店でいちばん料理の上手な者がまかないを作るのがルール ラッセ 村山太一さん


ラッセ 村上シェフ
Taichi Murayama
1975年、新潟県生まれ。京都の料亭などで修業をしたのち、2000年に渡伊。二ツ星2店を経験後、三ツ星レストラン「ダル・ペスカトーレ」で、シェフのナディア・サンティーニのもと、イタリア料理を徹底的に学ぶ。08年に帰国。 11年5月、オーナーシェフとして独立、「ラッセ」を開く。

北部イタリア最大の都市ミラノから、車で南東へ2時間足らず。豊かな自然に囲まれたマントヴァの郊外に、村山太一さんが3年間働いた「ダル・ペスカトーレ」はある。1996年以来、ミシュランの三つ星を獲得し続ける厨房で腕を振るうのが、シェフのナディア・サンティーニさんだ。2013年には、「世界のベストレストラン50」の部門賞のひとつ、ベスト女性シェフ部門に選出された。彼女の料理を食べるために、世界中から食通が集まる。

三つ星シェフが毎日のまかないを作るのが慣習

「でもね、ナディアは自分が三つ星レストランのシェフだなんて、まったく意識していないと思います」と村山さんは言う。感覚は、ごく普通のイタリア家庭の主婦。だから、まかないもナディアさんが当たり前のように作る。まかないというより、家族や友人と食べる昼ご飯、晩ご飯という感じと村山さん。「ただ、ダル・ペスカトーレに入って2年目くらいから、僕がスーシェフのような立場になって……。それからは、ナディアが忙しかったり、体調が優れなかったりすると、僕がまかないを作るようになりました」
ナディアさんは、仕事に厳しい。「半端なことをすると、こっぴどく叱られました」だから、厨房では一瞬たりとも気が抜けない。トップアスリートが、毎日試合をしているようなものだった、と村山さんは言う。「ナディアの一挙手一投足も見逃さず、彼女の頭のなかを読み、彼女が思い描くイメージを完ぺきに再現するように心がけました。ダル・ペスカトーレで働く者は、それが仕事だったのです」それだけに、まかないを作るときも緊張した、と村山さんは言う。「このナスのフライも、ナディアがよく作ってくれた料理。イタリアの一般的な家庭料理のひとつです」褒めてくれることは、まずない。「ですから、叱られなければ『合格点だったのかな』と思っていました」


休日、店の前を自転車で通った。掃除をしていたナディアさんが、村山さんに声をかける。「太一、昼ご飯はどうするの?」「ウチで何か作りますよ」「だったら、ウチで食べていけば?」庭でナディアさん一家と食卓を囲んでいると、隣人が自家製のワインを手土産に、団らんに加わる。楽しいおしゃべりは尽きない。「休日に限らず、仕事の合間に、たわいもないことをしゃべりながら食べる食事は楽しかったですよ」村山さんにとってまかないは、厳しくも温かい〝マンマ〟の思い出なのだ。

lasse ラッセのまかない ナスのフライ
揚げ上がった直後のナスに、たっぷりとパルミジャーノ・レッジャーノをかけるのがポイント。良質な自家製バターとパルミジャーノ・レッジャーノの旨味が溶け合って、奥深い味わいに。

まかないは味覚を育てるもの
「だから、おいしくないとダメなんです」

「まかないは、ただお腹を膨らませるものではありません。味覚を磨くためのものなんです」と村山さんは言う。だから、おいしくないといけない。つまりは、店でいちばん料理が上手な人間が、まかない担当ということになる。「実際、この店を開いたときから、まかないは僕が作ってきました。スタッフには、ウチの味を覚えてもらいたいから。僕自身もナディアの料理を食べながら味を覚えていったので、自分がまかないを作ることに違和感はありません」 
村山さん自身が作るので、特別な“まかいないルール”はない。「ただ、まかない用に食材を調達することは、ほとんどありません。魚のアラや肉の切れ端、残った野菜などを利用することが多いです」

lasse ラッセのまかない ナスのフライ
皿に残ったバターには、パルミジャーノ・レッジャーノの旨味も溶け込んでいて美味。最後は、パンでバターを拭い取って完食。スタッフたちも、ナディアさん直伝の味を楽しんだ。

ラッセ村山太一さんのまかない ナスのフライ

ラッセ村山太一さんのまかない ナスのフライ

材料(4人分)
米ナス・・・1個/バター・・・ナスがひたひたになるくらい/小麦粉、卵、パン粉・・・適量/パルミジャーノ・レッジャーノ、塩・コショウ・・・適量

作り方

(1) 材料の下処理。米ナスは皮をすべてむいて(A)、厚さ1㎝ほどの輪切りにする(B)。

イタリアのナスは大きいため、今回は米ナスで代用しました

ラッセ 村山太一さんのまかない ナスのフライ
ラッセ 村山太一さんのまかない ナスのフライ

(2)-1 ナスの両面に塩・コショウをふる(C)。
(2)-2 ナスに、小麦粉、卵、パン粉をしっかりまぶす(D)。

塩・コショウを少し多めにふり、ナスにしっかり味をつけておきます

ラッセ 村山太一さんのまかない ナスのフライ
ラッセ 村山太一さんのまかない ナスのフライ

(3) 衣をつけたナスにパルミジャーノ・レッジャーノをたっぷりまぶす(E)。

揚げるときにはがれてしまわないように、両手でしっかりパルミジャーノ・レッジャーノをナスに押しつけます(F)

ラッセ 村山太一さんのまかない ナスのフライ
ラッセ 村山太一さんのまかない ナスのフライ

(4)-1 ナスがひたひたになるくらい大量のバターをフライパンに入れて、溶かす(G)。
(4)-2 (3)のナスを入れ(H)、スプーンでバターをナスの上にかけながら(I)、ナスの表面がこんがりきつね色になるまで揚げる。
(4)-3 ナスと一緒にバターも皿に盛り(J)、最後にパルミジャーノ・レッジャーノをたっぷりかける。

ラッセ 村山太一さんのまかない ナスのフライ
ラッセ 村山太一さんのまかない ナスのフライ
ラッセ 村山太一さんのまかない ナスのフライ
ラッセ 村山太一さんのまかない ナスのフライ

lasse ラッセ

LASSE
ラッセ

東京都目黒区目黒1-4-15 ヴェローナ目黒B1F
03-6417-9250
● 12:00~15:00(13:00LO)18:00~23:00(21:00LO)
● コース 昼2600円(平日のみ)~、夜7700円~
● 日・第1月休
● 24席
http://lasse.jp/

山内章子=取材、文 依田佳子=撮影

本記事は雑誌料理王国2019年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2019年5月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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