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https://cuisine-kingdom.com/naotaka-ohashi-vol9
「ティルプス」では、ヘッドシェフとスタッフ数名という体制でしたが、スタッフの人数は流動的で、少ない時はボクを含め2名、多い時は6名に研修生が1名でした。
「未経験者を育てるのか、即戦力になる人だけで固めるのか」といったチームビルディングの戦略を考えるにしても、「飲食業界の人材不足」の問題がついて回ります。でも、そんな問題をよそに、タイミングよく、しかも未経験者と経験者をバランスよく採用できたのは、ただただ運がよかったと思います。
「いいチーム作りのために心がけていることは?」と聞かれることがありますが︑﹁ティルプス」はすべてがゆるく放任主義でした。指導がないから伸びないスタッフは伸びないし、引き止めないから辞めたい人は辞める。
これは、雇われている以上、モチベーションも含め自己管理してプロとして自分で技術を磨くべきという思いのうえでの放任です。よく勉強していたり、力をつけたと判断したスタッフには、実力を発揮するイベントの場を用意するのがボクの役割です。
チーム作りをあえてしなくても、「自分で考え自分で行動する」姿勢を身につけた人の集まりだったからこそ、自然といいチームワークができていたような気がします。
ボク自身、「今できることは何か」を考えて動いてきただけで、目標に向かって指針を出し、チーム作りをするほどのリーダーシップがないのも、そんな独特なマネージメントの理由かもしれません。
最近人に会うと必ず聞かれるのが、「いま、何やってるんですか?」という質問。
メインの仕事はなく、出勤の概念もありません。依頼を受けて、レストランでペアリングやオペレーションの提案をしたり、寿司・天ぷら店でドリンクのサポートをしたり、イベントで企画の考案や当日のサービスもやっています。
またこれらと並行して、新規オープンのホテル・ラウンジのコンサルティング、ショコラティエのディレクション、広島でジビエソーセージを創るクリエーター集団の東京支部長といった活動もしています。
ジャンルは多彩ですが、これまでのサービス人・ソムリエ、飲食店経営者としての経験を踏まえて、声をかけてもらっているのだと思います。
今後に向けた仕込みもしていて、「ティルプス」の名前でカヌレを販売したり、今年8月にスタートする香港でのプロジェクトや、来年スタートのとんかつバル「つかんと」に向けて奔走中です。
でも誰かに雇われているわけではないので、来月は急に仕事がこなくなり無収入になるかもしれません。
今は、自分自身、英語力やソムリエとしての実力が圧倒的に足りないと感じています。いろいろと活動はしていますが、今年は自分のスキルを上げてインプットすることに集中したい。そしてこの先の「飲食人」としてのアウトプットが向上して、ハッピーにもっと好き勝手やれるようになればいいなと考えています。
ボクは忙しいほうが好きで、誰かに必要とされるのも嬉しく、「ティルプス」の頃より頭は動かしています。それは、つぶれたレストランの人間ではなく、自分で閉めることを選択した人間だからかもしれません。
皆さんも思い切って今の働き方をやめてみてはいかがですか? ゼロではなく、新しいスタート地点に立つだけです。
Q. 「繁盛店にするために、接客で気を付けることはなんでしょうか?」
接客というのは、心でするもの? それともスキルでするものでしょうか? 「心がない」のは論外です。スキルを上げようと努めることは、「心がある」からだと思います。そして、気付きと『当たり前』のレベルを上げることが大切です。接客はお客さまが来店する前から始まっていて、掃除はもちろん器・音楽の選択も接客のひとつ。個性があっても、基本的なことが完璧にできていなければ、「行き届かない」と判断されます。
大橋直誉
フードキュレーター&「ティルプス」オーナー
1983年北海道生まれ。調理師学校卒業後、東京の「レストランひらまつ」に入社。退社後は、フランス・ボルドー二ツ星 「コルディアン・バージュ」のソムリエに。帰国後、白金台の三ツ星レストラン「カンテサンス」で働いたのち、「ティルプス」を開業。世界最速でミシュラン一ツ星を獲得。 現在は、店舗にてサービスを務めながら、フードキュレーターとしても活躍する。
本記事は雑誌料理王国298号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は298号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。