海藻を起点に、海と食の未来を議論し、海の課題解決に挑む。第一回「海藻サミット」が開催。


日本の食卓を支えてきた豊かな海が今、深刻な危機に瀕している。磯焼けによる海の砂漠化や、漁獲量の激減。このままでは次世代に日本の豊かな食文化を残すことができない。そんな強烈な危機感から一般社団法人オーシャン フォレスト プロジェクトが発足し、去る3月8日、「第一回 海藻サミット」が開催された。料理人・生産者・研究者・企業・自治体・メディアが一堂に会し、海藻を起点とした海と食の未来を議論した。

海を再生し食文化を守るプロジェクト


「現代の日本の食事情は大変なことになっています」



去る3月8日、京都調理師専門学校で行われた「第一回 海藻サミット」の冒頭において、日本料理店『菊乃井』の主人でオーシャン フォレスト プロジェクトの発起人である村田吉弘さんは参加者に訴えかけた。

冒頭で挨拶する村田さん。「50年後は60歳以上が45%を占め、働く世代が少ない社会構造になる。アジア諸国が経済発展を遂げる中で日本の国際競争力は低下しており、食全体を考えないといけない」と強く訴えかけた。

日本の人口は現在1億2600万人であり、エネルギーベースの食料自給率(日本人が1日に摂取するエネルギーのうち、国産でまかなえている比率)は37%。50年後には人口が8000万人に減少し、その際の食料自給率は19%まで落ち込むと予測されていると話す。

さらに深刻なのが日本の海の現状だ。海水温の上昇や藻食動物による食害によって海底の岩肌から海藻が消える「磯焼け」が各地で進行。海藻が失われることでそこを棲家や産卵場所としている魚が姿を消し、漁獲量はピーク時の3分の1にまで落ち込んでいる。

「海藻は古くから日本料理を支えてきた大切な恵み。このままでは日本の食が危機に瀕するため、これからの食をどのように考え、行動していくかが大切です。このオーシャン フォレスト プロジェクトでは、これまで日本各地で藻場(海藻が覆い茂っている場所)の再生や生産に取り組んできた研究者や生産者、企業、自治体といった活動者のプラットフォームにしたいと考えています。そして皆で連帯し、次の時代に何をするのかを考える場にしたいです」

この呼びかけに呼応するかのように熱気を帯びた同イベントでは、定員150名の枠に対して170名もの応募が寄せられ、各関係者らが来場。日本の海と食の危機に対して強い関心があることを示した。

きっかけは、危機感が引き寄せた出会い

今回のイベントは「一般社団法人グッドシー」と「一般社団法人オーシャン フォレスト プロジェクト」の共催によって実現した。

前者の「グッドシー」代表を務める友廣祐一さんは、度々『料理王国』本誌でも伝えてきた海藻の栽培技術・種苗開発を行うスタートアップ「合同会社シーベジタブル」の代表でもある人物だ。

右から友廣さん、村田さん、(合)シーベジタブル海藻生態担当の新井章吾さん、福井県三国町の海女、石森実和さん

「シーベジタブル」で取り組む海藻養殖が生態系に与える効果を「グッドシー」では定量的に調査・証明し、海藻の食文化の掘り起こしや教育啓発活動、漁村の雇用創出などを行っている。しかし、海藻の認知拡大や生産を持続的に広げるためには、海藻の消費を拡大しなければならず、新たな海藻の調理法や食べ方の開発・提案については苦戦していたという。

一方、冒頭のような昨今の日本の食料危機を憂い「次世代を担う若者たちと今何をすべきか、を考えて状況を前に進めていかなければならない。日本の食が置かれている実情を知らない人が増えすぎている。これは無関心と同等で食文化衰退に向かう一番怖いこと」と強い危機感を抱いていたのが村田さんだ。

そんな2人が数年前に出会い、海藻の消費拡大に悩む友廣さんに対して「新たな食べ方を考えて消費者に提案し、食文化として定着させることに関しては私ら料理人の仕事だ」と力強く引き受けた。

こうして垣根を超えた共鳴がプロジェクト発足のきっかけに。公益財団法人日本財団協力のもと『一般社団法人オーシャン フォレスト プロジェクト』を立ち上げ、今回の「海藻サミット」が実現した。

海藻を巡るパネルディスカッション

イベントでは研究者や生産者、農家、歴史家、美容プロデューサー、料理人など様々な分野の専門家が登壇し、海藻を巡る現状と未来についてのパネルディスカッションが行われた。

