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世界一のレストランサービスマンが実践する本物のサービス(後編)


「ああ、いい時間だった。また来よう」とお客様に思っていただきたい。そのためにできることは何か。サービス世界コンクールで優勝し世界一に輝いた宮崎辰さんに、自身が考え実践しているサービスについて語っていただいた。

service4  お客様の大切な情報は、データ化し共有する

今では多くのレストランで、来店されたお客様の個人情報をすべてデータ化します。年齢、性別、アレルギーなどの基本情報はもちろん、性格、食の好み、前回召し上がった料理、テーブル位置、どちらからいらしたか、旅の話、趣味の話など、そのときの担当者が伺った話はできるだけ克明に残します。そして、次に来たときの接客に、その情報を生かします。だから情報は全員で共有できる形にしないと意味がないのです。たとえば、前回熱海から来たと聞いているご夫婦なら、その日の担当者は静岡の出身者にするとか、孫が20代だと話していたご夫婦なら、その年齢に近い20代の若手をつけ、コミュニケーションを楽しんでいただくなど、担当者の配置も工夫できます。

ある店で、7年ぶりにいらしたお客様がいました。名前から昔の情報を検索したところ、当時その方からいただいていた名刺が出てきました。そこで、食事の間はそれには触れず、終わりにご挨拶する段になって、その方の名刺をこっそり私の名刺の下に忍ばせてお渡ししたら、その方はとても驚きながら喜ばれました。以来、またお店に来ていただけるようになったのです。とにかく情報は大切。そして、その先誰が担当してもいいように共有するのです。

service5 名刺は魔法の紙

名刺は魔法の紙です。私はサービスをしながら、お客様がとくに私に興味を持ってくださったと感じたら、自分の名刺をお渡しします。自分を知ってもらうためではなく、あなたは特別ですというメッセージ代わりです。そして、名刺をお客様にとって役に立つことに使ってもらいます。例えば、次回の予約は店に電話せず、私に直接ご連絡くださいと伝えます。そうすればお客様は予約に手間がかからず、特別な感じで悪い気はしません。さらに、こちらからも季節の料理のご案内をしたりして、また来ていただく機会を作ることができます。何度も来ていただけるようになれば、相手の好みも詳しく把握でき、サービスがよりその人に合ったものにできる。名刺はそんなきっかけを作ります。

service6 サービスは無駄走りの積み重ね

お客様の気持ちを察して動いても、的外れということも多いです。でも、お客様の気持ちを完全に把握することは不可能だからこそ、今できる最善を考えて動くんです。私はサッカーが好きなのですが、“お客様の満足”がゴールだとしたら、得点するために重要なのは、ボールが動いている所だけじゃない。その周りで一見無駄に走っている人が大勢いるから、ディフェンダーがずれてゴール前が空き、得点できる。サッカーは映像でその動きの関係性を確認できるけど、サービスはできない。でも、レストランはチームプレイだから流れは同じです。また来たいと思っていただくために、掃除する、身だしなみを整える、天気予報等の情報を集めるなど、できる準備は全部する。臆せず無駄走りすることがサービスです。

service7  私だって、サービスされると嬉しい

先日秋田に出張した際、素敵な居酒屋に出合いました。料理やお酒の良さはもちろん、お店の方が私の好みを察してくれる配慮が心地良かったんです。店内の囲炉裏にきりたんぽが刺さっていたので写真を撮っていたら、「私がお客様を撮りましょう」とさっと申し出てくださいました。お願いしたいけど、ちょっと恥ずかしいなと思っていた私の心を、素早く察してラクにしてくださったお店に好印象を持ち、出張で秋田に来たらまた来ようと思いました。やっぱりサービスって大事です。

宮崎辰(みやざきしん)

1976年生まれ。Fantagista21 代表、メートル・ドテル。2012年クープ・ジョルジュ・バティスト主催サービス世界コンクールで優勝。現在もさまざまな現場に立ちながら、アドバイザーや講師など指導的立場で、レストラン界のサービス向上と人材育成に力を注いでいる。


text 馬田草織 illustration Tamami Nakata

本記事は雑誌料理王国2020年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年5月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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