大航海時代のポルトガル料理とアジアの食文化が交わる!唯一無二のマカオ料理


世界には、植民地時代を経験した国がたくさんあります。中国特別行政区であるマカオもそのひとつ。ポルトガルの植民地でしたが、1999年中国に返還されました。マカオが「東洋と西洋の交差点」といわれるのは、植民地時代に加えて15~17世紀の大航海時代にヨーロッパ出身の冒険家たちがマカオに多大なる功績を残したからなのです。

日本から飛行機(直行便)で4~5時間。世界遺産のあるマカオ半島は特に人気の観光エリア。聖ポール天主堂跡も世界遺産のひとつだ。

2017年、「ユネスコ食文化創造都市(シティ・オブ・ガストロミー)」に認定されたマカオにはアジアとヨーロッパが交わったマカオミクスチャーな料理がたくさんあり、その背景を知れば、食べた時のおいしさも倍増しますよ。

◆冒険家たちの究極の産物「アフリカンチキン」

マカオの名物料理であり、冒険家の足跡や功績を知るのに欠かせないのがアフリカンチキン。ココナッツミルクとスパイスが効いた鶏肉の煮込み料理です。

トマトとココナッツミルクのコクが広がり、チリソースの辛みもしっかりある。ソースはパンですくって最後まで残さず食べる。

鶏肉はアフリカの炭火で焼いた「ピリピリチキン」(唐辛子または辛いという意味の鶏肉)が原型となったグリルチキンを、ポルトガル料理に欠かせないパプリカやニンニク、スパイス貿易の要であるインドのコショウやクミン、東南アジアの食生活に欠かせないココナッツミルクのソースで煮込めば完成です。

実はこれらの食材は、大航海時代の冒険家たちの寄港地とリンクしています。ポルトガルを出発した冒険家たちはインド洋からアフリカ東部にあるモザンビーク、インド南部のゴア、マレーシア南部のマラッカを訪れていました。そして、これら寄港地から運ばれた産物がマカオに集結することになるのです。

それぞれの国から集まった調理法や食材によって、ヨーロッパにもアジア諸国にもない、マカオ独自のアフリカンチキンが生まれました。お店によってソースに特徴があり、スパイスを効かせた濃厚ソースだったり、逆にスパイスを控えた、さっぱりタイプのソースのアフリカンチキンもあります。また、ピリピリチキンをメニューに掲げている店も。店によっての個性が出るので、食べ比べすることをおすすめします。

そんなアフリカンチキンは、ポルトガルレストランで食べるのが一般的です。特に、マカオ半島に2店舗を持つ「GALO」のチキンはふんわりとジューシー。いつも陽気なお客様でいっぱいの人気店です。すっきりフルーティーなヴィーニョ・ヴェルデというポルトガル産白ワインが合うので一緒にどうぞ!

◆マカオの食卓に欠かせない「ミンチィ」

まさに「おふくろの味」といっても過言ではないのがこのミンチィ。その名からも想像がつくかもしれませんが、肉を挽いたミンチが名の由来となったという粗挽き肉の炒め料理です。

目玉焼きを崩しながら食べるとより美味。小さい子供からお年寄りまで幅広い層に受け入れられる優しい味だ。

塊肉をミンチにして、オイスターソースで味付けしています。ポルトガルでは、ジャガイモを主食として食べる習慣があり、この料理にもジャガイモが欠かせません。作り方も簡単なので、家庭のおかずの代表格といえるでしょう。日本の肉そぼろのように甘しょっぱくて、もうごはん無しではいられません。

16世紀にはマカオに移住するポルトガル人のコミュニティーが形成され、マカオに定住したポルトガル人と現地の人との間に生まれた子孫たちは、「マカエンセ」と呼ばれています。その人たちの食文化が、今のマカオ料理のひとつにもなっていて、このミンチィも家庭からレストランへと広がっていきました。なので、ポルトガルレストランでも広東系の食堂でも、幅広い店で食べることができます。

