人気インテリアデザイナーが語る!心地のいいレストラン設計


居心地がいい空間には、いつもデザインがあります。
お客の会話が弾み、スタッフがいきいきと働いているレストランは、デザイン性と機能性が巧みに合わさって、輝きを放っているはず。
今回は繁盛店の立役者、店舗デザイナーの方々に多くご登場いただき、シェフやオーナー、スタッフなど、実際に店を使う立場の方々と、闊達に意見交換をしていただきました。

店舗デザイナーとシェフが描くレストランの設計図

インテリアデザイナー 橋本夕紀夫さん
店舗デザインを語る。

ザ・ペニンシュラ東京をはじめ、数々の有名施設・店舗をデザインしてきた橋本夕紀夫さんが今年デザインしたのは、東京下町・押上のワインバー。
ワインバー不毛地帯ながら開店時より満席の続く「遠藤利三郎商店」の設計意図から、店舗デザインのヒントを探っていきます。

ーーこの店をつくることになったきっかけを教えてください。

オーナーの遠藤誠さんとは20年以上前からの知り合いで、遠藤さん自身に店をつくりたいという思いがあることを前から知っていたのです。それで、昨年末になって、お話をいただきました。この店はもともと味噌問屋だったのですが、ここにワインの店をつくりたいとのことだったのです。

ーーオーナーさんの要望は?

お話をいただいた時点で、かなり明快なコンセプトがありました。とにかく、気取らずにお客さんが入って来られて、ワイワイガヤガヤしながらワインが楽しめるということ。あとは、ワインに囲まれている空間構成にしたいということでした。平たくいうと、スペインのバルのような日常で使えるワインバー&レストランということでした。料理をしっかり出したいということで、厨房にも力を入れました。また、ゆくゆくは昼間にワインショップをしたいこと、セミナールームがほしいという要望もありました。

ーー予算はあったと思うのですが。

最初はカウンター10席程度の小さな店にしようと思われていたので2000万円程度でした。実際には当初の倍以上のスペース、約35坪になり、3000万円近くになりましたが。でも、35坪でこの内容で3000万円以内に収まったのは、業者さんの協力があったからこそです。

ーー空間を実現するうえでむずかしかった点は?

お洒落な店をつくるのはそんなにむずかしいとは思っていません。けれど、この店はそうではなく、アノニマスというか誰がつくったかわからないような、昔からあるバルのような居酒屋のような居心地のよい店にしたいという気持ちがありつつ、ほかにはないお洒落感や特徴のある店にしたいと思って、それらをいかに協調させるかが大変でした。
わざとらしくならないことにも気を遣いました。カウンターに使ったアンティークのダグラスファーや個室の壁一面に張ったワインの木箱など、中途半端でわざとらしく終わってしまわないようにしました。カタチの力ではなく、素材感で居心地のよさが生まれると思っていますから。

スタッフが臨機応変な対応をする空間こそ長く人々に愛される。

ーーこの空間を成立させるうえでのポイントになったものを教えてください。

レイアウトです。レイアウトには3つの核がありました。壁面のワイン。オープンカウンター。奥の個室という3つです。なるべくライブ感があって、来た人がワクワクできるものにしたいと思っていました。まず、キッチンの動き。それに壁のワインは、お客さんが手に取って見たりもできるフリーな感じ。お店の人とお客さんが一体になる感じは、真の意味でのホスピタリティが実現できるのではないか思います。レストランの基本はサービスだと思います。でも、サービスというのは、とかくマニュアル化されがちなものです。ところが、この店ではお客さんが何をするかわからないフリーな状況があって、それに対してスタッフが臨機応変な対応をする。そういう店は長く愛され続けると思うのです。また、奥の個室は引き戸にしてあるので、お客さんの入りに応じて、開けたり閉めたりすることで、いつも賑わっているという印象がつくり出せます。
ワインひとつひとつに価格と銘柄を付けているというのも、気楽で安心できるものになっています。ちなみに価格から1050円引きで持ち帰りもできるんですが、近くにあったら自分も毎日通いたいというのが正直な気持ちです。

ーー橋本さんはふだんは都心の店に行かれることが多いかと思います。しかし、こちらは都心部からかなり離れた場所。意識の違いはありましたか?

まず、地元の人に愛されなければいけないと思います。でも、周りにただ迎合するわけではありません。多少尖っていても、感度の高い方はどのエリアにもいるものですから。ただ、あまり尖りすぎず、だけど今までそこになかったモノで、それができることで周りの雰囲気・環境がよくなるということをイメージしました。

ーー最後に外観について教えてください。

外観は、シンプルさを意識しました。こだわったのは扉です。アンティークの木材を使用して、昔からあるような雰囲気を出しました。でも、この店の周りにこんな扉の店はないのです。存在感を示しつつ、昔からあったかのような雰囲気の両方を表現することで、地域に馴染みながら新しさを出すということです。
お店の存在というものは街にとって大きいと思います。それまで何もなかったような街にひとつ気持ちのいい店ができるだけでエリアの空気ががらりと変わります。店というのは街づくりのひとつのきっかけになるものです。「あっても不思議じゃないけど、なかったな」という店にしました。

橋本夕紀夫さんが考える、店舗デザイン五つの鉄則
一、 オーナーが愛情を持てる店であること
二、 アイデアはオーナーの中にある
三、 明快な個性が必要
四、 人に伝達しやすい要素
五、 わざとらしくならない

遠藤利三郎商店
東京都墨田区押上1-33-3
03-6657-2127
● 18:00~23:00 LO
● 日曜休


松尾大=文、杉田学=写真

本記事は雑誌料理王国第183号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第183号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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