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こんなにある!イタリアの地域別パスタ事情

イタリアの地域別パスタ事情

イタリア各地域における地形や気候の違いが、パスタに地域ごとの特長を生んだ。それぞれどのようなパスタ、ソースが食べられているのだろうか。

パスタを見ると、その土地の風土や歴史が見えてくるのです。

イタリア全州を巡ったイタリア料理研究家 長本和子さん

Kazuko Nagamoto
イタリア料理研究家 劇団青年座在籍当時イタリアに魅せられ、イタリアのホテル学校に留学。その後料理通訳などを経て、現地イタリア料理研修を企画する会社を設立。現在は料理を通してイタリア文化を紹介している。料理教室「マンマのイタリア食堂」主宰。日本イタリア料理協会機関紙「ACCI」元編集長。日伊協会理事。著書「イタリア野菜のABC」「シチリア海と大地の味」(文化出版局)他。「イタリア好き」に小説連載中。

ーー パスタの定義を教えてください。

 パスタとは、「粉と水をこねて生地をつくり、成形する」もの。イタリアではおもに軟質小麦、硬質小麦、栗の粉、そばの粉の4種類を使います。それらを水、卵白、全卵、卵黄などと掛け合わせ、こねる。さらに、成形してソースを絡め、粉チーズや炒ったパン粉をかけるなどの最終的な仕上げをして完成となります。

ーー そこへどのようにイタリアの地方性が関係してくるのでしょうか?

 まずは粉ですね。アルプスの山中では小麦類は採れません。その代わり、イタリア北部ロンバルディア州の最北部に位置するヴァルテッリーナではそばが採れるため、それを粉として使います。ヴァルテッリーナの下からローマを中心とした中部イタリアまでは軟質小麦の産地。そして、シチリア島と、南イタリアからローマに上がっていく南部イタリアまでが硬質小麦。栗の粉は、イタリア中部のエミリア─ロマーニャ州やトスカーナ州あたりで使います。粉の地方性が出てきましたよね。
 ソースにも地方性が大きく関係してきます。代表的なソースとしては、オリーブオイルベースとトマトベース。オリーブオイルは、イタリア中部の油脂とされています。オリーブが採れないアルプス山脈の下あたりでは、代わりにバターが使われています。ローマ以南は熟したトマトが採れるので、トマトソースがメインになってきます。

 そして、チーズにも地方性があるんですよ。アペニン山脈の下のほうは羊文化圏で、上のほうは牛文化圏。ですから、上のほうは牛乳製のチーズでパルミジャーノ・レッジャーノ、下のほうは羊乳製のチーズでペコリーノを、それぞれ粉チーズにして使っています。
 水分は、安い順に、水、卵白、全卵、卵黄となっています。たとえば、卵白と合わせる場合は、他の料理に卵黄を使う場合が多く、卵黄だけを使う料理は高級な料理になります。グルテンが多い硬質小麦を使う場合は、麺をゆでた時に溶けないので、卵は使いません。ここにも土地の豊かさという地方性が出てくるのです。
 イタリア料理は郷土料理なので、その土地ならではの地形があって、そこで採れる食材を使い料理ができます。つまり、庶民の料理。庶民は住んでいる土地を離れることができないため、その土地の食材だけで料理をつくるようになったのです。そして、そこにあったのが“マンマの愛情”です。

ーー パスタにおいて一番大切なことはなんでしょう?

 私は農作業に明け暮れるマンマたちが、少ない時間と貧しい材料で愛情たっぷりのご馳走を家族に食べさせたいと思って作った料理が、パスタなんだと思います。パスタ特集や学者が書いていることは、この大切な部分が抜けていることが多い。高価なソースも作れない、粉と水しかない環境で、ご馳走を作りなさいと言われたらどうしますか? 麺の形状に労力をいかに費やせるかになる。だから、さまざまな形状のパスタが生まれた。贅沢できない人たちが、知恵と工夫で作ってきた料理なのです。
 イタリア料理には“マンマの愛情”が脈々と流れています。愛情がなければ、私たちがおいしいと思う料理は生まれるわけがありません。パスタを食べると、そのぬくもりが伝わってくるでしょう。

イタリアの地域別パスタ事情

イタリア各地域ではどのようなパスタが食べられているのか、北部、中部、南部、離島部の4つの地域別に、代表的なパスタとソースを見ていこう。

イタリア北部

タヤリン

ピエモンテ州

パスタ:タヤリン
卵黄を使った細いロングパスタ。ソースとの絡みもよく、喉越しがよい。

ソース:バター、チーズ

トロフィエ

リグーリア州

パスタ:トロフィエ
長さ4~5cmの、端が細いひも状のショートパスタ。もちもちとした食感が特徴。

ソース:ジェノベーゼ

ラヴィオリ

ロンバルディア州

パスタ:ラヴィオリ
詰め物パスタの代表格。パスタ生地に、肉やリコッタ、ゆで野菜などの食材を詰める。各地に固有の名前がある。

ソース:バター、チーズ

ラザニア

ミリア-ロマーニャ州

パスタ:ラザニア
平たい板状のロングパスタ。
パスタとソース、具材を重ねオーブンで焼き上げる。

ソース:豚肉と牛肉と生ハムのボロネーゼ

イタリア中部

キタッラ

アブルッツォ州

パスタ:キタッラ
キタッラと呼ばれる道具を使ったロングパスタ。コシが強くとても食べ応えがある。

ソース:子羊の煮込み

ピーチ

トスカーナ州

パスタ:ピーチ
もちもち感のある手延べのロングパスタ。小麦と水だけで練って作られる。

ソース:スーゴフィント

イタリア南部

スパゲッティ

カンパニア州

パスタ:スパゲッティ
イタリアの代表的な乾麺。1800年代にグラニャーノの工場から乾麺パスタが広まった。

ソース:トマト

オレッキエッテ

プーリア州

パスタ:オレッキエッテ
小さな耳のような形をしたショートパスタ。卵を使わず、硬質小麦と水だけで作る。

ソース:地野菜チーマ・ディ・ラーパとアーリオ オーリオ

離島部

マッロレッドゥス

サルディーニャ州

パスタ:マッロレッドゥス
表面のギザギザとカールした形が特徴のショートパスタ。

ソース:オリーブオイル、魚介

カサレッチェ

シチリア州

パスタ:カサレッチェ
強いコシがある、アラブ起源のショートパスタ。溝にソースがよく絡む。

ソース:トマト、魚介


柳沼有紀=取材、文 小寺恵=撮影 

本記事は雑誌料理王国第288号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第288号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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