「肉を選ぶ際には、格付けやブランドはあまり気にしません。実際に素材を見て、触れて、調理して判断します。産地に行って、生産者と直接話すことも大事ですね」と、関谷健一朗さん。
「豚に限らず牛や羊も、フランス産のものを使っていたこともありましたが、国産の肉のおいしさがわかったので、今は日本のものを選んでいます。
肉は形を崩さないよう、焼く前にタコ糸を巻いて固定。骨付きで、なるべく大きな塊で調理することを心がけているのは、極力自然なままで調理しようと考えているからだ。
「骨付きの方が縮まず、繊維が壊れません。包丁は、入れれば入れるだけ肉にストレスがかかります」火入れには鉄板を使う。じっくりと加熱したあとバターを加え、焦がさないように鉄板の温度を見ながら、泡立つバターの上で時間をかけてローストし、香ばしい風味を出す。
たっぷりのタイムとローズマリー、ニンニクで香りを付け、仕上げにバターと豚肉のジュを合わせたソースをからめる。
付け合わせは、青森県産の黒ニンニクと白ニンニクのペースト、さっぱりとした酸味のあるベコニアの花と葉、そして、ジャガイモとキャベツのアンブーレ。「豚肉とキャベツの組み合わせは、フランスのシュークルートや中華の回鍋肉、日本のとんかつと千切りキャベツなど、世界中にあります。キャベツは、豚にもっとも合う素材なのではないでしょうか」。付け合せにもクリエイティブな配慮が行き届き、華やかで美しいガストロノミーのひと皿だ。
関谷さんは、吟味した素材を、触感や、沸き立つ香り、そして鉄板の上のかすかな音の変化など、あらゆる感覚を研ぎ澄まして絶妙に火入れする。
「肉のやわらかさを偏重するような流れもありますが、僕は、しっかりした嚙みごたえもおいしさにつながると思います」
皿には、シェフの肉に対する繊細な感性が息づいている。
匠へのQ.
多くのスタッフを率いて安定した肉料理を提供する秘訣は?
A.
技術の研鑽はもちろんですが、ゲストとの距離が近いこの店のオープンキッチンが、スタッフの高いモチベーションにつながっていると思います。
Kenichiro Sekiya
1979年千葉県生まれ。ホテル勤務を経て、2002年に渡仏。「ルカ・キャルトン」などの名店を経験後、06年パリの「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」に入店。翌年にはスーシェフとなり、同店は08年にミシュラン二ツ星を獲得した。10年より六本木の「ラトリエ」料理長に就任。
上村久留美=取材、文 伊藤信=撮影
本記事は雑誌料理王国2015年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2015年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。