2023年12月7日、東京・赤坂のレストラン「KIGI」にて、フランスから空輸した食材を用いた本場のブイヤベースの試食会が開催された。このイベントは、南フランスの伝統料理であるブイヤベースのユネスコ無形文化遺産登録を目指すもので、今回は一昨年のニューヨークに続く第2回目としてアジアでは初の開催。当日は約70名の参加者が、ブイヤベース憲章で定められている素材、作り方、作法に則り本物のブイヤベースを楽しんだ。
今回ブイヤベース作りを担当したのは、1975年からマルセイユ近郊でブイヤベースを提供しているレストラン「La Calanque Blue(ラ カランク ブルー)」。3代目オーナーのイバン氏をはじめ、シェフのチボー・ブタン氏ら総勢18名のスタッフが前日に揃って来日。食材のみならずブイヤベースに合わせるシャンパン、ワイン、水に至るまで全てフランスから空輸し、テーブルにはレストランで実際に使用しているナプキンやブイヤベース専用のエプロンもセットされるなど、店内には一夜限りの「ラ カランク ブルー」が再現されました。
人気の観光地でもあるマルセイユでは、さまざまな店が独自のブイヤベースを提供する中、地元産以外の具材を用いる店が乱立したことを憂いた老舗数軒によって定められたのが「ブイヤベース憲章」です。「ラ カランカ ブルー」もその老舗の一軒として、本物のブイヤベースを積極的に提唱しています。
【ブイヤベース憲章】
・カサゴ、アンコウ、ホウボウ、マトウダイ、足長ガニなど、憲章に記載されている4種類以上のマルセイユ産の魚を具材として使うこと
・ジャガイモを入れて塩、コショウ、サフラン、フェンネルなどの調味料で味付けする
・貝類や鯛、ヒラメ、オマール海老、ムール貝、タコ、イカは入れない
・オプションで伊勢エビは入れることができる
今回のイベントでは、この憲章に則ったブイヤベースを提供するため、朝獲れの魚をその日のうちにフランスから日本へ空輸。通関でのトラブル発生に見舞われる一幕もありつつ、イベント当日の昼頃には全ての食材が会場へ無事到着しました。
ブイヤベース憲章には調理法や提供方法についても定められており、「使用する魚を大皿に盛って客に披露してから切り分けて使う」のが特徴的。今回のイベントではフランス人スタッフが各テーブルを回り、マルセイユ近郊で獲れた色鮮やかな魚を披露しました。
この日振る舞われたスペシャルディナーをご紹介します。
ブイヤベースのスタートはスープを味わうことから。マルセイユの魚で出汁を取ったスープ・ド・ポワソンには、ルイユとグリュイエールチーズを載せたバゲットが浮かべられています。ルイユとは塩、すりおろしたニンニク、卵黄にオリーブオイルを加えて乳化させたアイオリソースに、たっぷりのサフランを加えたもの。
先ほどテーブルを回ってきた魚のメインディッシュがこちら。この日使われている魚は西洋アナゴ、ハチミシマ、ホウボウ、カサゴ、マトウダイの5種類。「上から味が淡白なものから濃厚なものへと順に食べるのがおすすめです」とスタッフ。同じ白身魚でも一つ一つ異なる味わいを噛み締めながら食べ進めていきます。スープはおかわりが自由なのも特徴です。
さらに、メニューには載っていないサプライズとして、オーナーが「マルセイユの丘を埋め尽くすタイムの香り」と紹介したリキュールが食後酒として振る舞われました。
この日のオープニングセレモニーでは、国連ニューヨークのフランス大使館で働くザビエル氏、フランス大統領付きのメートルデトルを務めるゴメス氏も出席し、日本でのブイヤベースチャレンジの実現に喜びのコメントを寄せました。このプロジェクトは今後も年1回頻度での開催を予定しており、次回の候補地はオセアニアとのこと。
ブイヤベース憲章を掲げ、マルセイユから本物のブイヤベースを世界に発信することでユネスコ無形文化遺産登録を目指す、ブイヤベースチャレンジの今後に注目です。
text, photo:田中はなよ