2024年10月7日
明月、素月、朗月、皓(こう)月。日本語には、月一つ表すのにも、100以上の言葉があるという。自然のありように心を重ね、その移ろいに思いを馳せる日本人の美意識を、しつらい、器も含めた総合文化として表現し、心をも満たす料理を提供するのが、穴見秀生さんが率いる本湖月だ。茶席の主客のように、思いを循環させ生み出す、最上の非日常体験とは。
スッポンの煮凝り
暑い時期は滋養のあるもので、身体の中から元気になってほしい。スッポンを1時間ほどコトコトと煮詰め、薄口醤油と酒ですっきりと仕上げ、ひんやりと冷やした甘露のような煮凝りに、朝露をイメージした丸い冬瓜を浮かべたハス盛り。レンゲは穴見さん自ら描いた涼しげなメダカと網の柄。
約400年前、樂焼の樂家四代一入が作った、微かに虹彩が見られる赤樂の菊皿を愛おしむように撫でる穴見さん。その姿は、かつて千利休が「国一つの価値がある」と評した茶道具の命脈を保つ器への敬意があふれている。「中途半端な料理は、器が拒絶します。最高の食材を誠心誠意料理して、これでよろしいでしょうか、と盛るのです」。