2026年2月26日、東京・赤坂の在日カナダ大使館にて「アフタヌーンティー特別体験会」が開催された。テーマは“カナダ風アフタヌーンティー”。第一部ではカナダの食文化や食材を紹介するセミナーを実施し、第二部では会場をへ移して、カナダ産食材・飲料で構成されたアフタヌーンティーが提供された。多文化国家カナダならではの食材と料理の可能性を体験できる機会となった。

近年、日本のホテルやレストランでは、身近な海外体験やプチ贅沢としてアフタヌーンティーが人気を集めてきた。SNS映えもその背景にある。一方で、トレンドの成熟により、テーマ性やストーリーを持たせた新たな提案も求められている。
英国文化を背景に持つアフタヌーンティーに、多文化国家カナダの食材や料理を取り入れることで、新しい食体験の可能性を探るのが今回の試みだ。会場には、ホテル・レストラン関係者約40名が集まった。

第一部では、在日カナダ大使館商務部 陳(チェン)アレックス参事官(農務・食品)が登壇。カナダの食文化の背景について説明した。
カナダといえば、ナイアガラの滝やロッキー山脈、あるいは『赤毛のアン』の舞台であるプリンス・エドワード島など、雄大な自然のイメージを思い浮かべる人も多いだろう。メープルシロップの産地としても知られるが、広大な国土を背景に、農産物や水産物など多彩な食材を生み出す国でもある。
カナダは世界で2番目に広い国土を持ち、太平洋・大西洋・北極海の三つの海に面している。地域ごとに気候が大きく異なるため、水産物から農産物まで年間を通して多様な食材が生産されている。


春にはロブスターやズワイガニ、サーモンなどの魚介、メープルの樹液の採取とシロップの生産。夏にはブルーベリーなどのベリー類やトマト、ワイン用のブドウ。秋には小麦やカノーラ、キノコ。冬にはアイスワイン用のブドウが収穫期を迎える。こうした四季折々の農水産物が、カナダの食文化を形づくっているという。
また、カナダは歴史的に英国とフランスの影響を受けてきた国でもある。そのため、英国のアフタヌーンティー文化やフランスの食文化が融合した独自の食文化が育まれてきた。

こうした多様な食文化を背景に、カナダの多文化性を反映したアフタヌーンティーを提案したのが、アフタヌーンティー文化の専門家である倉橋由利子さんだ。
近年のアフタヌーンティー市場の動向を解説し、ホテルにおける新たなテーマ提案として、食文化や地域性を取り入れた企画づくりが差別化の鍵になると指摘する。
英国文化の影響を受けたサンドイッチやスコーン、フランス文化に由来するチーズや菓子、さらに先住民文化に根ざした食材など、カナダの異なる食文化をひとつのストーリーとして構成することで、新しいアフタヌーンティー体験の可能性を示した。

セミナーではこのほか、カナダビーフやカナダポーク、アイスワイン、ワインなど、カナダを代表する食材や飲料についても紹介された。これらの食材の一部は、第二部で提供されたアフタヌーンティーのメニューにも取り入れられている。


大使公邸に会場を移した第二部では、カナダ産食材・飲料を取り入れたアフタヌーンティーが提供された。
ウェルカムドリンクには、カナダ発のオーガニックティーブランド「フォーオクロック」のハーブティー「有機ザクロエキナセア」を使ったアレンジドリンクが提供された。リンゴジュースとオレンジフラワーウォーターを合わせ、炭酸サイダーとレモン汁で味を整え、冷凍したカナダ産ブルーベリーを浮かべた一杯。鮮やかな赤色が会場を華やかに彩った。


最初に提供されたのは、カナダ東部沿岸の食文化を象徴するチャウダーだ。魚介とクリームをたっぷり使うスープで、カナダで親しまれている伝統料理のひとつだ。
もともとは17世紀にフランスからの移民がカナダに伝えた料理がルーツとされ、ロブスターやズワイガニ、白身魚など豊かな海の恵みを使いながら各地で独自の発展を遂げてきたという。
今回はカナダ産ズワイガニを使い、アフタヌーンティーに合わせてデミタスカップの一口サイズで提供された。小さな一杯ながら、具材の旨味をしっかりと感じられる仕立てとなっていた。

続いて提供されたのが、アフタヌーンティーの定番メニューをカナダ食材で再構成したセイボリー。先住民文化の要素も取り入れた5品で構成された。
料理を手がけたのは、カナダ出身のシェフ、クエンティン・グラブスさん。先住民族をルーツに持つ祖母の料理に触れて育った背景を持ち、その文化的要素を取り入れたメニューを提案した。

1品目は、カナダ東部マリタイム地方の名物であるロブスターロールを再解釈した「ロブスターシュー」。バターを使ったロールパンではなく、シュー生地にカナダ産ロブスターを詰めることで、食べやすく軽やかな食感に仕立てた。火入れは最小限に抑え、塩分も控えめにすることでロブスター本来のうま味を際立たせている。
2品目は、ハーブを練り込んだショートブレッドにスモークパプリカのムースと、炭焼きにしたカナダ産ドライトマトを添えた一品。ドライトマトの凝縮したうま味にスモークパプリカの香りが重なり、コクのある味わいに仕上げられている。ハーブの風味を効かせたショートブレッドがアクセントとなり、軽やかな口当たりと香りを添えていた。

3品目は、2カ月の試作を重ねたという、カナダ産ワイルドライスを生地に練り込んだマカロン。焙煎してパフ化したワイルドライスをアーモンド粉とともに生地に配合し、メープルピーカン、玉ねぎとイチジクのチャツネを合わせた。ほろ苦さと香ばしさに繊細な甘みが重なり、従来のマカロンのイメージを覆す一品となっている。
ワイルドライスはカナダやアメリカ北部の湖沼地帯に自生する植物の種子で、一般的な米とは異なる穀物である。先住民の食文化に古くから根付いており、ナッツのような香ばしい風味と独特の食感が特徴だ。一口サイズのセイボリーながらも、その個性を十分に感じられた。

4品目は、カナダ産ポークのテンダーロインをモントリオールベーグルに合わせたオープンサンド。脂身の少ないポークに、クランベリーソースの酸味を重ねることで、肉のコクと果実の爽やかさを引き出した一品だ。
モントリオールベーグルは、ハチミツを加えた湯で生地を茹でてから焼き上げるのが特徴で、外側は香ばしく中はもっちりとした食感になる。ニューヨークベーグルとは異なる、カナダ・モントリオール発祥の名物パンとして知られている。
5品目は、カナダ産ビーフのサーロインを使ったローストビーフ。アプリコットとローズマリーを練り込んだバノックに、カナダ産トマトジャムを合わせた“ステーキサンド”のアレンジだ。ハーブの香りと果実の甘みがビーフの旨味を引き立て、トマトジャムの酸味が味わいをまとめる。
バノックはカナダ先住民の食文化に由来する伝統的なパンで、シェフが祖母から受け継いだレシピをもとに作られているという。ホロホロと口の中でほどける軽い食感と素朴な味わいがローストビーフの旨味とよく調和する。


セイボリーに続き、カナダの伝統菓子を取り入れたスイーツも提供された。手がけたのは、セイボリーと同じくクエンティン・グラブスシェフ。カナダ各地で親しまれてきた菓子3品を、今回のイベント用に再構成した。
1品目のブルーベリーコンポートは、カナダ産ブルーベリーの爽やかな酸味を生かしたデザート。オーツ麦の香ばしいクランブルが食感のアクセントとなり、酸味が後味をすっきりと整える。
2品目はカナダ東部のオンタリオ州で古くから親しまれてきた伝統菓子のバタータルト。サクッと香ばしいタルト生地から、とろりとあふれ出す濃厚なフィリングが特徴。カナダ産ハチミツのやさしい香りが余韻に残る。
3品目のナナイモバーは、カナダ西海岸発祥の菓子。チョコレートやナッツの甘味に、日本の赤味噌を隠し味に加え、焼かずに仕上げる三層仕立て。コクと奥行きを感じさせるユニークな味わいに仕上がっていた。

アフタヌーンティーの後半を彩ったのが、パティシエの依田馨さんによるデザート。2025年に開催された第16回メープルスイーツコンテスト洋菓子部門で最優秀賞を受賞した「プティガトー フォールインケベック」など2品が並び、アフタヌーンティーを華やかに彩った。
「プティガトー フォールインケベック」は、メープルシロップやナッツなどカナダらしい食材を取り入れた一皿。コンテスト出品時よりもブラッシュアップし、メープル感をより際立たせたという。

メープルシロップは、採取時期によって色や風味が異なり、4つの等級に分けられる。今回は、メープルの香りと風味を際立たせながら甘みを抑えるため、キャラメルのような香ばしさや奥行きのある味わいが特徴の「アンバー」を軸に「ダーク」を併用した。
メープルのバヴァロワをベースに、メープルシナモンクランブル、アンバーメープルで仕上げたリンゴのジュレ、メープルキャラメルシャンティが層をなし、フォークを入れるとメープルシロップとカルヴァドスのシロップがとろりとあふれ出す。複雑で奥深い味わいに会場からため息がもれた。
もう一品は春をイメージしたスイーツ。ブルーベリーのコンフィチュールに、サワークリームのフランマンジェ、カナダのアイスワインを使用したジュレを合わせる。カナダ産ブルーベリーの爽やかな酸味とアイスワインの芳醇な甘みが重なり、軽やかな後味を楽しめるデザートとなっていた。

