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【特別対談】2100年に、レストランは必要とされているか? チームラボ代表 猪子寿之さん × フロリレージュ オーナーシェフ 川手寛康さん

チームラボ代表 猪子寿之さん × フロリレージュ オーナーシェフ 川手寛康さん

シェフ×クリエイター
30代の感性でとらえた現在と未来

 プログラマ・エンジニアや数学者、建築家、デザイナーなどスペシャリストで構成されるウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」。代表の猪子寿之さんはそれを率い、昨年のミラノ万博でも注目を浴びたトップクリエイターだ。
一方、「フロリレージュ」の川手寛康さんは世界を舞台に活躍するトップシェフである。30代の柔軟な感性は、今何を見つめ、何を目指すのかーー。時代を読み、前進するふたりが、「食」をめぐる日本の問題点や未来の姿などを語った。

Toshiyuki Inoko
1977年徳島市生まれ。東京大学工学部計数工学科卒業と同時に「チームラボ」を創業した。47万人が訪れた「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」などアート展を国内外で開催。2月からシリコンバレー「teamLab: Living Digital Space and Future Parks」、5月はバンコクで「Central World」、また3月からシンガポールで巨大な常設展「FUTURE WORLD: WHERE ART MEETS SCIENCE」など開催中。www.team-lab.net
Hiroyasu Kawate
1978年東京都生まれ。「オオハラ エ シイアイイー」や「ル ブルギニオン」などで腕を磨いた後、渡仏。帰国後、現在北品川にある「カンテサンス」(三ツ星)のスーシェフを経て、2009年、「フロリレージュ」で独立。15年に神宮前に移転し、大胆なオープンキッチンスタイルに進化させた。同年「ミシュラン ガイド」の一ツ星を獲得、16年、「アジアのベストレストラン50」の「注目レストラン賞」を受賞。

あらゆるジャンルから「境界」が消えつつある

猪子寿之さん(以下、猪子) いろんなテーマの取材をお受けしますが、料理雑誌で語るのは初めてです。

川手寛康さん(以下、川手)僕もクリエイターの方との対談は初めて。一緒に仕事をする機会もあまりないし、僕たちは1歳違いだから、共通点といえば同じ時代を生きてきたことぐらいですかね(笑)。

猪子 いや、そんなことはないと思いますよ。川手さんのレストランにお邪魔してみて、川手さんも僕と同じように、「今の時代」を感じている人だと思いました。

川手 どこでそう思われましたか?

猪子 カウンター形式のオープンキッチンで、可能な限りホールの「境界」をなくそうとしている。インターネットの登場以降、「境界」という概念が、ものすごい勢いでなくなろうとしているのです。

川手 たしかに、僕がこの店をなぜカウンター形式にしたかというと、厨房スタッフとホールスタッフの境界をなくしたかったからです。境界を排除して、ひとつのチームとして働きたかった。我々チームとお客さまとの境界さえも、実はあまり決めたくなかったからなんです。

猪子 それも境界が消滅したひとつの例。芸術でも同じことが言えます。
インターネットが登場する前は、人間のなかから生み出された表現は、物質とくっ付かないと存在できなかった。例えば、絵画ならば絵の具やカンヴァス、音楽ならばレコードのように。人間はただ感動し、エクスタシーを得たいだけなのに、それを得るには物質が必要だった。だから人類は、「物質が感動を与えてくれる」と勘違いしてしまった。
しかし、デジタルの概念によって、例えば、写真は写真単独として、音楽は音楽単独で、物質を介することなく存在できるようになった。これにより、物質の価値が低下して、「境界」という概念もなくなってきているんです。なぜなら、物質が境界を生んでいたからです。本来、脳の中は境界がないのです。

川手 物質からの解放ですね。ただ、どうでしょう。僕の店の空間はそうだとしても、料理そのものは少し違うかもしれない。

猪子 そうですね。料理は物質抜きには成立しないし、人間は食事によってカロリーを摂らないと生きられませんから。でも、川手さんが直感的にこのお店を作られたのは、時代の流れと無関係ではないように思います。年前なら、こういうフランス料理店はあり得なかった。それから、「チームで働く」という考え方も、時代を反映しているように思います。

