、完璧な状態はあり得ません。新規開業した飲食店は、1年で50%しか残らないというデータのとおり、現実は厳しい。誰かに指導を受けるのは独立とともに終わるということを意識しながら、自分に嘘をつかない、自分を裏切らない毎日を送ることが大切です。そうすれば自分を信じる心「自信」が育ちます。

大橋直誉
フードキュレーター

1983年北海道生まれ。調理師学校卒業後、東京の「レストランひらまつ」に入社。退社後は、フランス・ボルドー二ツ星 「コルディアン・バージュ」のソムリエに。帰国後、白金台の三ツ星レストラン「カンテサンス」で働いたのち、「ティルプス」を開業。世界最速でミシュラン一ツ星を獲得。 現在は、店舗にてサービスを務めながら、フードキュレーターとしても活躍する。

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本記事は雑誌料理王国289号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は289号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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