島国である日本は、戦前は今のように海外との行き来や文化交流をすることがほとんどなかったため、農耕生活をしながら、それに沿った食生活をし、その食生活に合った体質がつくられていった。
しかし、昭和20年に終戦を迎え、高度経済成長期へと突入した昭和30年ごろから、日本にも海外の文化が流入し始め、食生活は急速に欧米化。肉料理を頻繁に食べるようになったため、それまでほとんど摂っていなかった動物性のたんぱく質と脂肪の摂取量が急激に増えたのだ(下表参照)。
先述のように、日本人は穀類中心の生活をし、エネルギーの8割を炭水化物から摂っていたため、インスリンの分泌が少なくて済んだ。しかし、その体質は変わらないまま、食生活は大きく変わり、さらに経済成長とともに自動車が普及したことで運動量も大幅に減らしてしまったので、糖尿病へまっしぐらとなってしまったのだ。
高度経済成長の勢いとともに、食材は豊かに変わったのに、食べ方は貧しかったころのものを踏襲したまま、というケースがある。わかりやすいのが、「三角食べ」だ。
ご飯が入ったお茶碗を片手に持ち、「おかずとごはんを順番にバランスよく食べなさい」と、子どものころに学校で指導された人も多いだろう。この三角食べは、米は豊富だが、おかずになるものが少なかった昔の日本で、少ないおかずで多くのご飯を食べる方法として定着した食べ方。また、地方料理に塩味が非常に濃い料理が多いのも同じような理由だ。
詳しくは後述するが、血糖値を上げないために大切なのは食べる順番。会席料理のように、糖分が少ないものからひと品ずつを順番に食し、血糖値の急激な上昇を防ぐのが理想的なのだ。糖分の多いものと少ないものをこまごまと混合させながら食べる、この三角食べを今も踏襲している人は、医学的な観点で見れば、辞めたほうがいいだろう。
現代では、共働き家庭の増加などで、子供が親の手料理を食べる機会が減っている。そのため、調味料などを使用せずに食材由来の成分だけで味付けした、体にやさしいだし料理などは日常的に食べられなくなり、代わりにハンバーガー、ピッツァ、牛丼など、糖質、たんぱく質、脂質を一緒に体に入れてしまうファストフードを食す機会が増えてきた。
また、血糖値を急上昇させないためには、時間をかけて食事をとることも大切で、コース料理などはその理にかなった食事方法といえる。日常的には会話をしながら食卓を囲む家族のだんらんがその機能を果たすのだが、今の日本では孤食が進んだうえ、勤勉で効率を好む日本人には、食事の時間をなるべく短くして、仕事や学業、遊びに充てようとする人も多いため、食事時間はますます短くなる傾向にある。
こういった背景により、最近は大人はもちろん、子供の成人病患者も増えているのだ。
食文化の欧米化は悪いことばかりかというと、そういうわけではない。特に、肉を食べるようになったことで日本人の低栄養は解消された。肉は血管を強くし、筋肉を増強させる効果がある。
欧米の食文化が広まってから栄養状態は改善し、結核などの感染症も減り、平均寿命は確実に伸びてきてもいる。高齢者はとくに、積極的に肉料理を食べることをおすすめする。
ただし、肥満には注意すること。肥満は必ずしも肥満が糖尿病に直結するわけではないが、インスリンの効き方は肥満体型の人のほうが悪い。カロリーの高いものを食べたら、せめて運動を心がけること。もちろん、人にもよるが、一般的には20歳の頃の体重を維持することが望ましいといわれている。