シェフが惹かれる生産者。高知県・黒潮町【黒糖】


自分たちが安心して暮らせる場所を探して

線が細くて一見頼りなげに見える田波夫妻。だが、ふたりとも強い意志の持ち主だ。「これまでも人の意見に惑わされることなく、自分の価値観を大切に生きてきた」と口を揃える。友人の紹介で20年ほど前に出会ったふたりは、憲二さんが千葉、頼子さんが東京の出身。憲二さんは大学卒業後、通信会社で電話回線をつなぐ仕事に携わっていたが、「長野県で一緒にツリーハウスを作る仕事をしよう」という頼子さんの提案に共感。入社8カ月で会社を辞めた。「トム・ソーヤ」の世界こそ、頼子さんの憧れ。交際2年目のことだった。

黒糖は板に流してから割り、それを木箱に入れて乾燥させる。田波さんたちが作る黒糖はきれいな黄金色。黒糖は精製しないで作るので、原料のサトウキビの質がそのまま色や味に出る。「ごまかしがきかない」と言う。
黒糖は板に流してから割り、それを木箱に入れて乾燥させる。田波さんたちが作る黒糖はきれいな黄金色。黒糖は精製しないで作るので、原料のサトウキビの質がそのまま色や味に出る。「ごまかしがきかない」と言う。

沖縄めざしてテント生活をしたり キャンピングカーで日本各地を巡る

さらに、仕事最優先の人生は選びたくない。自分たちが幸せと感じるライフスタイルを貫きたいと思ったふたりは、理想の暮らしを探して日本各地を旅した。原付バイクにテントを積んで1カ月半かけて沖縄をめざし、サトウキビの収穫で生活費を稼いだこともある。

その後、一度東京に戻ってアルバイトに精を出し、キャンピングカーを購入すると、今度は本州から四国方面へ。高知では友だちもできた。キャンピングカーに寝泊まりしていると仕事を世話する人がいて、道の駅で働き、高知県でもサトウキビの収穫を手伝った。「ここは暮らすのによいところ」。そのまま高知県に住んで入籍。本格的な黒糖作りへと踏み出したのだ。

黒糖に固まる寸前で釜から上げた蜜を「ボカ」と呼ぶ。 100%サトウキビエキスのボカは、生産量が少ないため、ほとんど地元でしか出回らない希少な蜜。これにナッツ類をからめた「ボカナッツ」も人気商品。
黒糖に固まる寸前で釜から上げた蜜を「ボカ」と呼ぶ。 100%サトウキビエキスのボカは、生産量が少ないため、ほとんど地元でしか出回らない希少な蜜。これにナッツ類をからめた「ボカナッツ」も人気商品。

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