フードキュレーター大橋直誉の独立開業myルール特別編 どうすれば支援を受けられる?大橋流の成功法を教えます


これまでの連載はこちら

vol.1 料理ができなくても違う道を辿って独立開業した先は
vol.2 語学ゼロでの渡仏確信とサバイバル力で無謀を成功に
vol.3 食べ歩きの修業時代肌で感じたことが独立の武器に
vol.4 ボクの人生の転換点とっさの一言が独立への歯車に

どうすれば支援を受けられる?大橋流の成功法を教えます

「どうしてそんなに支援を集められるんですか?」と聞かれることがあります。確かにこれまでを振り返ると、思ってもみないサポートを運よくたくさん受けてきました。ここでは、その運を勝ち取った成功の要因を自己分析してみたいと思います。

こんな支援を受けました ①

クラウドファンディングで多額の出資金を獲得

成功の秘訣
その1 ストーリーのある商品を作る
その2 信頼のおけるクラウドファンディングサイトを選ぶ
その3 徹底的に名前にこだわる

連載第1回でも書きましたが、以前、知り合いの醤油職人が作る醤油を使ったビーフジャーキーを開発し、クラウドファンディングを始めると、なんと2晩で200万円もの出資金を集めることができました。

「売れるものを作ろう」ではなく、「自分が本当におもしろいと思えるもの」を作ろうという思いでした。「ティルプス」を通して知り合った、「ミツル醤油醸造元」の城慶典さんが作る醤油にほれ込んでいたので、その醤油を使って作ることを思い立ったんです。「ミツル醤油」自体にも物語があり、また人とのつながりで生まれたという意味でもストーリーのある商品。このことは商品だけでなく、店にも当てはまると思います。

 数あるクラウドファンディングサイトの中で「Makuake(マクアケ)」を選んだのは、当時より案件が多く信頼できたから。実は友人が幹部だったという縁もあるのですが、実際は現場スタッフの頑張りが何より助けになりました。「Makuake」の発信力のおかげもあり、出資金が多く集まったと思っています。

 ボクの場合、商品名や店名は造語にすることを意識しています。たとえば、このビーフジャーキーの商品名は「BeefJoker(ビーフジョーカー)」ですが、「jerky」の書き間違いで生まれたもの。響きがよく“ビーフジャーキー感”もあるので、そのままにしました。英語やフランス語で言葉を作り、意味は自分で考えるぐらいでといいと思います。

こんな支援を受けました ②

新事業の依頼を受けたり、イベント出演の機会をもらう

成功の秘訣
その1 日々の取り組みや今後についてSNSで発信する
その2 人を巻き込む
その3 外に出る

函館の競輪場から出店依頼がきたり、他店からワインリストやペアリングの考案の依頼を受けたりと、多岐にわたる依頼を受けることがあります。また、さまざまなイベントから声をかけてもらいソムリエとして出演することも、店を広く知ってもらういい機会となりました。

ボクは、レストランはメディアだと考えています。新しい料理や仕掛け、イベント、そのとき興味があるものなどを常にSNSで発信していると、見た人に興味を持ってもらえたり、新しい人とのつながりが生まれたりします。人脈を作ろうと頑張るよりも、魅力あるストーリーを感じる商品や店、イベントなどを作り出して、応援してくれる人を集めるべき。先輩や後輩も含め、周りの人がおもしろがって仲間になりたいと思ってもらえる人を目指すといいとボクは思います。

また、ボクは飲みや食事に誘われたりした時に断ることはありません。外に出た先で会話を交わすうちに、イベントや事業の話に結果的につながったということがよくあります。営業活動をしたことはありませんが、自分を売り込むことは素晴らしいと思います。

こんな支援を受けました ③

独立したときに、居抜き物件を提供してもらった

成功の秘訣
その1 信頼関係をきずく
その2 周りに今後の展望を話してみる
その3 周りの目を気にしない

連載で詳しい経緯などは紹介してきましたが、「ティルプス」は自分がもともと働いていた「カンテサンス」の居抜きで開業しています。自分が働いていた場所での独立は、起こり得る問題やオペレーションが予想でき、スムーズに店をスタートできました。

「カンテサンス」の岸田周三シェフに、「ボクのこと信頼していましたか?」と直接聞いたことはありませんが、信頼関係があったからこそ譲っていただけたのだと思います。「カンテサンス」の偉大さに重責を感じ、名前に傷をつけないように常に意識していたことが、信頼関係に結びついたのかもしれません。

同じ境遇の人と話をしてもただの目標の語り合いになるので、信頼できる先輩に展望を話してみるべき。「この物件で独立してみる?」なんて都合のいい話が転がってくることはないので、多くの人にビジョンを語ることが大切です。何らかのリアクションが得られて、自分に合った場所に出合う確率が上がると思います。

当時、「カンテサンス」の跡地で独立するリスクを周りからあれこれ言われたり、ネットなどで「カンテサンス」と比べられたりしましたが、いちいち気にしていられません。店の入り口に狼の彫刻を置いて、照明を強くして、音楽をテクノやR&Bにして1年も店を続ければ、前の店と比べられることはなくなります。自分がやりたいことだけに集中していればいい。そんなボクだから、気軽に物件を譲ってもらえたのだと思います。

大橋直誉
フードキュレーター&「ティルプス」オーナー

1983年北海道生まれ。調理師学校卒業後、東京の「レストランひらまつ」に入社。退社後は、フランス・ボルドー二ツ星 「コルディアン・バージュ」のソムリエに。帰国後、白金台の三ツ星レストラン「カンテサンス」で働いたのち、「ティルプス」を開業。世界最速でミシュラン一ツ星を獲得。 現在は、店舗にてサービスを務めながら、フードキュレーターとしても活躍する。

関連記事


本記事は雑誌料理王国292号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は292号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする