スペイン料理店「ルナパルパドス」のオーナー鈴木一功さんは兵庫県西宮市生まれ。「田舎暮らしは忙しいです。ハムの塩漬けに、ハーブの収穫、やることが一杯」。苦楽園で2003年から本店を経営してきた。
スペインには州ごとに郷土料理があり、地元の食材で地元の料理を作る。兵庫県でスペイン料理を提供するのなら、可能な限り地元の食材を生かしてやりたいと思ったので、まず県内の生産者を探しだすことから始めた。高校の同級生の農家から野菜や米を、丹波篠山から黒豆や豚をと、ネットワークは広がっていった。自分の生まれ育った県内に豊かな食材と自然があることに気づかされた。そしてとうとう一家で丹波篠山に引越した。
「篠山はちょうど兵庫県の真ん中なんです。ここから店まで車で1時間、淡路島へも1時間で行ける。空気も水も綺麗で、住み始めてから体調もよくなりました」
「ルナパルパドス芦屋」は、鈴木さんにとって2店舗目となるバルである。なぜバルを始めたのかと尋ねると「食材を使い切るためです」という、意外な答えが返って来た。
最盛期には、一軒のレストランでは使いきれない量の野菜や魚が収穫される。当たり前の話だが、トマトを「今日は10個でよいから後は明日以降に育つようにして!」というわけにはいかない。
「豚一頭を仕入れても、一軒では余ってしまう。かといって必要部位だけ欲しいというと、生産者もそれ以外の部位を持て余すでしょう」
食材を無駄にしない方策があるに違いない、と考えてバルの開店を思い立ったのだ。
また、レストランに来る人とバルを利用する客層は違うとも思った。バルなら通し営業で、終日料理が出せ、食材も使い切れると考えたのだ。
通りに面した「ルナパルパドス芦屋店」は全面ガラス張りのスケルトンデザインの瀟洒な店舗。「長方形の建物の形が、まるでショーケースみたいだと思って、決めました」。
兵庫県の食材の魅力をあらゆる人に向けて発信する店。芦屋の街並みに馴染んだスタイリッシュな店舗だが、中で展開されている世界は実に土臭い。そのギャップがユニークだ。
入口脇ではその日採れた野菜を210円均一で販売。パエリアの米は、使う分だけ五分づきに精米して農家から運んでもらう。ショーケースに並んだサンドイッチ類は、ふすま入り小麦で焼く自家製パンをはじめ、中に挟む鹿のハムまで、鈴木さんが仕込むホームメイド。すべては食材ありき、でメニューが決まる。入荷した素材を、どうスペイン料理にしようかと考えていくのだ。
食材について、生産者の抱える問題について、できる限り問題意識を持って欲しい。ひとつひとつ真っ当なことをやりたい、と鈴木さんは言う。それを実現するために生まれたのがスペインバル。他に類を見ない発想で、鈴木さんは前進する。
豚の顔「カップ」と豚の足「ポタ」を煮込んだ料理「カピポタ」。丹波篠山の最後の養豚農家・板野さんの育てた豚を、余すところなく使い切りたいとオンメニュー。
豚の頭…半分/豚足…3本
■ ソース
タマネギ(中)…2個/クローブ…2粒/ニンニク…2片/緑ピーマン…2個/赤ピーマン …1個/トマト…800g(ミキサーにかける)/タイム…1枝/ローリエ…1枚/ブランデー…100cc/水…1カップ/黒コショウ、ピメントン ドゥルセ、塩、オリーブオイル…各適量
■ ピカーダ
アーモンド…20個/ヘーゼルナッツ…20個
*アーモンドとヘーゼルナッツはすり合わせておく。
三好彩子=取材、文 塩崎聰=撮影
本記事は雑誌料理王国第222号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第222号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。