牛肉、豚肉に続いて最後は羊肉の料理。堀江さんは3年前から北海道の十勝平野にある牧場「ボーヤファーム」を何度か訪れ、一頭買いでラム肉を仕入れるようになった。
「ここの羊は放牧させるだけではなく、丘陵地で牧羊犬に追わせているから、運動量が多くて肉が健康的。ピエモンテの羊も、山の登り下りがあるからおいしくなるんです。一頭買いしているので、料理をしていると神聖な気持ちになりますね」
まずはロース肉。さて、どんな料理が登場するかと思いきや、ラムチョップを丸ごとダイナミックに盛り付けた、ナポリ風のラグースパゲッティが完成。
「このソースは、いわゆるアメリカのミートボール・スパゲッティの原型のようなもの。アメリカに渡って、ケチャップや肉団子を使ってアレンジされたんです」
一見、シンプルなトマト煮込みに見えなくもないが、フライパンでローストしたラムチョップにハーブや香味野菜の香りを移し、白ワインや牛ブロードと一緒に煮込むことで、野菜や肉汁のおいしさが詰まった、複雑みのあるソースとなった。
そしていよいよ6品のトリを飾るのは、堀江さんが「もっともイタリア料理らしい肉料理」と語る「ラムの骨付きスネ肉の香草ロースト」。骨付きのラムを白ワインで何度もフランベしながら、手間を惜しまずローストし尽くした豪快なひと皿だ。リストランテというあらたまった空間で、あえて骨付きの羊にかぶりついていただこうという、堀江さん流の遊び心も隠されている。
まずオーブンでローストする前に、香味野菜と一緒に羊を鍋で焼く。「肉を転がしつつ弱火でじわじわ火を入れることで、肉の表面に分厚い膜ができるんです。だから後でオーブンに入れたときも、中心に火が入りすぎることなくジューシーに仕上がる。高温で焼くと、薄い膜で覆われるので肉がパサつきます」
オーブンに鍋を入れたら、あとはどれだけ愛情を持って鍋を見守るかが、この料理の勝負どころ。羊に神聖さを感じるという堀江さんの愛情の深さが、ていねいにカラメリゼされた皿に表れていた。
肉は、肉だけでは料理としては成り立たない。細心の注意と調理技術によって、初めて脇役の野菜たちと共存し、肉の特性が最大限に引き出される。そんなごく当たり前のことを、今あらためて強く実感させられる、渾身の肉料理6品であった。
羊のラグーナポレターノ骨付きロース添え
表面をていねいに焼き固めたラム肉を、野菜やハーブたっぷりのトマトソースで煮込んだナポリ風のラグー。骨付きを煮込むことでコクを出し、仕上げに白ワインと牛ブロードを加えることでトマト味に深みが増した。
Point1
骨付きラム肉は小麦粉をまぶし、熱したフライパンで表面を焼き固めて旨味を閉じ込める。塩、コショウでしっかりと味付けしておくのもポイント。
Point 2
別の鍋にオリーブオイルを入れ、弱火でニンニク、ハーブ、赤トウガラシの香りを立たせたら、オリーブのみじん切りを炒め、そこにPoint1で焼き固めた骨付きラム肉を入れる。トマトソースと煮詰めた白ワイン、牛肉の骨とスジでとった牛ブロードを加えて煮込む。
<料理に使用した羊肉>
●生産地/北海道十勝平野
●種類/月齢12カ月のサフォーク種のF1(交雑種)。ラムではあるが力強い味わいで、ほどよく香りが残されているのが特徴(写真上がロース肉、下がスネ肉)。
ラムの骨付きスネ肉の香草ロースト
オーブンに入れ、途中、何度も白ワインでフランベされたスネ肉は、身離れがよく、羊のスネ肉の持ち味がギュッと詰まった野趣あふれる味に。骨ごと羊のおいしさを食べ尽くす、まさにピエモンテの山の料理。
Point 1
骨付きの羊のロース肉は、弱火でじっくりと焼き目を付けて表面に厚い膜を作る。乱切りにした香味野菜やハーブとともに互いの旨味を引き出す。この段階で野菜にもしっかりと火を通すことで、後に羊の肉汁と混ざって味に凝縮感が生まれる。
Point 2
鍋で表面を焼き固めた肉は、鍋ごと180℃のオーブンに入れて、およそ2時間ロースト。途中、肉を転がしつつ、肉の表面が乾いたら、何度も白ワインをふってフランベする。時々、鍋底の肉汁でアロゼしながらカラメリゼの状態に仕上げる。
沖村かなみ=文・構成 太田恭史、山家 学=写真
本記事は雑誌料理王国181号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は181号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。