口中をさっぱりとさせ、次なる握りの味を楽しむため、ショウガの甘酢漬けは不可欠的な存在。主を引き立たせようと、小野さんは、酸味をやや強めに仕上げるといいます。
ショウガの甘酢漬けといつより、「ガリ」というほうがピンとくる人は多いだろう。噛むとガリガリするから、薄く切るときにガリガリと音がすることから、そう呼ばれているという。アガリ(茶)やムラサキ(醤油)と同じくすし屋の符丁だが、もう一般化してしまったようだ。
ガリは、握りをおいしく食べるためには不可欠なものである。握りを食べると、すしダネの脂やうま味が強いものほど口の中に後味が残る。さっぱりとした辛みと甘酸っぱさを併せ持つガリは、その味をいったん消す役割を担うのだ。前に食べた握りの味と匂いをガリの刺激で消し、熱いお茶で口中を洗って、次なる握りすしを待っ。これが、長く伝えられる江戸前ずしの流儀である。
小野二郎さんの作るガリは、酸味がやや強い。二郎さんの握ったすしを食べた後に口に入れたとき、味がすっと”切れる”加減だ。薄く削ったショウガに熱湯をかけて辛みをやわらげ、固く絞ってから酢に塩、白ザラメを加えた合わせ酢に漬ける。最初のうちはとがった酸味も、半日から1日以上漬け込むことでショウガとなじみ、丸みが出てくる。一年を通じて仕込んでいるが、春先の新ショウガの季節になると、もっとも仕込む量が多くなるという。やわらかくて辛さも強くないため、客が食べる量も増えるからだ。この時期のガリは色も美しい。新ショウガをサッと酢に漬けただけで淡いピンク色に変わる。夏になるとこのピンク色は消えるが、ニ郎さんのガリは、一般的に流通されているヒネショウガではなく、生産者によっていい状態で山の中に保管された新ショウガを使って作る。「春先のガリをとても喜んで食べていただけるのですから、そのおいしさをずっとお出ししたいんですよ」脇役にも手を抜かない。二郎さんの真摯な姿勢が垣間見える。
2. 新ショウガの皮をむき薄く削ってからザルに並べ、熱湯をかける。
3. 手を水で冷やしてから固く絞る。
4. 合わせ酢に入れ、半日~1日間以上、漬けておく。
管洋志―写真
本記事は雑誌料理王国第167号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第167号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。