まず、最初にお伝えしておきたいのは、私たちはレストランが大好きで、渾身の一皿を繰り出すシェフたちを尊敬しているということ。
その上で、時代の流れに伴う世代交代や技術革新で人々の意識や行動が変わりゆく今、「食」をとりまく状況もまた大きな潮目を迎えていることは否めない。
今回の特集では、そんな変化の中で注目されつつある「コネクテッドシェフ」に注目。
社会の様々な事象へ積極的に「コネクト」する料理人=「コネクテッドシェフ」を、以下の4つの視点から捉え、彼ら/彼女らを通して未来へ続く食のあり方を考えてみたい。
これまで、若い料理人が修業した先に見据えていたのは、一国一城の主として自分の店を築くこと=「独立開業」。しかし、ここ数年の特徴として、地方に食材探しの旅に出たり、異ジャンルのシェフとポップアップレストランを企画したりと、敢えて店舗を持たずに活動の幅を広げる料理人の存在が目立っている。アメリカ・ニューヨークでは、大学の寮で開催したソーシャルダイニングが評判になり、現在、約6,000人の予約待ちリストを抱える料理人も。
店を構えたくても莫大な初期投資に二の足を踏む料理人は少なくない。また、飲食店1年目の廃業率は3割ともいわれるほど、ハイリスクだ。しかし、「コネクテッドシェフ」は、リスクを避ける目的で「無店舗」を選択しているわけではなさそうだ。聞けば彼らは、料理人として「地域の食材のよさを伝えたい」、「食のサスティナビリティを追求したい」、「料理人のワークスタイルを改善したい」など、食を通して伝えたいことがある。逆に言えば、思いを伝えたいがゆえ(ミッションの達成への近道を選択した結果)に、フットワークのよい無店舗というスタイルを選択したとも言える。
資金調達はクラウドファンディングで、告知や集客はSNS で、顧客の予約受付はや予約台帳サービスで、決済はキャッシュレスや事前決済で…など、店舗を持たないシェフたちにとって、テクノロジーの力は必要不可欠。日本では、2011 年の震災以降急速に広まったSNS や、2016 年に上陸した「Uber EATS」などが牽引力に。店舗を構えずとも社会や顧客との接点を確保でき、スタッフを雇わずとも顧客に食を提供できる環境が整った。
昨夏開催された「スマートキッチン・サミット・ジャパン2019」で、ディスカッションされたテーマのひとつが「シェフが担う役割の変化」。シェフやレストランにも転換期が訪れており、欧米では、従来までの「職人としてのシェフ」から、「社会課題や未だ知らぬ食文化と顧客を接続するコネクテッドシェフ」が出現し始めているという。今後、シェフは、「おいしいものを作る人」という役割のみならず、食のフィルターを通して、私たちと社会をよりよく接続するナビゲーターとしての一面も担っていくと予測される。
本記事は雑誌料理王国2020年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。