ポルトガルの二つ星シェフ、ロンドンの最旬エリアにイベリア料理で颯爽登場!


リスボンを拠点に世界中で活躍するミシュラン二つ星シェフ、エンリケ・サ・ペソアさんが、今年になってロンドン初進出。現代ポルトガル料理の最高峰をカジュアルに楽しめる、ホテル・レストランの誕生だ。

夏のロンドンは、ルーフトップが熱い。首都のスカイラインはあくまでも流麗で、特上カクテルを片手にリラックスできるホテルの屋上テラス席は争奪戦となる。そんな眺めと個性を兼ね備えた最高ロケーションで、ミシュラン二つ星シェフの料理をいただけるホット・スポット「JOIA」が今、話題だ。

今年2月にオープンしたJOIA(ポルトガル語で宝石の意)は、芸術をテーマとしたホテル・チェーン「Art’otel」の最上階2フロアに位置している。真横にそびえるのは、ロンドンで近年最も華々しい再開発プロジェクトである「バタシー・パワー・ステーション」の元発電所を利用した巨大な建造物だ。ショピング・モールとして生まれ変わったビルは、ピンク・フロイドのアルバム「Animals」のジャケット撮影ロケーションとしてもよく知られている。

JOIAの厨房指揮を執るのは、リスボン生まれのスター・シェフ、Henrique Sá Pessoa / エンリケ・サ・ペソアさん(写真下)だ。ポルトガルやスペインはもちろん、シドニー、シンガポール、ロンドンなどの高級ホテルを渡り歩いた後、2009年に初のソロ・プロジェクトとなる「Alma」をリスボンにオープン。2015年にリロケーションした翌年、念願叶ってミシュラン一つ星を獲得し、その2年後に二つ目の星がもたらされた。高級料理業界が未発達だったポルトガル国内で、栄えある3人目の二つ星シェフとなったのだ。

15階のバーからの眺め。バタシー元発電所の巨大な煙突を望む特等席。
エグゼクティブ・シェフのエンリケ・サ・ペソアさん。
©Nick Andrews
16階にある屋上テラス。レストランとほぼ同じ料理をいただける。

エンリケさんは、現代ポルトガル料理を牽引する存在として多方面で活躍中だ。複数の国内料理番組への出演とプロデュース、数多くのレシピ本出版などで外食産業に貢献しているだけでなく、2005年には国内シェフ・オブ・ザ・イヤー、2017年にはポルトガルGQ誌のグルメ部門メン・オブ・ザ・イヤーを受賞。2021年には「ザ・ベスト・シェフ・アワード」で世界ランク38位の栄誉を受けている。

そんな彼のポルトガル料理、いや、あえて「イベリア料理」と謳っているが、それらは実に美しくソツがない。英国産とイベリア半島の最高食材を使用し、現代人が求めるカジュアルかつ重層感のある皿を見事に構築している。自然素材を生かすポルトガル料理は日本人に好まれるが、エンリケさんの料理はそういう意味でも直球ど真ん中だ。

例えばポルトガルらしい柔らかタコを楽しむサラダ。新鮮なジャガイモと赤ピーマンがハーモニーを添え、スモークパプリカが全体をまとめる。甘みを感じる最高級イベリコ豚の生ハムを惜しみなく載せたオープンサンドも、必ず試してみたいJOIA名物だ。いただいた皿はいずれもバランス感覚に優れ、ミシュラン・シェフの矜持を感じる。

JOIA名物のタコのサラダ。辛すぎず、甘すぎず、深みのあるソースでいただくエンリケさんの自慢料理。
ヘーゼル・ナッツを散らしたポロネギのロースト+ロメスコ・ソース。素材の味を満喫できる調和ある一品。
今のロンドンを象徴するレストラン・バーからの眺め。右は屋上のテラス・バー。

イベリア半島で隣り合わせているポルトガルとスペインだが、両国料理を根本的に分かつのは、究極的には塩加減ではないかと思っている。スペイン料理は濃厚で刺激的だが、ポルトガル料理は素材本位で優しい味だと感じることが多い。この違いは両国が生産するワインの味わいにも関係していると見ているが、さてどうだろう。

華のあるスペイン料理は多くのミシュラン・スター・レストランを生み出し、素朴なポルトガル料理は星の数では遅れをとっているかに見える。だがその事実は決して、両国の料理に優劣があることを語っているわけではない。個人的にポルトガル料理に心を寄せている筆者からすれば、ミシュラン・シェフによる衒いのないポルトガル料理を気軽にいただけるJOIAは、願ってもないニューカマーだ。

じっくり現代ポルトガル料理に向き合えるシェフズ・テーブルを擁する15階レストランもいいが、一フロア上の屋上テラスで爽やかな風に吹かれ、ピーチ・ダイキリやストロベリー・マルガリータを楽しむ夏も捨てがたい。見渡す限り飲食チェーンが点在するバタシー・パワー・ステーション界隈で、JOIAは志のある独立系のレストランとして、ひときわ輝いている。

レストランの奥にあるシェフズ・テーブル。©Matt Russell
屋上テラス・バーに隣接する宿泊客用のプール。パワー・ステーションの壮麗なビルに臨む。見ていると何のチェックもないので来訪者もこっそり使えそう。

JOIA
https://www.joiabattersea.co.uk

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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