伝統的なフレンチを気軽に味える点が気に入っています。オーナーシェフの塩川さんはワインに詳しく、勧めてくれるビオワインもおいしい。また塩川さんは穏やかな性格でやさしい方。そういう方がいつもお店にいらして会話ができる。心休まる時間が嬉しい店です。
パリのほぼ中央に位置する6区、セーヌ川の南側に「ポリドール」という大衆食堂がある。それは、当時「ビストロカンパーニュ」をオープンしたての塩川達司さんがフランスを訪れた際、もっとも気に入った店だった。古びてはいるが風格のある店構え。伝統に則った正統派のフレンチを楽しむ客の表情は明るく、皆リラックスしている。「こんなふうに長く愛される店にしたい」と、「ビストロカンパーニュ」の未来を「ポリドール」に重ねた。
あれから20年。塩川さんの店は東京の下町、蔵前という職人の街で愛されるビストロに成長した。
人気の理由は、開店当初から変わらない手作りへのこだわり。たとえば田舎風パテやソーセージなどの前菜から、冬はポトフやカスレといった煮込み料理、夏は香草を使った爽やかなソースまで心を込めて調理する。ボリュームたっぷりなのにも定評がある。ふたりで訪れた場合、ニンジンのラペや鴨砂肝のコンフィなどの前菜も、メインの肉料理も、ひと皿をシェアして充分の量だ。「ワインは私自身が好きなので100種ほど置いてありますが、ビールでもジュースでも、お好きなものをどうぞ」と塩川さん。ワインは「おいしい白が飲みたい」「軽めの赤をください」とオーダーすれば予算内で選んでくれる。
20年前はビストロといっても気取った店が多かったため、「堅苦しく考えず、とにかく自由にフランス料理を楽しんでほしい」と思った。それを今も貫いている。
また、塩川さんの穏やかな人柄に惹かれて店に通う人も少なくない。お手本はシェフの「おばあちゃん」。このビストロのある場所には、昭和初期、祖母の経営するミルクホールが建っていた。そこに集まる人々が織り成す幸せな喧騒を塩川さんは今、自分の店で再現しているのだ。 塩川さんにとって蔵前は、生まれ育った愛着のある街だが、「少し前まで、夜になるとゴーストタウンだった」と笑う。それが、スカイツリーの誕生を皮切りに下町の再開発が進み、景観や人の流れは変わりつつある。しかし、職人の街に息づく精神は簡単には変わらない。誠実にモノ作りに励む人を育んできた街は、同じように本物の味を貫くこのビストロを静かに見守っている。
自家製ソーセージ
定番田舎風お肉 のパテ ポルト酒風味
鶏レバーのムース アカシア風味のハチミツがけ
鴨砂肝のコンフィと キノコのサラダ落とし卵のせ
牛肉のバベット(ハラミ) 網焼きステーキとジャガイモのフリット
ドメーヌ・モンマルテル(フランス・コート デュ ローヌ)
マルセル・リショー(フランス・コート デュ ローヌ)
シャトー・ガイヤール(フランス・ロワール)
シャトー・レ・シャルム・ゴダール(フランス・ボルドー)赤・白
ビストロ カンパーニュ
Bistro Campagne
東京都台東区蔵前4-20-9 塩川ビル1F
03-3866-3202
● 12:00~13:45LO(火~日)18:00~21:30LO
● 月、第1・3火休
http://bistro-campagne.jp
上村久留美=取材、文 依田佳子=撮影
本記事は雑誌料理王国第239号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第239号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。