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【四川、広東、北京、上海】中国4大料理の違いをご存じですか?


中国料理は「変化」しているのだろうか。それを知るにはまず、「土台」を知らねばならない。中国料理を深く研究されている中国食文化研究家の木村春子先生に、四大料理の区分の原点から現在の変化について語っていただいた。

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中国料理はいつから四大料理という区分をするようになったのですか?

現在、中国料理は北京、上海、四川、広東に分類するのが日本では一般的です。これは中国全土を広い視野で見渡し、大きく東西南北に分け、代表地方を挙げたものです。この分類、日本生まれなんですよ。私も翻訳で関わりましたが、1957年から65年に中国で刊行された『中国名菜譜』を、72年に日本で発売する際、もともと11冊だったものを、東西南北の4分冊に整理し直したのが始まりといってもよいでしょう。中国でも現在、この見方が普及しています。

広大な土地、古い伝統をもつ中国では、地域により食文化も異なります。もともとは八大系統、十六系統など主要な都市を取り上げ、そこでの有名な料理とその特徴を見いだすやり方が主流でした。そのエリアの伝統などを知るにはよいのですが、人口が少ないエリアが置きざりになる、全体の比較がしにくい、といった欠点があるんですね。四大料理では、中国全体を俯瞰で眺められます。ただし四大区分の場合、その範囲を広域で捉えないといけません。たとえば北京であれば、広義では局地的な北京という街の料理ではなく、北京を含む北方の料理と認識してください。

北京料理の特徴にはどのようなことがありますか?

北京を中心に華北地方一帯の北方系の料理を、便宜上北京料理と呼びます。稲作に不向きな土地なので、小麦を代表とする粉食が多くあります。北京っ子が大きな包子バオズ 、餃子、饅頭などの小吃シャオチー (軽食)がそうです。この地域は冬の寒さが本当に厳しいんですよ。寒さ対策のため、体を温めるニンニクやネギをふんだんに使います。満蒙地方(東北地方・内モンゴル)からの影響を受け、羊や豚を使った料理も多いですね。油、味噌、醤油は濃厚で、味がはっきりしています。

北京は都であったため、各地方からの料理が入ってきています。そのなかから、洗練され淡白な宮廷料理も生まれました。代表的な料理には烤鴨カオヤー (北京ダック)、涮羊肉シュアンヤンロウ (羊肉のしゃぶしゃぶ鍋)、水餃シュイジアオ などがあります。

上海料理の特徴はいかがでしょう?

長江の下流地域、上海を中心とする東方エリアを代表するのが上海料理です。長江や無数の湖沼や運河があることから、食材の特徴として海、川問わず魚介類が豊富なことが筆頭に挙げられます。秋は上海ガニでおなじみですね。意外かもしれませんが、タケノコやジュンサイも名産です。この地方は蒸し物、スープ煮、あっさり味の炒め物など、素材の持ち味を生かしたやさしい味付けの料理が多いんですよ。

同時に、ごはんのおかずに合う醤油を使った甘辛い味付けも好まれています。比較的穏やかな気候、四季があり風土的に日本に近いせいか、味に違いはあるものの、食材にしろ調理法にしろとても共通項が多いんですね。日本人にとてもなじみやすい料理だと思います。東坡肉 (豚の角煮)、蒸大閘蟹ヂョンダーヂャーシェ (上海ガニの蒸し物)、龍井蝦仁ロンジンシャレン (むきエビの龍井茶入り炒め)などが代表的な料理です。

四川料理はどういったことが特徴ですか?

中国・西方系の料理の中心を四川料理とします。このエリアは海から遠く離れ内陸深く、険しい山々に囲まれた巨大な盆地です。そう聞くと食材に乏しいと思うかもしれませんが、いえいえ、ここは幾筋もの川が流れ、淡水産の魚介に事欠かないんです。湿度と温度が高いため、米、野菜をはじめ、キノコなど農作物も豊かです。

「四川料理は辛い」というのが定説ですよね。これは単にトウガラシや山椒の刺激が強いだけでなく、辛さのバリエーションが豊富なことこそが最大の特徴なんです。料理に合わせて、調味料、香辛料、薬味の微妙な組み合わせで味付けを変えているんですよ。四川の料理が「百菜百味(百の料理には百の味がある)」と形容されるのは、そのためなんですね。代表的な料理は、麻婆豆腐、棒々鶏、樟茶鴨チャンチャマー (アヒルの香りいぶし)などです。

広東料理の特徴はなんですか?

