ギョームシェフは「今はどの野菜のシーズン、というだけでなく、歴史的な背景に裏付けされた料理の季節感や、江戸前とは何かなど、日本料理の伝統について学ぶ良い機会だった」と語る。
フランス人シェフとのコラボは初めてという梅原シェフは、普段と違う、フランス料理のセッティングの中に日本料理を置いてみることで、改めて日本料理と向き合うきっかけにもなり、提供方法も含めて新しいスタイルでの日本料理のあり方を考えるようにもなったそう。「懐石を崩そうとは思っていませんが、表現として、折敷を抜いたり、様式を少し変化させたりと、未来志向の日本料理について考える機会になった」。
また、ギョームシェフの料理からも「柚子胡椒を赤ワインソースと合わせるなんて、考えてもみなかったこと。産地だからこそ、柚子胡椒の使い方を、伝統的な視点からしか捉えられていなかった。既成概念に囚われない視点から学ぶことは多い」など、多くのインスピレーションを得たという。
和菓子職人の岩田さんも、「サフランと求肥という組み合わせの発想はなかったし、和菓子は常温での提供が多い。ミケーレシェフは、求肥をアイスクリームと組み合わせたり、香りと温度、テクスチャーという面で、和菓子はもっと学んでいかないと」と感じたという。
逆にミケーレシェフは、作り立てのきんとんの香りと食感に感動。ペストリーは、粉と卵、砂糖というシンプルな材料が、様々な技術を使うことで魔法のように大きく変わっていくのが魅力。それと同じように、和菓子は米と豆と砂糖で、様々に姿を変える。日本に昔からあった歳時記に合わせた毎日のように変わる、茶道で使われる上生菓子など、様々な意味が込められているのも素晴らしい。桜の風味の使い方は今勉強中でもあるので、そういう意味でもとても勉強になった、という。
「例えば、今回求肥に使ったサフランは千葉産。イタリアのお菓子にサフランはよく使われるから、自分にとっても故郷の味。でも、イタリアで使われるサフランを、そのまま使おうと思わなかった、しかし、苦味が少なく、香りが穏やかな千葉産のサフランに出会い、これなら求肥のような日本の食材と合わせても違和感がないと感じた。海外原産でも、日本で育つことによって、日本の伝統食材と相性が良いものはいろいろある。そんな視点も、提供できれば」と語る。
異なった文化からの視点を提供し合うことで「今、この場所」で提供する「理」のある料理を生み出すこと。そんな文化の交流でもあるコラボレーション。
3月25日、エストでの開催のあとは、5月21日に八雲茶寮に場所を移した第二弾も予定されている。
エスト/EST
東京都千代田区大手町1-2-1
03-6810-0655
ランチ12:00 PM – 3:00 PM
ラストオーター コース20:30; アラカルト 21:00
ディナー5:30 PM – 9:00 PM
定休日 水曜日
https://www.est-tokyo.com/location/est/
八雲茶寮/yakumo sarryo
東京都目黒区八雲3丁目4−7
03-5731-1620
朝茶 9:00受付・9:15開始
茶房 9:00~16:00
お食事 12:00~21:00ラストオーダー
定休日 月曜・火曜
https://yakumosaryo.jp/
2022年3月19日
text・photo:仲山今日子
ワールド・レストラン・アワーズ審査員。元テレビ山梨、テレビ神奈川ニュースキャスター。シンガポール在住時、国営ラジオ局でDJとして勤務。世界約50ヶ国を訪ね、取材した飲食店や食文化について日本・シンガポール・イタリアなどの新聞・雑誌に執筆中。