アフタヌーンティーの主役は、やはり紅茶。アフタヌーンティー好きの間では、どの紅茶を提供しているかも重要なポイントだと、講師の倉橋由利子さんは説明する。
英国文化の影響を受けたカナダでは、紅茶文化も根付いている。とくにホテルやレストランではアフタヌーンティーの習慣があり、紅茶は食文化を語るうえで欠かせない存在だ。
第二部でも、第一部で試飲したカナダ発のオーガニックティーブランド「フォーオクロック(Four O’Clock)」の茶葉3種が、アフタヌーンティーに合わせてホットで提供された。

最初に提供されたのは「ラズベリー・クリームティー」。第一部では水出しのアイスティーとして試飲された茶葉を、第二部ではストレートのホットティーで合わせた。
名前に“クリーム”とあるが実際に乳製品が入っているわけではなく、ブラックティーにラズベリーとクリームを思わせる香りを加えたフレーバーティー。ラズベリーの香りが軽やかなアクセントとなり、意外にもセイボリーと好相性。とくにビーフやポークの味わいを引き立てていた。

スイーツと合わせて提供されたのは「メープル香るブラックティー」だ。第一部で試飲されたメープルピーカンティーとは別の種類で、日本ではまだ取り扱いのない紅茶だという。メープルシロップの甘い香りに、ほのかにウッディなニュアンスが重なり、カナダらしい風味を感じさせる一杯。甘い余韻を残しながらも後味はすっきりとしており、デザートとの相性の良さも感じられた。
最後に提供されたのが「ココアスパイスチャイ」。第一部ではストレートティーで紹介されたが、第二部ではミルクと甘さを加えたアレンジで提供された。スパイスの力強さにココアのコクが重なり、ミルクを加えることで味わいはよりまろやかに。ストレートとはまた異なる表情を楽しめる一杯となっていた。

提供されたドリンクは紅茶だけではない。会場ではカナダワインも紹介された。
カナダの主要なワイン産地は、ブリティッシュコロンビア州のオカナガン・バレーとオンタリオ州のナイアガラ地域。いずれもフランスやイタリア北部など世界の主要ワイン産地と同じ緯度に位置し、夏は温暖で冬は寒い、ブドウ栽培に適した気候を持つ。とくにナイアガラ地域では五大湖が気候を和らげ、ブドウ栽培を支える重要な役割を果たしているという。
この日は、ナイアガラ地域のスパークリングワイン「Tawse 2022 Spark Riesling」がアペリティフとして提供され、アフタヌーンティーの始まりを軽やかに彩った。ブリティッシュコロンビア州産の白ワイン「Blue Mountain 2023 Estate Cuvée Chardonnay」は、軽やかな酸と果実味が特徴で、セイボリーやスイーツとも好相性だ。

さらに、カナダを代表するデザートワインであるアイスワインも提供された。氷点下の気温のなかで自然に凍ったブドウを収穫し搾ることで、果汁の糖分と香りが凝縮するワインだ。とくにオンタリオ州ナイアガラ地域は世界有数の産地で、冷涼な気候を生かしたカナダならではのワインとして、世界的にも高い評価を受けている。
この日は「Henry of Pelham Riesling Icewine」と「Rief Estate Winery Vidal Icewine」の2種を飲み比べ。青リンゴや洋梨を思わせる香りと爽やかな酸が印象的なリースリングに対して、蜂蜜やアプリコット、マンゴーを思わせる濃厚な甘みのヴィダル。同じアイスワインでもブドウ品種の違いにより異なる個性が感じられた。会場からも感嘆の声が上がり、その味わいの豊かさに多くの参加者が魅了されていた。

英国文化を背景に持つアフタヌーンティーに、カナダの多様な食文化を重ね合わせた今回の試み。ポークやビーフ、ロブスター、メープルシロップといったカナダを代表する食材に加え、ワイルドライスなど先住民文化に由来する食材も取り入れ、多彩な味わいがひとつのティースタンドに集められた。
多文化国家として発展してきたカナダでは、地域や文化の違いが食の豊かさにつながっている。今回の体験会は、そうしたカナダの食材と料理の可能性を、アフタヌーンティーという親しみやすい形で伝える機会となった。
参加者からは「メニュー開発における新しい選択肢として魅力を感じた」「アフタヌーンティーのセイボリー、スイーツの双方に活用できる可能性を感じた」といった声も聞かれた。素材の背景やストーリーを知ることで導入後の提案もイメージしやすいという声もあり、今後のメニュー開発や食材選定のヒントとなる機会となったようだ。

今回紹介したカナダ産食材は、現在「楽天市場カナダフェア」で入手が可能です
楽天市場カナダフェアサイト
https://event.rakuten.co.jp/area/global/canada/
text photo: 君島有紀
