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日本料理の名店を訪ねる「京料理たか木」


兵庫・芦屋
「京料理たか木」高木 一雄

芦屋の一軒家でいただく
世界がリスペクトする日本料理

芦屋駅から徒歩数分、住宅街にあるモダンな一軒家。心を静かに整えてくれる竹林のアプローチを抜けると、季節の花としつらいが出迎え、落ち着いた和紙の壁紙が柔らかな光を生み出す。ミシュラン二つ星に輝く「京料理たか木」を率いるのが、中国、台湾、モルディブ、タイなど世界各国のラグジュアリーホテルの監修を行い、世界が注目する高木一雄さんだ。

ブルターニュオマールと糸南京の白地がけ、いちじく 銀杏 キャビア添え
朝、自ら農家を訪れ摘んできた里芋の葉に、備長炭であぶったオマール海老、そしていちじくにふわりと軽やかに仕上げた白地という定番の組み合わせ。吹き墨が美しい器は明時代の月兎の染付の柄を元に、小坂大毅さんが作成したもの。

十三夜の名月に焼き松茸
鱧の身と卵で作った鱧豆腐を十三夜の月に見立て、みじん粉をまぶして揚げた三度豆(インゲン豆)のススキ、松茸に出汁がふわりと香る。月に雁、碗は輪島の工房に依頼し、自ら描いた雁の高蒔絵をあしらっている。

鱧豆腐は表面を軽く焦がして。

ブルターニュ産のオマール海老は伊勢海老より柔らかい身質が魅力。

芦屋の街の雰囲気に合わせ、伝統的な日本家屋ではなく、88坪という広い敷地を生かし、シンプルかつ木の温かみを生かしたモダンな作りに。ちなみに主人の高木さんは、老舗料亭「京大和」で10年修行を積んだ。「体重が20キロ落ちた」ほど厳しい毎日だったが、「若いうちにキツい仕事をしておく事で、自分の限界を引き上げられ、後になって楽に仕事ができるようになる」。

祖父が料理人、父がホテルマン、母が料理研究家という家に生まれ、自然と料理人の道に。大学時代にイギリスに語学留学し、流暢な英語と国際感覚も併せ持つ。

とはいえ、作るのはあくまでも日本料理の根本にある『淡味』を体現する料理。「関西での魚の代表格は繊細な脂の甘味を感じる鯛。でも、最近、日本人の味覚が強い油脂を中心とした好みに変わっているのが気になります」。高木さんは西洋の食材も使うが、日本料理の枠組みの中に違和感なく取り込めると考えているからこそだ。

出来立ての瞬間の味と香りを楽しんでもらうため、出汁は提供直前にひく。枕崎の金七商店特製の本枯マグロ節と希少な天然真昆布のみを使い、うま味がしっかりとありつつも、塩気を抑えた優しい味が身上だ。

コロナ禍は、高木さんに大きな変化をもたらした。2019年10月に、タイ・バンコクの歴史あるマンダリン・オリエンタルホテル内に、自らの名を冠し監修する「KINUby Takagi」を開店。その他にも海外の仕事が多かったため、留守中は右腕的存在の料理長に店を任せていた。しかし、コロナ禍を機に、その料理長が故郷に帰ることになり、一人で料理をこなす、身軽な体制に変化させた。度重なる緊急事態宣言の発令で、スリムな経営体制とする必要性を感じたことに加え、一人の方が、食材に合わせて柔軟に料理の内容を変えていけるからだ。海外出張の折には店を閉める。作り置きを基本的にしない一人体制のため、八寸をなくし、逆に昼でも11皿とコースの皿数を増やすことで、出来立ての味を楽しんでもらう。

コロナ禍が終わっても、この一人体制は続ける予定だが、「料理人人生の最後に、外国人の日本料理人を育てたい」と考えている。その背景には、日本の生産者の危機的な状況がある。「特に、このコロナ禍で、飲食店の経営が苦しくなり、店側もより安いものを選ぶようになっていると聞く。それでは、生産者が報われず、技も途絶えてしまう」。殊に気になるのは、後継者問題だ。マグロ節を作ってくれている金七商店では、中学二年生の稜空くんが、5代目として修行中。そんな姿を見るにつけても「決して儲かるわけではないが、職人の道を選ぶ、志ある若い人を支えたい」という思いを強くする。後継者がいなくなれば、日本の料理の骨格をなす一次産品の担い手がいなくなってしまう。

かつて、フランス修業に行った日本人料理人が、日本でフランス料理店を開き、文化の普及と食材の消費拡大に貢献した。同様に、海外に、日本でしっかりと教育を受けた地元出身の日本料理人が根付いていけば、海外に上質な食材の良さが伝わり、販路も広がるはず。世界を知る眼差しは今、日本の生産者たちの未来に向けられている。

高いガラス張りの天井から優しい光が差し込むカウンター席、天井は手のこんだ網代。この地域に多い年配のお客さまが椅子席を好むことなどから、24席全席が椅子席だ。

田楽のなすはきめ細かい食感のオランダ品種。

鹿児島・枕崎の金七商店の4代目、瀬崎祐介さんを3年がかりで口説き落とし、特別に作ってもらった本枯マグロ節。

器は著名陶芸家・辻村史朗さんや、その息子、唯さん、塊さんのものも。

白ナス田楽 牛肉 トリュフ
とろりとした白ナスを田楽に、赤味噌を加えたすき焼きの地に漬けた鳥取和牛のイチボを炭であぶって。最後に秋の野の花を思わせる紫色の金魚草の花弁とオーストラリア産のトリュフを散らした。志野の器は瀧川恵美子さんの作。

秋の器の数々。「盛り付けは、料理人によって、同色系で揃える人と、多彩な色の取り合わせを好む人に分かれると思います。自分は、両方を、コースの中でバランスよく行なっていきたい。そのために重要な役割を果たすのが器の存在です」

高木 一雄さん

「世界を魅了する『瞬間の味と香り』。日本料理を世界に広め、情熱ある生産者を支えたい」

京料理たか木
兵庫県芦屋市大原町12-8
TEL 0797-34-8128
12:00~15:00(LO13:30)、18:00~22:00(LO20:00)
不定休(要予約)
*看板は細川護熙元首相の筆。

text: Kyoko Nakayama photo: Shohee Murakawa

本記事は雑誌料理王国318号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は318号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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