世界中のグランシェフが愛する、佐賀の逸品「カマチ陶器」


シェフと結んだ共同戦線。内装と料理をつなぐものとして食器がある

グランシェフから、独立を目指す料理人までもが〝あの人のお皿を使いたい〞と願う、食器プロデューサーがいる。その人とは、佐賀県の「カマチ陶舗」代表取締役・蒲地勝さんだ。カマチ陶舗が提案する有田焼は、そのレストランの雰囲気に自然となじみ、料理を〝おいしく〞見せるが、じつはそれだけではない。誰もが「また蒲地さんにお皿を作ってもらいたい」と強く願うのはなぜなのか。

蒲地さんは、小さな頃から料理人に憧れた。カッコイイと思った。先代の父に連れられて行ったレストランは、どこも華やかで、テーブルまで挨拶にやって来るシェフは、少年にとってまぶしい存在だった。
 
20代になると、「食器屋をやるなら料理を知れ」という父親の勧めで「つきぢ田村」をはじめ、複数の調理場で働き、調理師免許をとった。今も、レストランで過ごす時間を愛し、シェフの熱意に触れるたびに心を打たれ、その度に身を引き締める。〝食器屋蒲地勝〟の心奥には、レストランへの愛が流れているのだ。

「食器から受けるイメージは視覚からが60%だが、有田ならではの分業の技術で、
そこに触覚や嗅覚をも入れ込みたい」と語る蒲地さん。

洋食器を始めた頃、蒲地さんはサンプルを手に、憧れだった西洋料理人たちの元を歩き回ったが、まったく相手にされなかった。それなら、と2004年に、必死の思いでパリに足を運び、気鋭のシェフ、ドミニク・ブシェ氏に直談判した。「リムの下に、フランス人の太い指が入るようにしてくれ」と言われた蒲地さんは、すかさず厨房に入って、料理人10人の指の太さを測って帰国。そのデータからすぐにサンプルを作り直し、ブシェ氏を驚かせた。

それ以降、日本でも新進の料理人からオーダーを受けるようになる。「カンテサンス」岸田周三氏や「ランベリー」岸本直人氏など、現在のミシュラン常連シェフが、まだ無名だった頃に、日本ならではの食器の開発を続けていたのだ。「料理人の方は、指を広げて『このぐらいの盛寸が欲しい』と、感覚的に表現される。そんな時、僕は間髪入れずメジャーを取り出して、その間隔を測る。何年もそれをやっていると、『これくらい』に、ある黄金比があることがわかるんです」

料理を盛った食器の画像を見せることもある。しかし全く同じ器のオーダーは受けない方針。

2007年、「ミシュラン・ガイド」が日本初上陸。蒲地さんの食器に盛られた料理の数々が誌面を飾り、「カマチ陶舗」の名は、全国の料理人の間に知られるようになった。

蒲地さんは、食器の依頼があった料理人に対し、まずこう問いかける。

あなたの料理は、お客さんの目にどう映りたいのか――。料理に情熱を傾ける料理人は、時として皿の上だけに集中しがちだ。それに対して、第三者の視線で指摘することで料理と食器、空間に目を向かわせる。「自分の店はどんな店か、5秒で言えないとお客さんに他店との差を訴えられない」

どんな食器を作りたいのか。つまり、自分が作りたい料理がはっきりしていると、食器の表現にも自ずと力が入る。

例えば丸い皿の場合、人間の目線は、時計の文字盤の11時、2時、7時の順に動く。そこに柄やアクセントを入れると、料理を盛り付けたときに、ゲストの気持ちが盛り上がるような風景が出来上がる。反対に、何もなければ、静止画のような美しさを演出することができる。

「有田焼は生地屋、型屋、窯元、錦屋(色付)と分業制で、それぞれに400年の歴史で培ってきた技術が豊富にあるのです。カマチ陶舗は特に表面の加工が得意なので、中間色を表現したり、凹凸で海のイメージを作り上げるなど、料理人のストーリーにぴったりした表現ができるのが強みです」。料理人の感性や想い
をデータ化して職人に伝える。指定と数ミリでも違えば、やり直しをさせる。厳しさがモノ作りに不可欠なことを、蒲地さんは知っている。

自分が食器を卸している店には、自ら食べに行くようにしている。そこで感じたことは、味だけでなくサービスの仕方まで意見をいう。「食洗機を使うお店だから、強度をつけよう」「内装に合わせた色遣いを」など、隅々まで観察して、ときには厳しいことも伝えるのは、「共同戦線を結んでいるから」と蒲地さん。「僕も、その店が繁盛してくれないと困る(笑)。だから真剣にシェフと向き合うんです」。

なぜ蒲地さんの食器を使うのか、とシェフたちに聞くと、「シェフへの理解と愛情」という答えが決まって返ってくる。

蒲池さんにとってレストランは、憧れの場所であり、愛する場所だからこそ料理人との会話が「我がこと」になり、それがオリジナリティを生む源流になっているのだ。

Le Musée
ル・ミュゼ(札幌) シェフ 石井 誠さん

「フルオーダーメイドできる柔軟さ。情熱。各シェフへの理解と愛情。最終的にはセンスの良さ」

Au gout du jour merveille HAKATA
オーグードゥジュール メルヴェイユ 博多
シェフ 小岸明寛さん

「店のサービスの流れまで把握し、洗いやすさや強度まで熟考してくれる。まさにフルオーダーメイドです」

HAJIME KOTO
ハジメ・コウトウ

シェフ 厚東 創さん

「皿だけでなく、料理人の道を進んでいく上でポイントポイントごとに向き合ってくれるのが蒲地さん」

ode
オード(東京)

シェフ 生井祐介さん

「私の店と料理には欠かせない"中間色の美しさ"を、的確かつ完璧に、器で表現してくれました」

蒲地さんのオリジナリティのルール

☑レストランのファンであり続ける
☑依頼者の良くないところや耳の痛い話をあえて言う
☑5秒で伝わるテーマが必要

Masaru Kamachi

1969年、佐賀県生まれ。有田焼の有田焼 照右ェ門窯「カマチ陶舗」に生まれ、2001年より社長職に。就任を機に、和食器から洋食器へ主力商品を変更。2007年の「ミシュラン・ガイド」の日本上陸で人気に火がつき、以降、西洋料理のシェフがこぞって使いたいと願う器として、広く認知される。2018年現在、世界15カ国23
都市のアッパークラスのホテル・レストランから食器製作の依頼が来ている。

Kamachi – toho
カマチ陶舗

佐賀県武雄市山内町三間坂12885-7
12885-7, Mimasaka Yamauchi-cho,
Takeo-shi, Saga,
☎0954-45-3581(代)
●土・日・祝休
www.kamachi.co.jp
東京ショールーム
東京都港区海岸3-9-10 芝浦海岸ビル LOOP-M
3-9-10, Kaigan, Minato-ku, Tokyo

横田典子=取材、文 富貴塚悠太=撮影

本記事は雑誌料理王国287号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は287号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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