「食は広州にあり」、この言葉に表されるように、食への関心が高い中国のなかでもその情熱はとび抜けて高いのがこのエリアではないでしょうか。その理由のひとつは食材の宝庫であることです。広東を中心とするエリアは沿海部で海産の魚介類が多く、高温多雨で米は多毛作、水陸ともに産物に恵まれています。私も、広東を訪問した際には、他の地域ではあまり見かけない西洋野菜や色鮮やかなトロピカルフルーツ、野生動物や漢方薬などを見て、その豊かさを実感しました。東南アジアの国々に近く、香料なども入ってきていますし、鎖国政策の時代も貿易港としての歴史があり、香港に近いことから、ウスターソースやマヨネーズなどの調味料、オーブン料理といった調理技術など西洋からの影響も大きく受けています。国内外との交流が盛んなせいか、味付けはまろやかで調和がとれています。

また、広東は飲茶発祥の地でもあります。種類豊富な点心と茶をゆっくり楽しむ食文化があることも、中国・南方系の大きな特色です。広東料理の代表的なメニューは、焼乳猪シャオルウヂュ (仔豚の丸焼き)、紅焼果子狸ホンシャオグォズリィ (ハクビシンの煮込み)、蒸冬瓜盅ジェンドングワヂョン (冬瓜の五目詰め蒸しスープ)などです。

地方によって調理方法に違いはありますか?

結論から言うと、調理方法に地方による違いはほとんどないですね。ただ、多用するしないの部分で地域差はあります。地域性と調理法は密接な関係があるからです。北京料理に強火で手早く炒める〝バオ 〞が多いのは、北方は燃料となる石炭の産地で、厨房でも強い火力が使えたからなんですよ。逆にそれほど強い火力に頼らない四川では、調味料や香辛料の使い方を工夫することで、火力の弱さによる調理方法のバリエーションの少なさをカバーしているんですね。

食材に関しては、内陸部や沿海部など地域による産物の違いはありますが、基本は入手できるあらゆる食材を徹底的に使うことといえるでしょう。

現在、中国料理はミクスチャーの動きがあるといわれています。それはどのようなものでしょうか?

ここ数年頻度が少なくなってしまいましたが、以前は年に数度は中国を訪れていました。そんななかで、個人盛りをしたり取り箸を添えたりといった動きはありましたが、目覚ましい変化を痛感するのは、ここ3〜4年です。もともと中国では地域的な特徴を確固として守る傾向が強く、古くからの伝統を守り続けている店が多いんですね。

しかし、いっぽうで、距離の離れた四川と長江でつながった揚州・上海では「川揚菜せんようさい 」といったミクスチャー料理などが生まれたという歴史もままあります。現在、都市部の最先端をいく店は、驚くほど積極的に新しい要素を取り入れています。料理からサービス、インテリアなどすべてにおいて、中国の地方はもとより世界から要素を融合させています。いま北京で人気の新しい北京ダック店では、前菜は個人盛りにし、老舗のものより脂身が少なくあっさりヘルシーな北京ダックを提供しています。またある店は、まるでオペラの舞台のようなデコラティブな店内装飾でした。外国人の私からみるとちょっといき過ぎかなと思ってもみたり。ある中国の食雑誌の編集長に話を伺ったところ、そういった新感覚の店について「勉強熱心で素晴らしい」ととても好意的に受け止めていらっしゃったのも印象的でした。

もちろん日本でもミクスチャーの潮流はありますね。でもそれは流行の先端をいくといったベクトルとは違っているように感じられるんです。料理人が自らの独自性を出そうとしたり、熱心に研究した結果、さまざまな要素を取り入れるといったことのように見受けられます。現在は人も情報もかつてないほど世界中を行き来している時代です。色々な要素を取り入れる動きは、自然な流れではないでしょうか


中国料理をひと言で表すと問えば、「何でもあり」だと、木村先生。それはつまり「包容力」の意だ。日中において、「変化」は確実に起きている。次ページからはその広大なる力のなかで、自己を皿の上に表現し、顧客満足度を深めるべく、「伝統」と「革新」を交差させる料理人たちの料理を見てみよう。今回は、同一素材を別手法でアレンジすることで、「伝統」と「革新」を表現していただいた。個々人によるこの方法論の捉え方の違い、新と旧の深みに、ぜひ着目してほしい。

木村春子
中国料理研究会代表、日本ホテルレストランサービス技能協会顧問。1960年より中国料理研究を始め、風土や歴史から生まれた中国料理を追求し続けている。中国食文化に関する著書多数。

羽根則子 構成

本記事は雑誌料理王国159号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は159号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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