紀元前600年に遡る歴史を持つ南仏の商業港、マルセイユの名物といえば、魚のスープ「ブイヤベース」をおいてほかにない。
だが魚のスープならば、同じ地中海沿岸のラングドック地方の港町Sète(セート)にも、ハーブを使った「ブリッド」がある。北に目を転じれば、ブルターニュには、バターの入る「コトゥリヤード」も。では、ブイヤベースのブイヤベースたるゆえんは何か?
老舗レストラン数軒が標榜する「ブイヤベース憲章」によれば「カサゴなど地の磯魚を最低4種類以上使う」、とある。
だが、実際には4種どころか、ムール貝やオマールを入れる店もある。ポイントはむしろ「新鮮な魚を使うこと」、そして必ず「魚をテーブルで切り分けること」だろう。どの店でも、まずはスープを楽しみ、次にそれに入っていた丸ごとの魚をメイン料理として楽しむようにサービスされる。欠かせないのは、アイオリ(※)またはルイユと呼ばれるソースと、ふんだんに入るサフランだ。
このスープの起源は、古代ギリシャの魚のラグーとも、あるいは港で魚を売る漁師が、売れ残りの魚を持ち帰って煮たもの、などとも伝えられる。しかし、高価なサフランを使い、魚をメインとして別に提供することからもわかるように、現代のマルセイユのブイヤベースは、すでに立派な「ごちそう」。新鮮な磯の白身魚を使った、上品であっさりしたスープと、軽くて力強い味わいの地中海の魚を満喫する。どんなスープよりも、現地のレストランで楽しむ価値のある、ハレの料理だ。
(※)アイオリとは、塩、すりおろしたニンニク、卵黄にオリーブオイルを加えて乳化したもので、ブイヤベースだけでなく、南仏では魚料理によく添えて出される。ルイユはこのアイオリにサフランを加えたもの。店によっては少し辛味をつけているところもある。
磯の魚でスープをとっておき、メインとなる魚は、オーダーごとにスープで軽く火を通して提供する。
磯魚とはいえ白身主体なので、その味わいは実に上品。
材料(2人分)
アンコウ…1尾
トラギス…1尾
ホウボウ…1尾
マトウダイ…1尾
カニ…2杯
ジャガイモ(皮をむいてゆでておく)…4個
サフラン液(色づけ用)…適量
香味野菜(タマネギ、セロリ、ネギ、ニンニク各適量をきざむ)…約1kg
オリーブオイル…45mL
パスティス…30mL
スープ・ド・ポワソン…3L
塩…30g コショウ…適量
サフラン(粉末)…15g
ルイユ…適量
薄切りのバゲット…適量
グリュイエールチーズ…適量
作り方
text by Yukako Ito photographs by Masatoshi Uenaka
本記事は雑誌料理王国第186号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第186号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。