まず共有されたのは、深刻な磯焼けの現状。気候変動による海水温の上昇とアイゴやウニといった藻食動物の過剰な食害により、かつて存在した藻場の3、4割(場所によっては5割)が消失。これは九州から静岡までの森林が消滅したに等しい面積だというから驚く。この消失がサンマ、マグロ、といった水産資源の激減に直結しているという。

こうした危機に対する解決策として報告されたのが、ロープやケージを用いた「シン・モバ(新藻場)」と呼ばれる養殖藻場の有効性だ。天然の藻場再生が難しいなか、養殖藻場の周囲では稚魚やヨコエビといった小型の海洋生物が増え、海藻を養殖していないエリアに比べて魚の個体数が最大36倍に増加するというデータが示された。

藻場の消滅の原因は複合的ゆえ、すぐに復活させるのは難しい。まずは海の生物を育む場を作ることに目的を絞り、「シン・モバ」を整備。有効性が確認されている。

また、陸上養殖の技術の進化により約30種の種苗生産が可能になったことや、磯焼けの一因であるアイゴを適切に処理し、ブランド化して資源へと転換していく仕組みづくりが提案された。

一方で、海藻の生産を持続可能なものにするためには消費の拡大が重要となる。しかし日本人1人あたりの海藻消費量は過去18年で約50%減少している。

日本周辺には約1500種類の海藻が存在し、江戸時代の文献『料理物語』には多様な海藻の調理法が記されていたにもかかわらず、現代では「和食以外の料理のバリエーションが少ない」ことが消費の壁となっているという。

そこで登壇した料理人らが提示したのが、海藻の新たな価値創造。フランス料理の技術を用いて海藻と油脂分を合わせた海藻バターや、食感と酸味を活かして大量消費を促す海藻のピクルス、海藻のスープ、海藻アイスクリームといったデザートなど、多彩なアプローチが試食と共に披露された。

左から「チェンチ」坂本健さん、「一子相伝なかむら」の中村元紀さん、「レフェルヴェソンス」の生江史伸さん、農学博士の川崎寛也さん(味の素食品研究所)。セッションでは新たなアプローチで考えられた海藻料理が振る舞われた。
写真は試食で振舞われた「レフェルヴェソンス」の生江史伸さんによる「ジャンボンブール」。バターをスジアオノリを加え混ぜた海藻バターとし、風味を加えた。具材のひとつにワカメとアカノリのピクルスを挟んで酸味を添え、食べ飽きない構成とした。

さらに議論は食の世界にとどまらず、海藻成分のマグネシウムを活かした肌に優しい化粧品の開発や、海藻を有機肥料として活用し、野菜の旨み向上や虫除けに役立てる循環型農業の事例も紹介された。

海に可能性を見出し、次世代へバトンを繋ぐ

深刻な海の現状を知ることとなった今イベント。だがしかし、今回、海に携わる人々や料理人から頻繁に聞こえてきたのは「海には再生する力があるため、可能性しかない」という力強い言葉だ。

産官学、そして料理人が共創することで海藻消費を拡大し、生産を増加し、藻場を再生し、海の循環を回復して食文化を発展させる。そうした循環を目指すオーシャン フォレスト プロジェクト。今後は、磯焼けの原因となるアイゴなどの未利用魚を加工し、「オーシャン フォレスト」の認証シールを貼って販売する具体的な取り組みを進めていくという。

さまざまな海藻を用いた多彩な料理を、パネルディスカッションでの試食と懇親会で体験。

「少々値が張ったとしても、食べることが海の再生に繋がるという価値を消費者に深く理解してもらい、継続的な購買行動へと結びつけたい」と村田さん。さらにこれまで漁師が廃棄していた魚を買い取って加工することで、漁師や加工業者が潤う経済の仕組みを作る狙いだ。

またプロジェクトの支援金を最大限に活用し、次代を担う若手料理人たちを藻場や海藻洋食の産地へ連れて行く実地研修や、若い人たちが様々な料理を披露できる場を設けるなど、海の再生を循環しつつ若手が実践的に学べる土壌づくりを進めたいと話した。

立食形式の懇親会では「木乃婦」の高橋拓児さん、「ミルパ」のウィリー・モンロイさん、「魚三楼」の荒木裕一朗さん、「モトイ」の前田元さん、「てのしま」の林亮平さん、「シーベジタブル」の塚本みなみさんと濱田航さんら料理人が料理を提供した。
フレンチ、イタリアン、メキシコ、和食の海藻料理が提供された今回のイベント。料理ジャンルに関わらず、海藻を生かす余地はまだまだあると気付かされた。

text: 佐藤良子
photo: 料理王国、主催者提供

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