「若い人はすぐやめる」はお店の魅力次第。人材について考える


いい人材を残すため若者へのアプローチはどうすべき?

「若手が集まりにくい」「若い人はすぐ辞める」といった考えも多いが、「ここで働きたい!」と思わせる魅力が足りないだけかもしれない。
ここでは勤続年数の長いスタッフが集まる店と、若手を多く抱える店に、その考えを聞いた。

休憩をしっかりとれる環境を整備することで1日のメリハリをつける

リストランテ濱﨑オーナーシェフ 濱﨑龍一さん

2017年は新卒で1人採用。休憩や休暇をきちんと設けた、働きやすい環境だからこそ、勤続年数平均10年を可能にしている。

今在籍しているスタッフは11人いて、平均勤続年数は約7年。気づくと長くいてくれているって感じですよ(笑)。うちみたいなオーナーシェフの個店リストランテは、長くいるスタッフがいるからこそ、お客さまも安心して来てくださることも多いですしね。

ひとつ、勤続年数が長い理由に挙げられるのが待遇面です。休みはなるべく3週間ごとに2連休がとれるようにするほか、特に夏と冬の長期休暇は必ず入れるように心がけていますね。こうした待遇面でも、できる範囲でスタッフのプラスになるよう努力しているつもりです。

また一日のメリハリも重要だと考えています。つまり休憩時間をきちんと設けること。休憩もお店でするのでなく、お店から歩いて約秒のところにあるマンションの一室を借りて、そこを休憩室にしています。ランチ営業がない日でも、朝9時には来て夜の仕込みをし、昼食をとってその後休憩してから営業に臨む。休憩室では、スタッフが思い思いの時間を過ごしています。休憩室が別にあるって珍しいと言われますが、僕の実家はかまぼこ屋でしたから、工場とは別に休憩室があって、皆ちゃんと休憩をとっていました。そうした記憶があるので、僕も店を始める時にはなるべく休憩室をつくりたいと思っていましたね。

スタッフの家が皆僕の家と近いのも、働きやすさのひとつかもしれません。特に狙って住まわせているわけではありませんが、新卒の子が住む場所を探していたら「うちに近いところに住みなよ」と言うだけ。あとは個人の考えで、住まいは選んでもらっています。住む地域が近いと、帰りが遅くなったときに僕の車で送ってあげられるし、乗り合いのタクシーで皆一緒に帰ることもできますしね。

あと、うちの家内がスタッフの親御さんと連絡を取り合って交流を図るようにしています。親御さんに来店していただくことも多く「息子さんがこういう店で元気に働いていますよ」と見せて安心感を与える。スタッフだけでなく、親御さんとのつながりも、長く働いてもらう理由のひとつではないかと思います。

リストランテ濱﨑オーナーシェフ
濱﨑龍一さん

1963年鹿児島県生まれ。日本調理師専門学校を卒業後、渡伊。ロンバルディア州「ダル・ペスカトーレ」などで修業を積む。帰国後は東京・乃木坂の「リストランテ山﨑」に入店、93年よりシェフを務める。2001年12月、東京・南青山に「リストランテ濱﨑」をオープン。

問題を見つけ対応する「問題意識」を持つ子が業界の労働環境を変える

ウルトラキッチン株式会社代表取締役 杉窪章匡さん

60人いるスタッフのうち、社員は28人で現場職が大半。問題を見つけ、対応を考える「問題意識」を持つ人材が飲食業界には必要だと杉窪さんは考えている。

今の若い子はまじめで、何事にも全力で取り組みます。だからこそ長く働けない。また、小さい頃から週休2日制だったのに、社会に出たからといって週1しか休みがないのは、彼らにとって不自然です。だから初めは時間の使い方、スケジューリングを経営者が指導してあげる必要があります。たとえば、ヨーロッパのシェフ・ド・パルティ(部門シェフ)は決められた時間・人数のなかでルセットを調整します。そのなかでどれだけ結果を残せるかで、シェフの力量が問われるのです。それと同じで、規定の労働時間でいかに効率よくスタッフを回せるかを、経営者や上司が考えなければなりません。

僕はプロフェッショナルを雇用している以上、8時間労働、完全週休2日制などの雇用形態を他業種とフェアにしなければならないと考えています。これって当たり前ですし、できないのは経営者の考え方が根本的に間違っているだけです。

飲食業界がブラックと呼ばれる原因のひとつは、現場スタッフに“考えない”人が多いから。日本は長時間働くことがよいとされる風潮がありますが、労働時間が長いとどういう人材が残るかというと、何も考えずに長く働く人が残るんです。要はダラダラ人間が居座る。特に今30〜40代の上に立つ人材にそういう人が多いから、いつまでたっても環境が変わらないのです。

逆に長い時間働けない人材というのは、日々の営業のなかで問題に気づいて対応できる「問題意識」を持つ人材。そのためにそういった子を育てる、もしくは問題意識を持っていない子にも考えさせる教育をします。時間の使い方をきちんと考え、メリハリのある働き方ができる人が集まれば、飲食業界の労働環境も必ず変わっていきます。

弊社では、1年半くらい前から問題意識を持って働ける人材だけが残るよう、経営理念を大きく変えました。つまり作業だけでなく“考えること”を理念に加えたのです。考えることをしんどいと感じる人は、たとえ労働時間が短くなっても、給料が高くなっても自然と離れていきます。そうしたことで今は、社員の平均年齢もだいぶ若返りました。

ウルトラキッチン株式会社代表取締役
杉窪章匡さん

1972年石川県生まれ。24歳でシェフパティシエに就任し、2000年に渡仏。二ツ星「ジャマン」、一ツ星「ペトロシアン」で修業を積む。02年に帰国し、パティスリーやブーランジェリーなどでシェフを務めたのち、13年にウルトラキッチン㈱を設立。直営2店のほか、プロデュース店3店を手掛ける。

虻川実花=取材、文 小寺恵、林輝彦=撮影 

本記事は雑誌料理王国276号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は276号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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