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調理のヒントを探る!傑作の鮎料理


烈火の遠火による独特の火入れで、鮎本来の特性を最大限引き出す、和食の塩焼き。極みの味わいを認めながらも独自の解釈とアプローチで鮎料理に挑戦する、フレンチ、イタリアン、中華のシェフ。ここでは4人の料理人の鮎料理とその狙いを紹介する。

炭火を使わず焼きを極める。囲炉裏の焼き方が基本

【新橋】鮎正 山根恒貴さん

創業以来、故郷の島根県高津川から鮎を取り寄せ、試行錯誤を重ねながら、そのうまさを伝えてきた山根恒貴さん。6月の初鮎に始まり10月末の落ち鮎まで、この店で消費される鮎は、年間1・5トンにも及ぶ。鮎の料理宿を営む実家から、日に約300本、12キロ余りの鮎が届けられ、形や大きさに応じて、塩焼きや素揚げ、煮浸しなどさまざまな料理に姿を変えて、短い旬を愛おしむ美食家の舌を唸らせてきた。「高津川は、一級河川であるにもかかわらずダムがない。だから天然遡上の鮎が多いんです。水質もよく、いいコケができるせいか、内臓の味わいに深みがある。野鮎というか、昔の鮎の味がします」。山根さんが鮎を語る時、その想いはしばし時空を超える。幼い頃から慣れ親しんだ高津川での懐かしい情景が、瞳の向こうに浮かんでいるのかもしれない。

そんな鮎だからこそ、調理にも人一倍気を配る。とくに塩焼き。「理想は囲炉裏で焼く焼き方」だが、店で炭火は使えない。天火でいかにうまく焼くか、が最大の命題だった由。コツは烈火の遠火。水気の多い鮎の水分をほどよく抜きつつパリッと仕上げるため、天火の下に水を張らずに焼いていく等々。独自の手法で焼き上げられた鮎のうまさは、炭火に決して負けてはいない。野武士の如き猛々しい味わいが魅力である。

鮎の塩焼き

「鮎正」では、毎日届いた鮎を25gぐらいから5g単位ごとに、サイズ別にふり分けている。塩焼きに用いるのは、だいたい40~45gの大きさの鮎。場合によっては、35~39gと50~54gの鮎を組み合わせにして出すことも。通常コースには、塩焼きが2本つく。これぐらいが頭から丸かじりするにはちょうどよいサイズだ。6~7月の鮎はまだ骨もそれほど固くなく、丸ごと食べられるのが醍醐味。8月からは、うるかのいしるを塗って焼く香醤焼も始まる。

調理のポイント
串打ちにした鮎は、ふり塩してあるものの、従来の和食店のようにヒレや尾に化粧塩はしていない。火は強火の遠火。まず表面を焼き、塩が浮いてきたら裏面に返し、時折、串を立てて鮎の水分を抜きながら焼く。6分通り火が入ったら再度表面をサッと焼いて仕上げる。

山根恒貴さん
1947年島根県生まれ。高校卒業後に上京し、西村元三朗氏に師事する。「新ばし鮎正」は創業38年。46年間の営業の後、再開発事業に伴い2009年、現在の地に移転オープン。来月6月1日で50周年を迎える。

目指すはふわふわ感と少しの味苦。深い火入れで持ち味を引き出す

【外苑前】フロリレージュ 川手寛康さん

日本人が日本でフランス料理をやる意義――それは、日本特有の食材とどう対峙し、フランス料理のひと皿としていかに昇華させていくかにある。その理念のもと、自らの料理を構築していくのが川手流フレンチ。日本の夏を代表する〝鮎〞もまた、まさにそうした食材のひとつであり、自らも友釣りをする川手寛康さんにとっては、幼い頃から身近な存在の魚でもあったそうだ。「夏になるといつも祖父や父親が釣ってきた鮎を、塩焼きで食べていました。その時の印象からなのか、内臓の苦味よりも、身のふわふわ感というかしっとりした味わいに、僕は鮎のおいしさを感じるんです」