せっかく食べるのであれば、マカエンセのシェフが営むポルトガルレストランがおすすめです。かつては遊郭エリアとして栄えた福隆新街に「Belos Tempos」はあります。ミンチィには、大きく2つの調理法があって、ジャガイモを一緒に炒める方法と一緒に炒めずに添える方法です。この店のは前者で、ジャガイモにもオイスターソースの味が染み込んでより家庭的な素朴な味わいになります。筆者もこちらのタイプの方が好きですね。

◆マカオで食べる2種類の「エッグタルト」


最後に甘いスイーツをご紹介します。マカオ料理は知らなくても、エッグタルトならば知っているのでは?

甘くて濃厚なエッグタルトだが、パイがサクッとしていて食べやすい。焼き立ても良いが冷やして食べてもおすすめ。

エッグタルトには、ポルトガル式と広東式の2つのタイプがあります。これは、東西融合ではなく、サクッとパイ生地のポルトガル式と、しっとりクッキー生地タイプの広東式というまったく別物のエッグタルトなのです。どちらも街のパン屋さんに売っているほどの身近な存在ですが、マカオ名物となっているのはポルトガル式エッグタルトの方です。

おすすめは、のどかな田舎町の風景が残る南部のコロアンにある「Lord Stow’s Bakery」です。支店分も合わせて1日2万個を焼き上げるといいます。卵の黄身をふんだんに使用した濃厚なタルトで、しっかりと焼き色を付けるのが特徴です。サクサク感が心地良くおやつにぴったり。広東式と食べ比べしてみると楽しいですよ。

アジアとヨーロッパの交差点といわれるマカオの食の魅力、少しでもわかっていただけたでしょうか。他にもスパイスを効かせた料理やココナッツミルクを多用したデザートなどがたくさんあります。

そうなると、日本でもマカオ料理が食べてみたいと思われる人も多いかと思いますが、残念ながら、日本にマカオレストランはありません。では、どうやって楽しむかというと、ポルトガルレストランや広東レストラン、香港レストランに行くのがおすすめです。

最後に少しご紹介させていただきますので、ぜひ未知なるマカオ料理の雰囲気を味わってみてくださいね。

■「マヌエル」

マカオに本店があるポルトガルレストラン。都内に4店舗あり、マカオでも食べられているバカリャウ(干しタラ)料理がおすすめです。魚介をメインにしたり、家庭料理をメインにしたりと店舗ごとにコンセプトが異なります。

http://www.pj-partners.com/manuel/index.html

■「香港贊記茶餐廳(ホンコンチャンキーチャチャンテン)」

茶餐廳とは、メニュー豊富な大衆食堂のことです。マカオにも街の至る所にあります。現地でも人気のインスタント麺の料理から本格的なチャーシューまで、広東ならではの味がリーズナブルに楽しめます。

https://chankichachanten-iidabashi.jp/

■「アンドリューのエッグタルト」

「Lord Stow’s Bakery」の日本店です。1999年に初上陸して、エッグタルトブームを巻き起こした名店です。イチゴや抹茶などのフレーバータルトもあります。関西を中心に店舗、催事出店多数。

https://www.eggtart.jp/index.html

*2020年5月1日現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、営業の変更が生じています。詳しくはHPをご確認ください。


伊能すみ子
アジアンフードディレクター/1級フードアナリスト

民放気象番組ディレクターを経て、食の世界へ。アジアンエスニック料理を軸に、食品のトレンドや飲食店に関するテレビ、ラジオなどの出演及びアジア各国料理の執筆、講演、レシピ制作などを行う。年に数回、アジア諸国を巡り、屋台料理から最新トレンドまで、現地体験をウェブサイトにて多数掲載。アジアごはん好き仲間とごはん比較探Qユニット「アジアごはんズ」を結成し、シンガポール料理を担当。日本エスニック協会アンバサダーとしても活動する。著書『マカオ行ったらこれ食べよう!』(誠文堂新光社)。


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