川手 海外の著名なレストランはラボを持っていて、チームの力で創造的な料理を生み出している。シェフの考え方ひとつで料理を作っているのは、日本くらいかもしれません。

猪子 海外にいて日本に戻るとそんなことを感じます。

川手 今回のこの異業種対談も、ある意味、「境界」の消滅ですね(笑)。

キッチンやホールの「境界」をなくしてチームでゲストをもてなす。そんな店を実現させたかった。
──川手寛康さん

時代に敏感な人は、「境界」という概念が消えつつあることを直感的に察知してるんです。
──猪子寿之さん

「創造性」は本来「高級」であるべきだ

川手 猪子さんから連想するのはクリエイティヴな映像。料理とは結びつかないのですが、いつもどんなものを召し上がっているんですか?

猪子 なるべく仕事に時間を使いたいから、打ち合わせしながらお弁当を食べています。なるべく精製された白い米や砂糖、小麦粉などを使っていないものを食べますね。そして、工場を通ったようなものではなく、生命が直接料理されたようなものが良いです。

川手 どうしてなんですか?

猪子 生命を感じるものが良いです。食べ物は全て生命ですから。そして、健康でできるだけ長く仕事をしたいから。でも、コーヒーは1日に何十杯も飲んでいますが(笑)。

川手 レストランには行きますか?

猪子 実は、あまり行かないんです。特に日本では会社にずっといるので。僕は基本的に、料理は、混ぜる、加熱、そして発酵だと思っています。それによって旨味と複雑性が上がるわけですから。でも、日本で最高峰の高級と認められている店は、最高級な素材を大げさな言い方するとそのまま塩で食べるように勧める。そこに悲しい気持ちになるわけです。「高級食材=高級」として社会のなかで最高レストランだと認識されているのは、日本だけではないでしょうか。世界では新しい価値を生んだり、新しい料理方法を生み続けたりする創造的なレストランを高級レストランとして高く評価する。だから、「エル・ブジ」とか「ノーマ」とか、そういうレストランが高く評価され、どんどん新しい方法や、価値観が登場するんです。

これは料理以外のことにも言えますが、「何を高級とするか」という考え方のなかに「(今までにない新しい価値の)創造性=高級」という考えが日本にはない、ということです。もちろん高級なものを使ってクリエイティヴなことをしている方は、日本にもいらっしゃいます。それは、すてきなことだと思います。

川手 そうかもしれません。日本で新しいことに着手しようとすると、それを認めない人が少なくない。現に、昨年、新「フロリレージュ」を開いた当初は批判もされました。それでも必ず理解してくれる方はいるし、現代は情報が瞬時に送受信できる時代です。海外からのお客さまも順調に増え続けています。

猪子 情報が世界に行き渡り、創造性を愛する海外の人たちに救われたんですね。川手さんが海外を拠点としていたら、今よりもっと認められていますよ。海外には「創造性=高級」と認める基準がありますから。

川手 デジタルアート作品も、最初は海外で認められたそうですね。

猪子 ええ、デビューも、最初に作品を買ってくれたのも海外。今年3月から初の大きな常設展示を始めましたが、それもシンガポールでした。

川手 日本にも新しい表現を認め、「創造性=高級」と認める人がいないわけではないんです。ただ、残念なことに、その数は圧倒的に少ないかもしれません。

フロリレージュ Florilege
サスティナビリティー
肉は経産牛のロースを使用。薄切りにした肉は塩とトレハロースで下処理して乾燥させ、75℃の湯でしゃぶしゃぶのように加熱。ワラの香りを付けたジャガイモのピュレとともに皿に盛る。肉や野菜の切れ端を活用してひいたコンソメと、パセリのオイルをかけて仕上げる。「サスティナビリティー」というタイトルで、食材を無駄なくおいしく提供する川手さんの今の取り組みを表現した。

2100年頃には、レストランは消えてしまうのか

川手 自分に対する評価だけでなく、私たち代の料理人は、未来の食についても考えながら仕事をする責任があると考えています。2100年頃には、食料難でレストランが消えてしまうのでないかと危惧している。じつは、5月に佐賀県・有田で開かれた「世界料理学会 in ARITA」で、「2100年にはレストランがなくなる」というタイトルで、「フードロス」に関する発表をしてきたばかりなんです。