それゆえ、去年の夏、初めて鮎を扱うにあたり、まず考えたのはそのしっとり感を最大限に引き出すための手法「。鮎には深い火入れがベスト。しっかり火を入れることで食感や香りが立ってくる」との思いから生まれたのがご覧のひと皿。ベニエである。高温の油で手早く揚げれば身のしっとり感を逃すことなく、火もきっちり入るというわけだ。

内臓や骨はビスクにしておなかに詰めるひと手間もフレンチならでは。〝鮎は塩焼きが一番〞なのは重々承知のうえ。だが、フレンチの技法やエスプリを加味することで、ひと味違う鮎の魅力を表現できるはず。川手さんの挑戦は始まったばかりだ。

和歌山産鮎のベニエ そのビスクときゅうりのデクリネゾン トリュフ風味

小ぶりの鮎が好まれがちな和食に対して、川手さんがよしとするのは、身に厚みのあるやや大ぶりの鮎。それも、身のふわふわとした食感を大切に考えてのことだ。調理法もしかり。190℃の高温の油でわずか1分。この手早さで揚げきるために、あらかじめオーブンに入れ、鮎の芯温を室温にまで上げておくひと手間もおいしさの秘訣だ。また、鮎を丸ごと1尾味わってもらおうと内臓や骨をビスクにしておなかに詰めているのもフレンチならではだ。

調理のポイント
去年から扱っているのは、和歌山県紀ノ川の天然鮎。地元の釣り師の方から直接送ってもらっている。琵琶湖から活けの鮎を取り寄せたこともあったが「現地で締めた鮎のほうが味があるように思う」と川手さん。内臓と骨をビスクに仕上げる手法はいかにもフレンチ。

川手寛康さん
1978年東京都生まれ。父は洋食、兄は中華料理、叔父は鮨店と料理人一家に生まれ、幼稚園の時に調理人をめざす。西麻布「ル・ブルギニオン」で修業したのち渡仏。帰国後、白金台「カンテサンス」を経て2009年に独立。

巡り合えた天然に近い半天然鮎。だしと具にも使い味に幅を出す

【新宿】ブリッコラ 北村征博さん

修業先は北イタリアの山の中。それゆえ「魚といえば川魚。僕にとってイタリアの魚料理=川魚のイメージが強いんです」とは、北村征博さん。だから、きわめて日本的な食材の鮎を扱うこともごく自然な感覚だったそうで、「ブリッコラ」のシェフに就任した5年前から、毎年季節になると、フリットにしたりコンフィにしてサラダにと、積極的に鮎をメニューに取り入れてきた。だが、仕入れルートやコストを考えると和食店のように天然鮎にはなかなか手を出せない。〝半天然〞と呼ばれる鮎を使わざるをえないのだが「内臓が弱かったり、どうしても状態が安定しないのがネックでした」。

そんななか、去年の夏出会ったのが〝天竜鮎〞。「長野県飯田市の天竜川近くにある天竜養魚場の鮎なんです。できるだけ天然に近い鮎をと、ご主人の棚田健治さんが、水や飼育法にこだわって育てた鮎で、従来の半天然の鮎に比べ、身質もしっかりして香りもよく、味も詰まってます」。

そこで、今年新たに試みたのが、ご覧のリゾット。コンフィにした鮎をほぐして米と和えるだけでなく、カリッと香ばしく焼き上げた鮎を丸ごと一尾のせたのも天竜鮎なればこそ。北村シェフ曰く「どこか引きしまったような内臓のほろ苦さには、食欲を引き起こす働きがある。そこが、何といっても鮎の魅力ですね」

鮎と香草のリゾット

「パスタよりも米のほうが、鮎と合わせた時にしっくりときた」とは、北村さん。鮎の身にまとう繊細な風味を損なわないようにと、ベースのだしも鮎100%。生の鮎をオーブンで2~3日かけ乾燥させた後、水と塩だけで煮出してとっただしを用いている。一方、具には、コンフィにした鮎の身をほぐして入れるほか、丸のままカリッと香ばしく焼き上げた鮎をトッピング。ディルやチャイブ、チャービルなどの香草を合わせ、イタリア的な味わいに仕上げている。

