フードシステムの変革を担うスタートアップ企業が集結! 〝Foodtech Venture Day(フードテックベンチャーデー)〟から見える食の未来


米国初のフードテックカンファレンスの日本版〝SKS JAPAN〟を主催する株式会社シグマクシス、テックプランター等の企画・運営を通して研究・技術の社会実装を進める株式会社リバネスとの共催によるイベント〝Foodtech Venture Day(フードテックベンチャーデー)〟。食分野に貢献する革新的な技術・事業アイデアをもつプレイヤーがプレゼンテーションを行い、議論を展開する本イベントの10回目が去る5月9日、東京ミッドタウン八重洲で開催されました。そこから見えてきたのは、今後100年を見据えた新しい食環境の姿です。

会場となったのは東京ミッドタウン八重洲・イノベーションフィールド。東京駅直結、地下2階にはバスターミナル東京八重洲を擁し、まさに都市と地方の接点に位置している。

2019年に発足した〝Foodtech Venture Day〟は、イノベーティブな技術・アイデアで食に関わる社会課題の解決を目指すプレイヤーが登壇。国内外のキープレイヤー同士はもちろん、投資家や大手事業者、研究機関等がネットワークを形成し、業界を越えた企業間共創を前進させることを目的としたイベントです。10回目となる今回は、2023年3月に開業したばかりの東京ミッドタウン八重洲に併設されている「イノベーションフィールド」が会場となりました。

八重洲セントラルタワー4・5階に設置されたイノベーションフィールドは、都市と地域のイノベーション起点として、企業・アカデミア・スタートアップが集う場であり、地域や産業を超えた価値共創の機会の提供を目的に設けられた施設。カンファレンスやテンポラリーオフィス、ラウンジやスタジオを完備。地域のイノベーション創出を目的として全国のビジネスパーソンやプロジェクトパートナーが集う地域経済創生ブロジェクト「POTLUCK YAESU」の拠点としても活用されている場所です。

そこで開催された今回の〝Foodtech Venture Day〟のテーマは「フードシステム革新に挑戦するゲームチェンジャー」。地球規模の環境変化や安全保障による食糧危機の高まり、栄養や健康に関わる問題など、現在のフードシステムが抱えるさまざまな課題に対し、情熱を持ってその解決の糸口を模索し、実際に行動を起こしているスタートアップ8社が登壇しました。

左からモデレーターを務める株式会社リバネス・塚田周平氏、SKS JAPANを主催する株式会社シグマクシス・常務執行役員の田中宏隆氏、シグマクシス・プリンシパルの住朋享氏。

オープニングセッションではまず、SKS JAPANを主催するシグマクシスの田中宏隆氏とモデレーターのシグマクシス・住朋享氏、リバネスの塚田周平氏が「産業を創ると何か?」という基底テーマについて意見を交換。複雑に絡み合ったフードシステムにおいてそれを創るために必要なものは「50年後、100年後の未来を想像し、ワクワクすることでは」という言葉が印象的でした。

合同会社シーベジタブルの友廣裕一共同代表。

続いて、ベンチャー8社によるピッチがスタート。まずは、海藻の研究/栽培と海藻を使った食文化の創出に取り組む合同会社シーベジタブルの友廣裕一共同代表が登壇しました。開口一番「日本に何種類の海藻があるかご存知ですか?」と会場を見回します。実は1500種もあるそうなのです。
「そのうち日常的に食されているのはわずか10数種。それでも海藻を食べる食文化の先進国は日本なんです。あとの1400種以上は無害なのに利用されていない。日本の足元に未開の食材が眠ってるって考えると、わくわくしますよね」と友廣さん。

一方、環境変化により海藻が生えている藻場が急激に減少している、とも。藻場は、海のゆりかご。小型のエビなどが海藻に集まり、それを餌にする魚も増えます。生産量が激減していたスジアオノリの陸上栽培を成功させてきたシーベジタブルは、その技術を生かして海面での海藻栽培も開始。海で海藻を栽培することでそれ自体が〝海の森〟の役割を果たし、生態系が豊かになるため、現在は全国の漁師さんと協力しながら栽培を始めています。同時に東京にテストキッチンを開設し、レストラン「inua」で料理開発を手掛けてきたシェフを中心に海藻を使ったメニューや商品を開発。その可能性と魅力を発信しています。

