羊を知るシリーズvol.1 知れば知るほど羊肉をもっと美味しく味わえる15のこと


 およそ1万年前から羊と人間はともに暮らしてきたという説もある。一方、日本の羊肉食の歴史はわずか100年。1918年に日本の農商務省が掲げた「緬羊百万頭計画」(25年間で緬羊を100万頭に増やすという計画)で、国内でも羊毛や羊肉の活用方法の研究がようやく始まったレベルだ。羊肉歴が浅く、羊の知識や羊肉を食べるためのナレッジも薄いことは否めない。羊の偉大な側面を知れば、必ずやありがたみも増すわけで、知れば知るほど羊肉をもっと美味しく味わえる15のことをご紹介。

1章 世界で最も食べられている肉

■ 世界の畜肉生産量(2018年)

 2018年の世界の畜肉生産量を品目別で見れば、鶏肉1億2,300万トン、豚肉1億2,000万トン、牛肉7,100万トンに対して、羊肉は1,500万トン(※1)と桁違いに少ない。しかし宗教上の禁忌で、豚肉を食べることはイスラム教・ユダヤ教などで戒律上禁じられており、現在でも比較的よく守られている。そしてほとんどのヒンドゥー教徒は牛肉を食べない。一方で、羊肉と鶏肉は主だった宗教が食べることを許している。2016年の世界の宗教別人口はイスラム教徒は約18億人、ヒンドゥー教徒は約10億人(※2)なので、羊肉を食べられる人口(※3)は豚肉や牛肉より多い。鶏肉も、だが…。

※ 1 「OECD-FAO Agricultural Outlook(2018)」
※ 2 「ブリタニカ国際年鑑(2017年版)」
※ 3 国連によれば世界の人口は2019年時点で77億人

2章 人類にとって最初(かもしれない)の家畜

動物が家畜化した起源については諸説紛々。それらを一覧にした「ウィキペディア」の「家畜化」のページに掲げられた諸説を機械的に並べると「イヌ→ヒツジ→ヤギ→ブタ→ウシの順」に家畜化していったようにも見て取れるが、東京大学総合研究博物館が2019年に開催した展示では「イヌは、議論が混迷していて結論的なことが全く言えない。それに比べると、ウシやヤギ、ヒツジはどれも約1万年前の中近東にいた原種に由来する単一起源だと分かってきている」とも。

3章 漢字で確認、羊の重要度

 羊トークを交えてスタッフが対面で焼いてくれるジンギスカン専門店「羊サンライズ」のテッパンなネタは「羊」にまつわる漢字の話だそう。例えば「美」。神への捧げものとして大きな羊を選んで供えたことから、中国では「羊」と「大」を組み合わせ「立派な」「美しい」「申し分ない」という意味に。また「魚」も「羊」もともに新しいほど味が良いことから、中国語では「鮮」を「生き生きしている」「風味が良い」という意味で使う。「養」の中国語の意味は「飼う」「育てる」「生(産)む」。漢字が誕生した古代の中国でも羊が家畜の代表格だったのだろう。

4章 羊の頭数ランキング

■ 羊の飼養頭数国別ランキング(2018年)

 国際連合食糧農業機関(FAO)のデータ(※1)によれば、頭数ベースでは日本で馴染みのあるオーストラリア産やニュージーランド産とは桁違いで羊を飼育している国が3カ国もある。1位は中国で約3億頭(ちなみに英国を除くEU全体でも約1億頭)。しかしその中国は同時に世界最大の羊肉輸入国でもあり、2018年には30万トンを超える羊肉を輸入している。年間に428万トンの羊肉を生産する(※ 2)羊肉食大国のインパクトは途轍もない。ちなみに日本の飼育頭数は2017年時点で17,821頭(※3)。

※ 1 「Production, Live Animals, Sheep – FAO(2016)」
※ 2 「中国の食料輸入の動向と背景ー農林水産省(2014)」
※ 3 「めん羊統計 – 畜産技術協会」

5章 輸出量世界一はオーストラリア

■ 輸出量

 主な羊肉生産国の輸出量が興味深い。飼育頭数の上位3 ヶ国のうち中国(1位)とナイジェリア(3位)の輸出量はゼロ。2位のインドを含めて羊肉の国内需要が高いことがわかる。一方、2位のニュージーランドは39万トンで主に欧州に輸出している。オーストラリアは43万トンで輸出量世界一。輸出先は中国や中東各国が主軸だ。この両国では生産・加工・輸送の各分野でテクノロジーを駆使する動きも。例えば、オーストラリアでは枝肉の加工ラインにICチップを埋め込み、脂の付き具合などのデータを個体ごとに記録、その情報を契約農家に還元し品質向上に寄与している。


text 水 亨一
取材協力 MLA (ミート・アンド・ライブストック・オーストラリア)羊齧協会

本記事は雑誌料理王国2020年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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