調理のポイント
鮎は現地で締めてもらい、仕入れた時点でコンフィにして保存。プーリア州のオリーブオイルで焼いた時にカリッと芳ばしい仕上がりになる。写真は天竜鮎。南アルプスから湧き出る地下水を用いて餌を管理。充分な運動量で育った鮎は、きわめて天然に近い味わいだ。

北村征博さん
1975年京都生まれ。19歳で料理の世界に。25歳で渡伊。トレンティーノやエミリア・ロマーニャなど北イタリアの山の中にあるレストラン等で3年間修業。帰国後「ブリッコラ」の料理長に就任して5年目。

内臓の扱い、骨の火入れを考慮。理想の塩焼きを中華の技で再構築

【岐阜市】開化亭 古田 等さん

岐阜は日本一の鮎王国。やはり、古田仁さんも「鮎は塩焼きに限る」という。しかし一方で「腕の立つ焼き手でないのなら、塩焼きが最良とは限らない。それに通じる調理をほどこせばいい」スタンスだ。この地では最高峰の和良鮎が手に入る。中華料理の技術で、どうにか生かせないものか。そう考えた末に生まれたのが、鮎の春巻き仕立てだ。

まず鮎は三枚に下ろし、頭、中骨、ひれを素揚げする。繊細な身を犠牲にしてまで火を入れるほど、鮎の骨はおいしくも、硬くもない。細かな骨なら揚げることで、口当たりもよく、香ばしさが得られる計算だ。

内臓は生と、醤油やオイスターソースなどで調理したものと、両方を使う。香りのもとである鮎特有のぬめりも、大切な調味料だ。あとは身に塩をして、骨と内臓を元あった位置に戻し、春巻きの皮で包む。水溶き片栗粉でのりしろをしっかり閉じ、鮎の姿に沿ってかたどるのは、塩焼きへのオマージュか。揚げる際は軽く、身をふっくらと温める程度に火を通す。アツアツの揚げ立てを紙ナプキン代わりにほお葉に包み、頭からかぶりつけば、蒸気とともに立ち上る鮎のすがすがしい香り。ほくほくした身を強めにした塩が締め、内臓はほろ苦いソースになる。

塩焼きに匹敵する、鮎料理。このスペシャリテを求めて、各地からの客足が伸びるというのも納得だ。

和良川の鮎の春巻き仕立て

数あるスペシャリテの中でも、古田さんを代表する料理が鮎の春巻き。鮮やかな金色の模様を帯び、ふっくらとした白身、ほろ苦く上品なわた。姿、香り、わた、身、そのすべてで総合評価を決める「清流めぐり利き鮎会」で2度のグランプリ、3度の準グランプリを受賞した和良鮎があ ってこそ。シーズン中は生の場合もあるが、釣ってすぐ生きたまま瞬間冷凍したものを、最良の状態でスト ックしておく。解凍しても身質、香り、ぬめりはそのまま。塩をした姫キュウリとスダチを添えて。

調理のポイント
焼き手によっては硬さが残る頭と中骨も、素揚げしておくことでサクサクとした香ばしい歯触りに。小さなひれ、内臓を包む細かい骨まで丁寧に揚げる。形成してからは、160~170℃の油で火入れ。春巻きの皮と鮎の皮のサクサクした食感も引き立てられる。

古田 等さん
1956年岐阜県生まれ。岐阜柳ヶ瀬の四川料理「平和園」で修業を重ね、1978年「開化亭」をオープンし、現在に至る。中華の枠を超えた独創的なスペシャリテを数多く生み出し、県内外から多くの客を集めている。

森脇慶子=文 長嶺輝明、古田登紀子=写真

本記事は雑誌料理王国2012年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2012年8月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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