猪子 今の日本のような食材至上主義が食料危機を招くのではないかと思います。希少食材を高級なものとして、みんなが血眼になって取り合う。まさに食料危機の縮図です。

現在日本では、年間約1700万tもの食品廃棄物が排出されているという。「フロリレージュ」には川手さんの思いを伝えるカードが置かれている。「私たちの食べ方、飲み方で地球は変わる。廃棄を減らすことができたなら……。そんな想いを込めて、おいしい料理をお届けします」。

川手 肉をやめて野菜を食べたらいいという考え方もあります。もちろん、シェフたちは野菜だけでもおいしい料理が作れますが、それでは、わざわざレストランに来てくださるゲストの理解が得られません。

猪子 人間が生きていくうえで動物性タンパク質は不可欠ですしね。

川手 そこで今、現場でできることとして、たとえば経産牛などをおいしく調理して出しています。子どもを産み終えた牛の肉など、レストランで食べたくないと言う人もいるでしょう。でも経産牛のように本来ははじかれるか、ミンチにしかならない肉をおいしく仕上げて、新しい価値を示すのも使命と思っています。

猪子 その際に必要なのが創造性ですね。高級食材を使っておいしいものを作るのではなく、創造性によっておいしさを構築するのです。

川手 多くのシェフがそういう意識になったら、日本は変わりますね。

猪子 ええ。「エル・ブジ」がエスプーマやアルギン酸を使った科学調理を編み出したように。価値観や手法が多様化すれば、食料問題が深刻化しない可能性も出てくる。だから新しい価値観を生み出した「エル・ブジ」とか「ノーマ」は、それなりに人類に貢献していると思うんです。シェフたちの努力によって、最近では「霜降りの和牛より、熟成した赤身のほうがおいしい」と言う人も増えてきた。これもすてきなことです。

川手 おもしろいなぁ。猪子さんは料理人でもないのに、かなり深い部分で料理の話ができる。

猪子 一応サイエンス系だから(笑)。物事の原理、原則というのは変わらないのです。
 よく「東京は世界一おいしいものが食べられる都市」と言われるけど、それは20世紀で終わっていて、現在は過去の残影でそう言われているだけだと僕は思うんです。だからあと10年もしたら、アジアのなかでシンガポールやバンコクに負けると懸念している。でも、川手さんのようなシェフが登場して、将来を見据えた挑戦を続けたら、状況は変わるかもしれません。

川手 責任重大だけど、これからも言うべきと思うことは発言し、信じたことをやり続けるだけです。今日は、ありがとうございました。

創造性をもっと敬うようになったら、日本の料理界は大きく変わると思う。食料危機だって回避できるかもしれません。
──猪子寿之さん

年間1700万トンにも及ぶ食品廃棄物のうち半分くらいは食べられるもの。これをこのまま放ってはおけない……。
──川手寛康さん

超多忙な日々を送るふたり。「フロリレージュ」で閉店後から始まった対談は深夜過ぎまで続いたが、まったく疲れを見せなかった。

ウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」とは?

プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、絵師、数学者、建築家、ウェブデザイナー、編集者など、デジタル社会の様々な分野のスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団。アート・サイエンス・テクノロジー・クリエイティビティの境界を曖昧にしながら活動している。

シンガポール「マリーナベイ・サンズ」のアートサイエンス・ミュージアムの巨大な常設展示。
教育プロジェクト「チームラボアイランド 学ぶ!未来の遊園地」の中の「お絵かき水族館」。
フロリレージュ Florilege
昨年、南青山から神宮前に移転した新「フロリレージュ」の店内は解放感にあふれ、広々としたカウンターが印象的。10人のスタッフでゲストをもてなす。

フロリレージュ
Florilege
東京都渋谷区神宮前2-5-4 SEIZAN外苑B1F
03-6440-0878
● 12:00~13:30LO 18:30~20:00LO
● コース  昼6000円~ 夜11500円~
● 水休
● 22席
www.aoyama-florilege.jp


上村久留美=取材、構成 依田佳子=撮影
interview by Kurumi Kamimura photos by Yoshiko Yoda

本記事は雑誌料理王国第263号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第263号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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