「フロリレージュ」の記憶に残るマリアージュ


料理を構成する味や香りに
新たなひと味をカクテルで添える

フロリレージュ

フードロスなど、料理業界でも世界規模の問題がささやかれる昨今。

「フロリレージュ」のシェフ、川手寛康さんは、日本のフレンチの未来を担う存在であるのと同時に、それらの問題と正面から向き合う挑戦者でもある。

経産牛、廃野菜、アマゾンのカカオ村から直接買い付けるカカオなど、生産者の思いと川手さんのメッセージを込めながら、その手から生み出される料理は、ひと皿ごとにコンセプトが設けられている。そこからイマジネーションを広げながら、味、香り、温度の要素を加味したドリンクが作り出されていくのが、フロリレージュのカクテルペアリングだ。

川手さんの持つイメージや想いを汲み取りながらペアリングへと落とし込んでいるのは、ソムリエの廣田晴樹さん。ワインにも造詣が深い川手さんが信頼を寄せる存在として、ペアリングの提案に加え、草木を使った店内装飾やテーブルのアレンジメントを担当するクリエイターという一面も持つ。

「今回は『液体の茶懐石』をテーマにカクテルのペアリングを考えました。移転リニューアルの際、今後はジュースやカクテルとのペアリングもやっていきたいという提案を川手さんから受けました。ひとつのお皿の中にある色々なタイプの素材や味に、さらに加えるとしたら何かという考え方でカクテルを作っています。同時に、フロリレージュの料理に漂う日本らしさや文化を盛り込んだペアリングを研究しています」

ランチは7品前後、ディナーは11品のコースを提供するフロリレージュでは、ひと皿ごとに数種類のドリンクを用意。ペアリング内容はゲストに合わせてチューニングされる。

「カクテルという液体を、料理に加えるもう一種類のソースとしてとらえるのがポイントです」と廣田さん。さらに、漆塗りや木目など、器や見た目の質感にもこだわり、カクテルで日本の風景や季節感を再現しているのも特徴だ。たとえば「サスティナビリティ経産牛」に合わせた「芋焼酎、トマト、レモンのカクテル」では、料理では使われていないトマトの味をドリンクに使いながら、器の中の氷を庭園の池にある岩に見立てている。「贈り物 アマゾンカカオ」には、赤シソとアマランサスの赤という単色に、紅葉のもう一色である黄色のカクテルを合わせた。提供されるのと同時にユズの香りが立ち上る空間演出をペアリングによって取り入れている。

味わいのペアリングだけではなく、そこからもうひとつ先の記憶に残るものとして、「体験」という要素からもアプローチするのが、フロリレージュにおけるペアリング哲学と言えるだろう。

贈り物 アマゾンカカオ
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ジン、柚子、菊のカクテル

アマランサスの赤い葉で覆われているのは、赤シソのシートで包まれたアマゾンカカオのムース。同じく赤シソのスープをからませながら口へ運ぶと、赤シソの酸味、カカオの甘さとコクが広がる。これに合わせるのは、ジンをベースにユズと菊の香りを加えたカクテル。赤に黄色で、視覚による季節感も意識している。

サスティナビリティ 経産牛
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芋焼酎、トマト、レモンのカクテル

和牛の価値を新たな視点から提案するひと皿。熟成を経てやわらかさを出した経産牛のフィレを、廃野菜でとったコンソメにくぐらせ、ジャガイモのペーストの上へ。ペアリングには、芋焼酎ベースのカクテルを。芋焼酎のこっくりした香り、フレッシュトマトやレモンの爽やかな甘味と酸味が、飲むサラダのような感覚。

シェフ 川手寛康さん
1978年東京都出身。「恵比寿 Q.E.D. CLUB」「オオハラ エ シイアイイー」「ル ブルギニオン」を経て、2006年渡仏し「ジャルダン デ サンス」へ。帰国後「カンテサンス」にてスーシェフを担当し、2009年「フロリレージュ」オープン。

田中英代=取材、文 小寺 恵=撮影

本記事は雑誌料理王国270号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は270号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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