株式会社雨風太陽の高橋博之代表。

続いて登壇したのは産直アプリ「ポケットマルシェ」を運営する株式会社雨風太陽の高橋博之代表。都市と地方をかき混ぜ、繋げる「関係人口の創出」を掲げ事業を展開されています。「都市部では過密環境、生きるリアリティや故郷の喪失という問題があり、地方では過疎や高齢化による地域文化や産業の担い手の喪失があります。地方と都市を分断せず、両者をかき混ぜ、生産者と消費者のつながり(関係人口)が拡大すれば、それが解消できます」と、続けます。

その一例として、ポケットマルシェを利用した生産者・購入者の話をする高橋さん。
「新鮮な魚を送ります、という漁師さんがいたのですが、購入者は入金したものの商品がなかなか届かないと文句を伝えた。でも、出漁できるかは海況次第。漁師さんが出荷出来ない理由を、海況を伝える映像と一緒に伝えたところ、購入者はそれまで知らなかった〝魚が届くまでの背景や物語〟を知り、納得してくれたそうです。スーパーで買うのとは違うんですね。そうして水揚げされたばかりの魚が届けば、ファンになってくれる。野菜でも同様で、生産者とその背景を知ることで関係性が続く。購入者の中には実際に産地を訪ねて収穫を手伝ったり、さらに集落の祭りに参加したりする方もいます。食材の産地が故郷のような存在になる。それが〝関係人口〟が増える、ということなんです」

以降も、多様なアプローチで新たな食のプラットフォーム作りに挑戦する企業が登壇しました。

株式会社シェアダインの井出有希共同代表。
プランティオ株式会社・芹澤孝悦代表。

例えば、家族構成やその健康状態など、各戸にとって異なる最適な食をレストラン経験のある調理師や栄養士が提案し、実際にシェフが各家庭を訪れて調理・提供するマッチングプラットフォームを提供する株式会社シェアダイン。料理人にとってはレストラン以外の働き方の選択を増やし、食の専門家に相談することでパーソナライズされた食を安心してチョイスできるサービスです。赤ちゃんを抱えたワーキングマザーとしての経験から起業した井出有希共同代表ですが、子育て世帯のみでなく介護や健康維持に食管理が必要な利用者など、さまざまな理由からプラットフォームを利用する人々がいることを、明示していました。

あるいは、「農と食に触れる機会の創出」を掲げ、アーバンファーミング(都市部の自宅・自宅外での農的活動)のためのITサービス提供を進めるプランティオ株式会社。芹澤孝悦代表は、2025年には肉、2028年までには野菜が不足するという国連の予想を踏まえ、世界各国のアーバンファーミング(都市部の屋上菜園やコミュニティファーム)の現状を紹介。今後の食料自給の変化を見据え開発したIoT+AIセンサー「grow CONNECT」(土壌温度・湿度・外気温度・湿度・日照センサーを搭載し、野菜の情報を利用者に伝えるもの)やアプリ「grow GO」(栽培ナビゲーションやコミュニティ機能サービス)についてのプレゼンテーションを通して、新しい都市農の可能性を示唆しました。

全てのプレゼンテーション終了後は、参加企業が提供した食材を使った料理が振る舞われるネットワーキングタイム。熱い思いをもった人々がそれを伝えあう熱気に溢れていました。

ピッチ終了後のネットワーキングタイムは株式会社シーベジタブルのスジアオノリを使った料理も振る舞われた。

新しい食のプラットフォーム構築に情熱を傾ける人々が一堂に介したプレゼンテーションで改めて提示されたのは、今の日本のフードシステムが抱えるさまざまな課題と、10年先、50年先、100年先の日本が今後歩めるかもしれない新しい未来図。従来の枠組みでは解決できない複雑な問題も、さまざまな知性と技術、何よりもそれを「なんとかして素敵な未来に変えたい」という情熱が集まれば実現できる、という希望と気づきでした。

そこに参加するために自分に何ができるのか? その答えは、自分自身が日々感じる〝もっとこうだったらいいのに〟という小さな思いにこそ、あるのかもしれません。

Text : 奥 紀栄(料理王国編集部) Photo:野々山豊純(同)

■問い合わせ先 
Foodtech Venture Day事務局
f00dtecheyes@sigmaxyz.com
※2023年7月27日(木)~29日(土)に〝SKS JAPAN 2023 -Global Foodtech Summit-〟を開催予定。https://food-innovation.co/sksjapan/sksj2023/

三井不動産株式会社
東京ミッドタウン八重洲
https://www.yaesu.tokyo-midtown.com

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