食の未来が見えるウェブマガジン

次世代を担う海外シェフ12 (11)「Ikoyi」ジェレミー・チャン


世界の第一線で活躍する、今、注目のシェフたち。彼らもまた様々なものを受け継いでいる。それは伝統であったり、文化であったり、レシピであったり…。これからの料理界を担うシェフたちが、それをどう未来へ繋いでいくか。ひと皿の料理で表現してもらった。

未知の文化を受け継ぐ

2017年。ロンドンにモダン西アフリカ料理店ができた、というニュースが料理界を賑わした。「いや、実は西アフリカ料理とはうたってないのだけれど」と、シェフのジェレミー・チャンはいう。ナイジェリア出身の元高校の同級生で、友人のイレ・ハッサン=オデュカレと話す中、まだ知られていない西アフリカの食材を取り入れて新しい美味しさを作っていきたいとオープンした。西アフリカには様々な穀類の固有品種があり、実は栄養価が高い。しかしそれは効率優先の近代化の波に飲まれ、失われた品種となりつつある。さらに、西アフリカの主食でもあるプランテーン(甘くないバナナ)、キャッサバ、乾燥胡椒などのスパイスを使い、これまでアフリカの外では知られておらず、地元でもその価値が評価されてこなかった食材に光を当てた。味のポイントは、今や世界で普通に使われるようになった言葉、「Umami」。西アフリカの料理は、辛味があり、香りが高く、濃厚な味。甘味も強い上に、ナイジェリアには、日本の納豆のような香りがあるという、伝統的な発酵した豆の調味料「イル」や、日本の鰹節のように、塩をしてから干してスモークした鯖をスープに入れて煮込むなど、旨味要素を多く使うのだという。

「民族植物学の本を大英図書館で調べたり、アフリカ料理の研究者である、ボストン大学のジェームス・マッカン教授に話を聞くなど、リサーチはしたが、アフリカで長い時間を過ごした訳ではない。だから、伝統的なものを作るというよりも、外国人ならではの新しい視点で西アフリカの食材を紹介していきたい」という。鮮度が重要な野菜や魚、肉はイギリスのオーガニック中心で、その良さを、西アフリカのエッセンスでアレンジし、新しい形で表現していくという狙いもある。「ノマ」の採集の代わりに、珍しいアフリカの食材を使い、「ディナー・バイ・ヘストン・ブルメンタール」のように、過去を振り返りリサーチする。場所と時間軸を超えた料理は、流通と情報のスピードが劇的に早くなった今だからこそできること。現代のシェフの想像力の可能性を象徴していると言えるだろう。

未来に受け継ぐ一皿

Plantain, Smoked Scotch Bonnet & Raspberry

「質素な食材と思われてきたプランテーンだが、上質なものを選び、甘味酸味苦味、旨味、塩味の5味にスモーキーさを加えて作ろうと思った」。スコットランド産のチェリーを焦がし、ミントオイルに漬け込んで香りを移したものでプランテーンを調理した。甘味と酸味を加える際、一度見たら忘れられないような、 遊び心のある見た目にするため「奇妙に思えるくらい赤い、火星の ようなイメ ージ」で、ラズベリーのパウダーをまぶして仕上げた。

text 仲山今日子

記事は雑誌料理王国2019年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2019年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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